November 02, 2023

サントリー、ウォーター・スチュワードシップ100年の歩み

Maiko Muraoka Contributing writer, Translator: Tomoko Kaichi

サントリーのウォーター・スチュワードシップ活動の概念図 | サントリー

今年は日本でウイスキーづくりが始まってから100年の節目にあたる。鳥井信治郎氏が1899年に創業した世界的な飲料・食品メーカー、サントリーホールディングスが京都郊外の島本町山崎(大阪府)に建設した日本最古のモルトウイスキー蒸溜所でのことだ。この記念の年にサントリーは、もう一つのマイルストーンを達成した。清涼飲料とアルコール飲料を生産する九州熊本工場が、水資源の持続可能性を推進する国際機関「アライアンス・フォー・ウォーター・スチュワードシップ(AWS)」から「Platinum認証」を受けたのだ。

AWSの認証には、レベルが高い順に「Platinum」「Gold」「Core」の3種類がある。基本となる「Core」の要件を全て満たしたうえで、高度な「アドバンス指標」のパフォーマンスに照らしてポイントが加算され、レベルが決定される。7月17日現在、AWSは世界263工場を認証しており、そのうち最高レベルの「ウォーター・スチュワードシップ」を達成した工場が「Platinum」を取得した。

AWSは、ウォーター・スチュワードシップを「工場とその周辺流域での取り組みを含む、ステークホルダーを巻き込んで行う活動の過程を通じて実現される、社会的・文化的に平等、かつ環境的に持続可能であり、経済的にも有益な水の利用」と定義している。

認証取得の道のりは容易とはいえず、AWS規格に関する研修や各種登録、導入、監査などが必要になってくる。情報収集と分析、パフォーマンス評価だけで何カ月もかかる計算だ。

サントリーがそれを承知で認証取得を目指したのは、同社の事業にとって重要な資源であり、地域社会や生態系にとっても欠くことのできない水の健全な循環に貢献するという、創業以来いまも目指す方向性に相通ずるものがあったからにほかならない。


水の恩恵を倍にして返す

2003年に水源保全のために開始したイニチアチブ「天然水の森」は、これまでに全国15都府県で22カ所、総面積1万2000ヘクタールまで規模を広げて実施され、自社工場で使用する地下水量の2倍以上の水を涵養(かんよう)するという目標を達成した。

サントリーグループは4月に企業理念を刷新し、「水と生きるSuntory」をコーポレートメッセージとした。健全な水循環を維持するために目指すことを表した言葉であり、サントリーホールディングスのサステナビリティ経営推進本部、瀬田玄通課長はジャパンタイムズの最近のインタビューで、それを「サントリーの事業は商品やサービスを通じて自然の恵みを生活者と分かち合い、暮らしや文化を豊かにするプロセスだ」と説明した。

1899年の創業以来、水資源と地域社会の持続可能性にコミットするという精神は同社の目的や価値観、原則に反映され、全世界270のグループ会社と4万885人の従業員の働き方の指針となっている。

サントリーのような企業にとって、長年にわたり進化してきた取り組みがAWSの国際的枠組みによって世界的に評価・認知されることや、世界の水資源の持続可能性向上のため、AWSとの連携を深め、さまざまなセクターでウォーター・スチュワードシップを促進することは実に理にかなっている。

AWSから「Platinum認証」を取得した九州熊本工場 | サントリー

地域の特性に配慮

水資源の持続可能性は世界的な課題だが、日本とその他8カ国で水の教育プログラム「水育」を展開するサントリーは、水課題は地域によって異なるという。

「ウォーター・スチュワードシップの実践は、対象とする流域を定義し、科学的手段によってそれを徹底的に理解することから始まる」と瀬田氏はいう。「この過程では、九州熊本工場で製造する製品の一部原料を農地で生産するために使われる、ほかの地域の水、いわゆるエンベディド・ウォーター(embedded water)に関するデータも収集した。これはAWS認証のアドバンス指標の一つだった」。

瀬田氏は、地域住民が抱える水課題を理解する重要性にも言及。九州熊本工場の場合、工場の従業員や協力会社だけでなく、地域住民や農業・漁業関係者、自治体、学識経験者、取引先、サプライヤーなど、数多くのステークホルダーとの関係構築に尽力したという。

同社のウォーター・スチュワードシップ関連の活動はすべて、これらステークホルダーが頭を悩ます課題に対処しようと、明確な目標を定めて計画された。地下水涵養地域の森林管理、豊かな湧き水の池に浮かんでいるかのように見える浮島神社の清掃活動、工場の水管理、工場排水の環境影響評価などは、その例だ。

冬には休耕田に水を張り、英国の大麦農家とは再生農業の導入と麦芽用大麦の調達で協働する。これらの取り組みは生物多様性の保全と土壌の肥沃化に役立ち、農作物の品質向上や、地域の地下水と河川への影響軽減につながるという。

企業にとってAWS認証取得の利点の一つは、活動実績のレビューと開示、ステークホルダーとのコミュニケーションが要件となっており、ステークホルダーその他からの信頼獲得の近道になることだ。

サントリーでは、九州熊本工場以外にも「サントリー天然水 奥大山ブナの森工場」(鳥取県)と「サントリー天然水 南アルプス白州工場」(山梨県)が「Core認証」を受けている。「飲料水は生活者のライフラインを支えるインフラの一部であり、水源を守る活動を効果的に発信することで、AWS認証はお客さまからの信頼強化に貢献すると考えている」と瀬田氏は語った。

浮島神社で清掃作業を行った | サントリー

日本でリーダーシップを発揮

AWS認証工場の運営に加え、サントリーは日本の多様な産業界に対してウォーター・スチュワードシップ浸透のリーダーシップを担う連携協定をAWS国際事務局と締結した。その一環で「AWS国際規格日本語版」を監修し、日本でのAWSの活動や、AWS関連の研修と能力開発プログラムの創設にも協力する。

2月22日には日本で初めてAWS会議が開催され、流域における企業の責任ある水資源管理について議論が行われた。サントリーは日本の第一号AWS認証取得企業として知見を共有するだけでなく、さまざまな業界に参加を呼びかけ、集まった官民両セクターから約230人の参加者が持続可能な水管理の成功事例やウォーター・スチュワードシップの重要性とベネフィットを学んだ。

「AWSはウォーター・スチュワードシップの成果にコミットする高度に体系化された認証スキームを提供し、持続可能性関連の国際的フレームワークと互換性確保に向けて連携している。サントリーはAWSのローカルリーダーとして、ウォーター・スチュワードシップの推進と開示のメリットを提唱することで、すでに取り組んでいる日本企業の活動が評価され、まだ取り組みの進んでいない企業が後に続くようになることを目指している」と瀬田氏は語った。


サントリーはジャパンタイムズと協力し、持続可能社会の実現に向けた日本の取り組みを発信する企業と自治体のグループ「Sustainable Japan Network」の会員です。ネットワークの活動詳細は次のURLをご覧ください。
https://sustainable.japantimes.com/sjnetwork-jp

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