July 29, 2022

【二木あい】海と人とをつなぐ表現者が語る、美しい海を次世代に残すヴィジョン。

By ARINA TSUKADA

PHOTOS: KOUTAROU WASHIZAKI
衣装協力:HaaT(ISSEY MIYAKE)

二木あい

環境省「森里川海プロジェクト」海のアンバサダー。mymizu アンバサダー。素潜りギネス世界新記録2種目樹立。

唯一無二の存在として、水中と陸上の架け橋となるべく活動している。世界中の海を舞台に、自身が被写体、また撮影者となって「私たちは地球の一部であり、共に生きている」という繋がりを表現している。

二木あい写真展「Naka-Ima “Here and Now”」は、東京・代々木「umi to mori」会場にて8月31日まで開催。
https://aifutaki.com/

すべての海はつながっている。地球の表面積の7割を占める海のなかには、現在知られているだけでも約23万種もの生き物が暮らしている。しかし人類にとって海中は未知なる世界、海洋生物だけでも全体の90%以上がまだ発見されていないとも言われている。

そんな知られざる海の世界を、水中で暮らす生き物の視点から伝えていく “水族表現家” 二木あいに話を聞いた。スキューバダイビングをきっかけに海中へと魅了され、タイやメキシコなど世界各国で撮影した水中写真や映像の撮影を主軸に活動していた二木は、十数年前から素潜りを開始した。そのとき、海と一体になれる唯一の方法は素潜りだと実感し、2011年には「素潜りで洞窟のなかを一息で潜る」という記録に挑み、ギネス世界記録を2種樹立する。

「元々ドキュメンタリー作家を志していたこともあり、壮大な海中の世界のこと、『人間はこの地球の支配者ではなく、自然と共に生きている』というメッセージをもっと広く人々に伝えるべきだと思っていました。ギネスに挑戦したのは、世界に発信する力を得るためです」。

そう語る二木の写真には、驚くほどの近さで海中の生き物を捉えたものが多数ある。どうしてそこまで近付くことができるのだろうか。

素潜りで海の生き物たちに至近距離まで近づく二木あい。

二木の活動に迫ったドキュメンタリー『プレシャス・ブルー カリブ海・クジラの親子と出会う旅』(DVD)。美しい映像も見所だ。 | PRECIOUS BLUE BY NHK ENTERPRISES © 2014 NHK / CHIYODA RAFT

「スキューバダイビングの場合は、空気ボンベから呼吸音や空気泡が出ていくので、どうしても海中生物との間に距離ができてしまうんです。素潜りであれば、クジラやイルカなどの海洋哺乳類と同じように自分の肺ひとつで潜るので、彼らのなかに溶け込むことができる。彼らの生息圏に土足で入り込まず、リスペクトの気持ちを持つことが大切です。それに水中は振動の伝達速度が陸の4倍なので、少しでもこちらが恐怖や焦りを感じると、生き物たちにすぐ伝わってしまうんですよね。自分のエゴは陸上に置いて、海のなかでは『ただ、そこにいる』という感覚を大事にしています」

 世界各地の海を渡り歩く二木は、国民に自然資源の恵みや保全を呼びかける環境省の「森里川海プロジェクト」にて、海のアンバサダーとしても参画している。温暖化や海洋プラスチックなど様々な問題が噴出する現状をどう見ているのだろうか。

「どの国の海に行っても、現地の人々は口をそろえて『10年前のほうが美しい海だった』と言います。東アジア諸国のゴミが日本に漂着するように、あらゆる環境問題はすべて海でつながっているんですよね。特に海洋ゴミの問題は知れば知るほど闇が深くて途方に暮れます。いまの人間の生活を維持するために不可欠なものたちが、どんどんと海に流れ出している。一方で、水中のプラスチックゴミは時にとても美しく見えることがあるんです。クラゲを捕食する生き物からすると、光に照らされた半透明の物体は食べ物にしか見えないでしょう」

美しい海を持続させるために、私たち人間には何ができるのか。二木は行政や自治体、学校、そのほか様々な団体に招かれ、自身の活動の発表や提言を行っている。

「頭で理解していても、心が動かなければ何も変わらないと思います。私の場合は作品に題名や注釈はありませんし、自分が撮影者の場合は写真自身モノクロです。正解・不正解はなく、見る人それぞれのなかで何かが花開き、心で感じられるようなきっかけになればと願っています。学校などで話す機会も多いのですが、形式ばった受け答えをするよりも、写真や映像で海の生き物とすぐ近くにいる姿を実際にこの目で見た確かな体験を話すほうが、子どもたちにぐっと感覚的に響くのがわかりますね。それは実体験の強みだと思います。

それに、環境問題はどうしても遠い世界のことのように考えられがちですが、本来は自分の暮らしとも直結していますよね。私はいつも『まず自分のことを大事にしてほしい』と伝えています。たとえばそれは、日々の食事を見直すことだったり、すぐ捨てるようなものではなく、気持ちがこもったモノを買って丁寧に使うことだったりするかもしれません。コロナ禍があったからこそ、毎日の忙しさから解放され、それまでの生活の違和感に気付いた人も多くいますよね。何より大切なのは、自分の心に正直に、自分を大切にしながら優しくあることではないかなと思います」

クジラの親子を捉えた二木あい撮影の写真。

一人ひとりの感覚や情動と向き合うことを重要視する二木は、美しい海を次世代に残すためにどんなビジョンを持っているのだろうか。

「自然界の生き物はすべて、その時々の与えられた環境に適応しながら生きています。彼らには彼らの生きるサイクルがあり、私たち人間の理解の域を超えていると常々感じています。よく『海と生き物を守ろう』というスローガンがありますが、海のほうが人間よりずっと大きい存在だと思うんです。より良い未来のためだとは思うのですが、人間中心視点・観点のみで私たちより大きい存在の自然に対して何かをすることに違和感をずっと感じていました。地球は人間がオーナーでもなく、私たちは自然と共に生きる一員です。地球に海が誕生してから43億年だとすれば、私たちの判断基準、サイクルはとても短いと思いませんか。本来、海とはタイムスケールがまったく異なる存在なんです。それよりも、私たちがその一環を担っている、人間由来の数々の諸問題ーー消費を促進し続ける企業とゴミの処理といった生産と消費の仕組みなど、解決されていない問題がまだ無数にあるはずです。突破口はなかなか見つからないかもしれませんが、まず私たち自身の問題に焦点を当て、生き物たちの生き方は彼らに託すべきだと思うのです。人間の体内の約60%は水だと言われていますが、いつも水は私たちのなかにあり、人間は自然の一部であると感じられると良いですね」

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