December 24, 2021
【出雲 充】微細藻類ユーグレナで地球規模の課題を解決、ユーグレナ社の挑戦
2005年創業のユーグレナ社は「事実上不可能」とされてきた微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の食用屋外大量培養に世界で初めて成功し、健康食品からバイオ燃料まで、ユーグレナを活用した事業を幅広く手掛ける。創業者兼社長の出雲充氏は「ベンチャー企業の使命はゼロからイチを生むこと。どうせやるなら日本一、世界一難しい課題にチャレンジするのがベンチャー企業の存在意義」と言い切る。
大学に入学して初めての夏休み、訪れたバングラデシュで子どもたちが栄養失調に苦しむ姿に衝撃を受けた。「栄養価が高く子どもたちが元気になるものを探して届けたい」と栄養の勉強を始め、見つけたのが微細藻類ユーグレナだ。大学内に蓄積された膨大な「知の宝の山」(出雲氏)を基に研究を続け、実験室でしか育たなかったユーグレナを屋外で大量培養する技術を確立した。
創業時から「Food(食料)」「Fiber(繊維)」「Feed(飼料)」「Fertilizer(肥料)」「Fuel(燃料)」というバイオマスの5Fと呼ばれる5大用途を微細藻類ユーグレナで開発し、成果を社会実装することを「一番大事にしてきた」という。ユーグレナの成分を用いた機能性食品や化粧品を商品化し、飼料や肥料、バイオプラスチックの原料の開発にも取り組む。中でも日本政府が宣言した「2050年カーボンニュートラル実現」に貢献すると期待するのが次世代バイオディーゼル燃料の「サステオ」だ。
使用済み食用油とユーグレナの油脂などを原料とするサステオは、燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出するが、食用油の原料である植物とユーグレナが成長過程で光合成によりCO2を吸収するためカーボンニュートラルに貢献できるといわれている。日本は軽油に対するバイオディーゼルの混合率が5%以下に規制されている。それを超えるとエンジンの不具合や排出ガス性能の悪化が引き起こされる恐れがあるからだが、ユーグレナ社はいすゞ自動車のエンジンテスト協力のもと、石油を一滴も使わない、軽油に置き換わるバイオディーゼル燃料の開発に成功した。サステオは日本産業規格(JIS)と揮発油の品確法上ともに軽油と同じグレードと品質が認められており、既存のバスやトラックのエンジンに安全かつ安心して使用できるという。
日本のCO2排出量は年間約11億トン。最大の発電分野が4億トンで、ユーグレナ社は3番目に影響が大きい運輸・交通分野の2億トンのCO2削減にターゲットを絞る。
「バイオディーゼル燃料も混合率5%以下だとCO2削減に大して役に立たないと思われる方は多いが、サステオは軽油を100%代替できる。サステオは開発に10年を要したが、運輸・交通分野のCO2削減の切り札になると確信している。関連企業が得意分野の技術を持ち寄って協力すれば2050年カーボンニュートラルは必ず実現できるし、実現しなければいけない」と力を込める(出雲氏)
25年に「社会の価値観の大転換」が起き、気候変動や貧困問題といった社会課題の解決を後押しすると予想する。15~64歳の生産年齢人口の過半数をミレニアル世代とそれに続くZ世代が占めるようになるからだ。1980年生まれでミレニアル第一世代でもある出雲氏は「ミレニアル世代には利益を最優先する従来の資本主義に疑問を感じ、社会課題解決のために人生を使いたいという人が多い」と分析する。ミレニアル世代が有権者として意思表示をし、消費者としても「サステナブルな選択」を行う時代に取り残されないために、企業は何ができるのか。「大学、若者、ベンチャー企業とスタートアップを活用することだ」と、出雲氏の答えは明快だ。
「日本の課題はグリーン化とデジタルトランスフォーメーション(DX)。大学にはグリーン化に必要な技術が数多く眠っており、企業は大学との共同研究をもっとやるべきだ。ミレニアル世代の若者はデジタルネイティブなのでDXも得意だろう。(優れた技術やアイデアを持つ)ベンチャー企業やスタートアップを買収してもいいし、オープンイノベーションで協業してもいい。企業が次々生まれて活躍するようなカルチャーができればグリーン化とDXは必ず実現できる」(出雲氏)
学生時代のバングラデシュでの体験は、栄養豊富なユーグレナ入りクッキーを無償配布する「ユーグレナGENKIプログラム」の創設につながった。1食分のクッキー6枚で、バングラデシュの子どもたちに不足している栄養素1日分を提供できるという。食品、化粧品などユーグレナグループやパートナー企業の対象商品の売上げの一部を協賛金として利用しており、消費者は商品を買うことで社会貢献活動に参加する。賛同者は徐々に増え、当初毎日1000食だったのがいまは1万食を作り、1万人の子どもたちに届けている。
気候変動も貧困問題も地球規模の課題だ。例えば日本がCO2削減に成功しても他国が大量に排出していれば解決にならない。
「日本で成功した取り組みや技術を積極的に海外に輸出し、展開しなければいけない。地球規模の課題に取り組む日本のスタートアップの存在を広く世界に発信していきたい」(出雲氏)