December 06, 2022
【住友林業】100年を超える森林再生が事業の原点
住友林業は、住友家が約330年前に開坑した別子銅山に起こったことを常に振り返るという。
現在の愛媛県新居浜市に位置する別子銅山は、住友家が1691年に開坑し、その坑道の坑木や銅を製錬する燃料に使うための木材を調達する銅山備林を担ったのが住友林業の始まりだ。しかし長年にわたる過度な伐採と製錬で排出される煙害の影響から、別子銅山は19世紀の終わりには禿げ山と化した。1894年、住友家は別子の山林を再生する「大造林計画」のプロジェクトを開始した。
「100年以上かけて元の状態に戻した。そこが当社の精神的な原点、主柱になっている」と副社長の佐藤建は話す。
1899年には台風の直撃を受け、斜面が土砂崩れを起こして銅山施設が壊滅的な打撃を受けた。山肌が露出しているために植林をするための土壌を運ばなければならなかった。当時、浅い土壌でも生育する檜を植林したと佐藤は言う。
住友家は毎年100万本以上の植林をすることで山林を再生させた。別子銅山は1973年にその役目を終えて閉山したが、現地の自然は今でも維持されている。現在、住友林業は国内では北海道から九州にいたる約4.8万ヘクタールの森林を保有している。これは日本国土全体の約800分の1の面積であり、企業が保有する森林面積としては国内で3番目に大きい。
地球温暖化が喫緊の課題となる中で、住友林業は森林事業の重要性を認識している。国内の人工林は伐採適齢期を迎えていて、森林のCO2吸収量を増やすには、毎年計画的に古い木を伐採し若い苗木を植えることが重要だと佐藤は言う。というのも木は若いころにCO2を多く吸収し、高齢化すると低下していくためだという。さらに木は伐採されて木材になっても炭素は蓄えられたままだ。「木を使えば使うほど、そして新しい木に置き換えれば置き換えるほど、森林のCO2吸収量が増加し、社会全体の炭素固定量を増やすことができると考えている」と佐藤は話す。
一方、世界では森林の減少が問題になっている。この30年間で約1億7,800万ヘクタールの森林が消失し、これは日本の国土面積の約5倍にもなるという。ここ十数年での森林減少の要因の約70%が農地転用だ。「それを何とか食い止め、将来的には森林を増やすこと自体がビジネスとして成り立つようなエコシステムを作っていきたい」と佐藤は話す。
脱炭素社会の実現に向けた森林資源活用策として、住友林業は今年2月にグローバルな規模の森林ファンドを立ち上げることを発表した。このファンドはサステナブルな林業がすでに確立した北米やオセアニアの森林を中核資産として、東南アジアでは違法伐採や焼畑で荒廃した土地への植林や森林保全によるカーボンクレジットの創出に取組み、将来的には1000億円規模のファンドを目指す。出資者には森林資産が生み出す収益やカーボンクレジットを還元する。
さらに同社は森林の管理・保全のコンサルティング事業の拡大を目指す。同社はすでにインドネシア西カリマンタン州の植林事業で泥炭地管理のモデルを構築している。かつては違法な森林伐採や焼畑が繰り返され、大量のCO2排出につながっていた。住友林業はIHIと提携し、IHIが持つ人工衛星を活用した観測技術を泥炭地の保全と水位管理に活用する。
住友林業は現在、海外において約23万ヘクタールの森林を保有・管理している。この大半がインドネシアで、残りはニュージーランドとパプアニューギニアが占める。「2030年までには、国内外合わせた森林の保有・管理面積をIHIとの協業や森林ファンドの仕組みを利用して50万ヘクタールにするという目標を掲げている」と佐藤は言う。
Naonori Kimura
Industrial Growth Platform Inc. (IGPI) Partner
同社の起源は、住友家が開坑した別子銅山を、1894年から植林を実施し100年かけて元の自然に戻した事である。以降、森林との共生の中で多くの事業を立ち上げてこられた。近年のCO2削減の社会的要請に応える形で、これまでの取組みを結集して「ウッドサイクル」というソリューションを立ち上げ、カーボンニュートラルな社会実現へ世界レベルで貢献されようとしている。日本国土の1/800の面積を保有し、古くから“個としての視点”だけでなく、日本全体ひいては地球環境全体にまで視座を広げた長期的な事業活動は、まさに100年かけて自然を再生したDNAが脈々と生きていると感じる。社内に目を向ければ、行動指針にある「多様性の尊重」を旗印に、様々な働き方含めたダイバーシティを実践しており、多くの社員にとって満足度の高い環境構築も熱心に取り組んでいる。多様な事業、多様な人材を糾合する源は住友のDNAである別子銅山であり、顧客や社員なども集まり理念を共有されている。こうした強い求心力と超長期の時間軸で自然と寄り添う事業経営は、創業以来“サステナブル”そのものである。