August 25, 2023

沖縄の、さらに島にある人気のフレンチレストラン。

ライター:寺尾妙子

おまかせコース¥22,000(税込)は15種類のアミューズから始まる。驚くほどフワフワした食感のヨモギ風味のパン、沖縄の郷土料理である島豆腐とアボカドを合わせた一品、地魚であるマクグとシャコ貝の肝和え、緑野菜のタコスなどが、自生するクワズイモの葉やキューピー人形を敷き詰めたカップ、乾燥ハリセンボンなど、趣向を凝らした器に盛られてテーブルを占領する。写真は2人前。
PHOTOS: KOUTAROU WASHIZAKI

日本の南端にある沖縄県は沖縄本島と宮古島、石垣島、西表島の4つの大きな島と160の小さな島で構成される。建築業や第一次産業が盛んで、ゴーヤやマンゴーなどの野菜や果物の生産、カツオやマグロ漁も行われるほか、地元では「ミーバイ」と呼ばれるハタや「グルクン」と呼ばれるタカサゴなどもよく獲れる。また、もずくの生産量は日本一だ。だが、最大の産業は観光であり、旅行社にとってはこれまで沖縄そばやチャンプルー(炒め物)といった郷土料理が沖縄グルメの目玉だったが、ここ数年はガストロノミーなレストランを併設する高級ホテルも増え、沖縄の食文化を取り込んだガストロノミーを巡る観光も脚光を浴び始めた。

フレンチレストラン『シス』がある古宇利島は、沖縄本島北部の今帰仁村に属する。近年、開発が進み、新たなビーチリゾートとして脚光を浴びつつあるが、近辺には世界遺産にも登録されている今帰仁城跡(なきじんぐすくあと)もあり、琉球王国時代の歴史が感じられる地域でもある。圧巻のオーシャンビューを眺めながら古宇利大橋を渡り、山道を登っていくと店にたどり着く。そんなロケーションもあり、日本全国の食通の間で話題なのがこの店だ。ちなみに、夏から秋は台風も多いが、古宇利大橋が封鎖にならない限り、店は営業する。

オーナーシェフ、小杉浩之は愛知県名古屋市で8ヶ月先まで予約で埋まっていたレストランを閉め、2018年にこの地に移住。『シス』を構えた。本当は東京への移転を考えていたが、子供ができたことをきっかけに妻の故郷である沖縄、それもどの席からも海が見えるこの場所を選んだ。だが、最初の2年間で1800万円もの赤字を出してしまう。「もう店を閉めよう」と思った矢先、コロナ禍で状況が一変。海外旅行に行くことができなくなった分沖縄まで脚を運び、この店に食べに来る人が増え、SNSによって店の評判が広まったのだ。

沖縄 (フレンチ)
シス
沖縄県国頭郡今帰仁村古宇利499-1
https://six-kouri.com

それも頷けるほど、小杉が手がけるコースは華があり、写真映えする。「海の景色に負けない料理を目指しています。全部、こんな料理があったら、という妄想から逆算して作っています」と語る小杉の元には「発想の素は何ですか?」というメッセージが見知らぬ星付きシェフからも寄せられる。まるで風船のように膨らんだ乾燥ハリセンボンに車海老の揚げパンを盛り付けるなど、次々と独創的なプレゼンテーション。一見、奇抜に見えても「目の前が海だから、ハリセンボンの器だって成立する」と、理由がある。カラフルな野菜パウダーをまぶした大根の前菜も、その色の野菜の風味が口の中で幾重にも広がるという味覚的な効果がある。そんな料理の素材は小杉が朝、出勤するまでに島中を歩き回って摘んでくるカタバミなどの野草をはじめ、地元産が7割を占める。農家に理想の食材を育ててもらい、漁師から欲しい魚を譲ってもらえるようになるまで1年以上かかったという。

「移住して5年経っても、まだまだよそ者です。でも。地元の人と仲良くならないと、ここで店をやる意味がありません」

ジーマミ豆腐やもずくなど、地元の食をフランス料理に昇華させつつ、小杉は沖縄との融合を図る。

沖縄本島と古宇利島を結ぶ古宇利大橋は人気のドライブスポット。橋の上からは視界一面、海が広がる。

名古屋市『シェ小杉』時代からゲストの人数をナンバリングしたクッキーをはじめ、デザートは10種類以上。島バナナのキャラメルショコラや黒糖カヌレなど地元食材がふんだんに使われている。

題して「大根のお花畑」。紅芯大根やウコン、セロリなど野菜のパウダーをまぶし、アジのカルパッチョと合わせた前菜。

小杉浩之(こすぎ ひろゆき)

1962年三重県生まれ。16歳よりフランスの料理古書を読みながら、独学で料理を始める。22歳のとき、愛知県名古屋市で始めたカフェで、鶏の赤ワイン煮など、フランスの郷土料理を出す。2008年、ジビエ料理専門店『シェ小杉』をオープン。2015年、同店を18〜20品の料理をコースで提供する『イレテテュヌフワ』にリニューアル。2018年、沖縄県に移住。『シス』オープン。

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