May 27, 2022

伝統芸能をいまに接続するカルチャーツアー

ライター:春口滉平(KOUHEI HARUGUCHI)

岩手県、宮城県などに広く伝わる伝統芸能「しし踊り」。元々は狩猟した鹿を供養するものだったため、四つ足動物の総称である「しし」と、刀を持った人間とが一対一で対峙する踊りが見られる。いまでは地元の祭りの際に披露されるほか、人が亡くなった際の供養として踊られることもある。遠野市内だけでも13の団体が存在し、さまざまな踊りや装束の種類がある。 | PHOTOS: 三田村亮 / RYO MITAMURA

東北地域で400年続く伝統芸能「しし踊り」とは、狩猟で得た動物を供養するために始まった踊りである。生きとし生けるものへの感謝と供養が、いつしか人間の魂を供養する要素も併せ持つようになり、夏や秋の郷土祭りの際に踊りが披露される。

しし踊りのお面は、鹿、獅子、龍など複数の動物の集合として象られている。

岩手県遠野市にも、独自の「しし踊り」の風習がある。この伝統芸能を中心軸に据え、現代のアートや音楽と融合しながら、地域文化を深く体験するツアー型アートフェスティバル「遠野巡灯籠木(トオノ メグリトロゲ)」が2021年11月に開催された。遠野の民俗文化、芸能、食、音楽など、さまざまなカルチャーが織り交ぜられたこのイベントは、地域の伝統をより広く新しい方法で受け継ぐためのいくつもの入り口を私たちに用意してくれる。

各地域で実施される芸術祭の多くは、アーティストがある土地に集められ、キュレーションのテーマに合わせて作品を制作することが一般的だ。一方「遠野巡灯籠木」では、同様にアーティストを招聘しながらも、遠野という土地の文化や歴史を深く掘り下げることで、地域文化の持続性を保持し、伝統芸能と現在の文化をつなぐ試みとして企画された。

「遠野巡灯籠木」を共同で開催する富川岳は、東京都内の広告会社に勤務後、2016年に遠野に移住。いまでは遠野の豊かな地域文化を広く現代に伝えるべく、現地のツアーガイドや展覧会などの企画プロデュースを行なっている。「遠野に移住してしし踊りの魅力に取りつかれ、私自身が舞い手として活動するようになりました。しし踊りは、一方が霊獣、もう一方が刀を持った人間を演じ、人と自然の調和を表現しています。現代では人間が自然をコントロールしようとすることが多いですが、しし踊りでは人のほうが霊獣に圧倒されます。こうした自然と対峙するような考え方こそ、現代をサスティナブルな方法でとらえるきっかけになると感じています」。

「遠野巡灯籠木」でのしし踊りは、遠野の伝統的な民家を集め、古くからの山里の暮らしを体験できる施設「遠野ふるさと村」で披露された。踊り手以外にも、専属の太鼓や笛の楽団がある。
http://meguritoroge.com/home/

3日間のツアーで遠野をめぐる「遠野巡灯籠木」の参加者は、イベントのハイライトとしてしし踊りを鑑賞。さらにアーティストがしし踊りにインスピレーションを受けて制作したライブパフォーマンスも行われた。たとえば、しし踊りのメロディを自身の楽曲に用いるようなアーティストもいたという。

「遠野巡灯籠木」は、伝統芸能であるしし踊りをアートとして位置づけることで、文化継承における新たな側面を見出しているのではないかと、富川は言う。「全国の郷土芸能は後継者が次々と減少し、装束の修繕費も支払えないような団体も出てきています。どこも深刻な問題が続く中、地域外の人々も伝統芸能に関わることのできる新たな活路が期待されています。そうした意味で、このイベントは芸能を古いものとみなさず、現代のカルチャーのひとつとして楽しむ仕掛けに注力したことが、より幅広い層へのアプローチにつながっていると思います」。実際に、「遠野巡灯籠木」をきっかけに、しし踊りの踊り手として参加する人が現れているという。

音楽家によるライブセッションは、100年前から続く古い民家の中で行われた。

「色々な歴史や文化を次の世代につなぐことは重要ですが、すべて同じ形式のまま残せばいいというわけではありません。これまでも歴史のなかでさまざまな変化があったはずです。そのときどきに生きる当事者である私たちが素直に残したいと感じたものに対して、どれだけ真摯に取り組むことができるかが重要なのだと思います」。

遠野巡灯籠木は今年9月に開催予定。今後も毎年の開催を通して、地域文化と現代のカルチャーとのつながりを生み出し続けていく予定だという。

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