February 03, 2020
瀬戸内の港町「福山・鞆の浦」(福山市)
広島県福山市にある鞆の浦は、広島県東部、瀬戸内海沿岸の中央に位置する港町。東西から潮が流れ込んで留まり、そして引いていく特異な立地にあることから、多くの人々がこの地で潮を待った歴史を持ち、「潮待ち」の港としてその名を日本中に轟かせた。
江戸時代から続く古い町並みには、今も人々の暮らしが息づき、どこか懐かしく穏やかな時間が旅人たちを温かく迎えている。
夕暮れ時になると灯りのともる高さ11mの石造りの「常夜燈」は、港に現存する江戸時代のものとして日本最大級の大きさを誇る。港をめざす船と港の人々を 160 年間見守ってきた鞆の浦のシンボル。
常夜燈の足元には、「雁木」という石造りの階段状の船着場が残っている。全長約150m、最大24段もの石段がまるで円形劇場のように見える雁木は、最大約4mにおよぶ潮の満ち引きに関係なく荷揚げができる優れもので、莫大な商いの物資と人々が往来し、鞆の浦は港町としての栄華を極めた。
港の出入口で海に突き出て穏やかなカーブを描く石積みは「波止」と呼ばれる防波堤で、「常夜燈」や「雁木」と並び、国内最大級。これらに加え、港に出入りする船を見張った「船番所跡」や、船の修理を行った「焚場跡」など、近世港湾に必要とされた5つの施設が揃っているのはいまや鞆の浦だけとなった。
江戸時代ごろに建てられた歴史ある建造物も数多く残されており、趣きある町家や商家が隙間なく軒を連ねている。迷路のような路地を歩けば、ユニークな模様を描くなまこ壁やパッチワークのような石垣、時代を感じる漆喰の壁があちこちで見られる。細い細い路地を抜けた先に青い海が広がる……。そんな嬉しい出会いも港町ならでは。
町の北側にお寺が密集しており、小さな町の中に19のお寺と数十社の神社が点在しているので、神社仏閣巡りにはもってこい。
穏やかな海に大小の島々が響き合うように浮かぶ鞆の浦は、朝鮮通信使や琉球使節、オランダ商館長など、海外からの多くの客人を魅了した。朝鮮通信使にいたっては、迎賓館であった福禅寺対潮楼から望む海島が魅せる眺めを「日東第一形勝」(日本で一番美しい景色)と絶賛した。
船で5分ほどで到着する仙酔島は太古の自然が残る無人島。海岸線や山の小径を歩くハイキングコースが整備されている。赤・青・黄・白・黒の5色の岩が約200mにわたって連なる「五色岩」は珍しい。ほかにも宿泊施設や温泉、キャンプ場、海水浴場などがあり、自然を満喫できる。
瀬戸内海に面している鞆の浦は鯛が有名。鯛でダシを取り、身を入れた「鯛そうめん」や、鯛とご飯を一緒に炊き上げる「鯛飯」など、鯛を使った料理を提供する飲食店がいくつかある。その上品な味わいをぜひ楽しんでほしい。
鞆の浦で生まれた薬味酒「保命酒」や、名産の鯛や小魚「ねぶと」を使った料理や珍味、練り物なども鞆の浦ならではの楽しみだ。