January 24, 2025

ワイン発祥の地ジョージアの大使が展開する文化交流。

ライター:中和田ミナミ

レジャバ大使の執務室。奥に見える棚には、家族の写真のほか、伝統工芸品をはじめとして日本各地から贈られた、大使お気に入りの品々が飾られている。
PHOTOS: TAKAO OTA

いま一般の日本人に一番顔と名前が知られている駐日大使は、ティムラズ・レジャバ駐日ジョージア大使といって間違いないだろう。生物学者である父親が理化学研究所の仕事に就いたことで1992年、4歳の時に来日。以降、日本の公立学校でも教育を受け、その後早稲田大学を卒業。2012年に日本企業である<キッコーマン>に入社し、2018年にジョージア外務省に入省したという異色の経歴の持ち主である。当然、日本語は非常に堪能で、日本語で発信する「X」のフォロワー数は現在35万人を数える。「日本の小学校に通っていた頃、放課後に友達の家に遊びに行って一緒にゲームをして、その友達のおばあちゃんからスイカを出してもらうという経験をした駐日大使は他にはいないでしょう。それが私の強みではないでしょうか」と、自身の子供の頃の体験を笑顔で話す。

ジョージアはアジアとヨーロッパの境目に位置し、昔から周囲の大国に翻弄されながらも独自の言語(ジョージア語)、独自の主教(ジョージア正教)を守ってきたという歴史を持つ国だ。1991年4月にソビエト連邦の崩壊に伴い独立。現在は北にロシア、南にトルコ、東側にアゼルバイジャンがあり、西は黒海という場所に位置する。そんなジョージアの大使館は港区南青山に建つ一戸建てだ。大使を訪ね挨拶を交わすと開口一番、「自由と民主主義、人権の尊重など、同じ価値観を有する国同士の連携が、戦争や分断が取り沙汰される今、とても大切です」と語る。またそれと同時に、文化と文化の交流がとても重要だと力説した。そんな彼が今、日本との関係でとても力を入れている文化交流の活動が3つあるという。そのひとつは先に触れたSNSでの発信だが、他に「ワイン外交」と「茶道を通じた日本とジョージアの文化比較の発信」があるという。ジョージアと言えば、近年ワイン通の間では美味しいワインの産地として知られる国だが、ワイン外交とはどのようなものなのだろうか?

中央のボトルが“ワイン外交”で、福島県に贈られた「ヒフイ」というジョージア固有のブドウ品種でつくったワイン。

「まず最初に紹介したい取り組みが“ワイン外交”です。これは日本に47ある都道府県を、私がジョージアの固有品種でつくったジョージアワインをもって巡るという文化交流になります。ワイン発祥の地であり、8,000年のワインの歴史を持つジョージアには、525ものブドウ品種があります。日本各地域の気候や歴史などに合わせたワインをプレゼントするのです。例えば最近2024年12月に訪問した福島県には「ヒフイ」というブドウの苗木を贈りました。これはソ連時代には一度途絶えかけた品種でしたが近年、復活し人気がでてきたのです。この「ヒフイ」の持つストーリーと福島の復興を重ね合わせ贈りました。今、28の都道府県の訪問を終えたところです」。

昨年2024年10月には「令和6年能登半島地震」で被害にあった石川県を訪問し、石川県知事に苗木とワインを贈っている。しかし大使は地震発生からわずか1か月後の2月にも石川県を訪問している。穴水町にあるワイナリー<能登ワイン>を訪ねたのだ。このワイナリーではジョージア固有の「サペラヴィ」というぶどう品種でワインをつくっているので慰問するという意味もあったが、大使には他に特別な思いがあったという。

「実は昨年2024年の1月1日、休暇を過ごすため家族で石川県へ向かっていました。その新幹線に乗っている時に地震が発生し、新幹線が運転見合わせとなってしまったのです。結局新幹線の中で一晩を過ごし、東京へ引き返えさざるを得ず石川県に行けなかったのです。そこで復興を祈念するために被災した場所をすぐに訪問しようと思いました」。

続けて大使は2つめの取り組みについて話し始めた。

「日本には茶道がありますが、ジョージアにはこれと似た“ワイン道”というものがあります。これは“スプラ”と言われるジョージアの伝統的な宴会文化で、日本の茶道の茶会では亭主が客をもてなす際、掛け軸や茶碗などで客人の眼を楽しませますが、ジョージアの宴会ではタマダと呼ばれる進行役・ホストがいて、詩の朗読や歌でゲストをもてなします。飲み物を通じた儀式を独自の文化に発展させたのは、世界でも類がないと思います。ただ飲み物を飲むだけではなく、その先にある奥深い価値観を参加者が共有するのです。ジョージアと日本はこのような文化的な共通点があるところが興味深いと思います」。

大使自らが京都で作陶した楽焼の茶碗。高台(茶碗の底に設けられた支えの部分)にはジョージアの国旗があしらわれている。

ジョージアの国旗が描かれた、岩手県の「浄法寺塗(じょうぼうじぬり)」の漆器。

レジャバ大使の執務室の1階上のフロアは、大使館員が自由にくつろぐことができる、テラス付きのダイニングスペースになっている。

2021年には大使自身もお茶の稽古をはじめ茶道を探求する一方、裏千家が発行する茶道の専門誌『淡交』には、日本の茶道文化とジョージアのスプラの文化比較などにについて2024年の1年間12回に渡り日本語で寄稿もしていた。

レジャバ大使は、他国の大使の方と比べると自身は年齢も若いのでフットワーク軽く、人一倍動き回ってジョージアをアピールするよう心掛けていると語るが、日本とジョージア2国間の友好関係にとって彼の存在と彼の発信するSNSの功績は大きい。ジョージアでは2024年末に新大統領が誕生し、EUと続いていた加盟交渉が中断された。そのような情勢の中、大使が日本で行う文化交流の重要度が今後益々増してくるだろう。

日本でご祝儀袋に用いられる「水引」の技術を使って作ったジョージアの国旗。

ティムラズ レジャバ駐日ジョージア特命全権大使

1988 年生まれ。1992 年に父親の仕事の関係で日本へ移住。以来、大学卒業までジョージア、日本、アメリカ、カナダで教育を受ける。2011 年9 月 早稲田大学国際教養学部卒業。2012 年から2015 年までキッコーマン株式会社で海外営業及びマーケティングを担当した後、2015 年9 月より3年間、日本・ジョージア間の経済活動に携わる。2017 年12 月LLC Delivery起業。2018 年10 月ジョージア外務省入省。2019 年8 月~2021年11月まで在日ジョージア大使館臨時代理大使。2021年11月15日~駐日ジョージア特命全権大使を務める。SNS<X>のフォロワーは35万人を超える。

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