November 25, 2022
【サントリー】「水と生きる」ために本気で森林を守る
Suntory’s strong points
1.全国21箇所、1万2000haの森林で数十年計画の水源涵養プロジェクトを実施
2.2050年までに、全世界の自社工場で取水する量以上の水を育むと宣言
3.持続可能な水資源管理の国際認証「AWS認証」を国内で唯一取得
4.2030年までに全ペットボトルで化石由来原料の新規使用をゼロにすると宣言
サントリーは今、世界でも例のないくらい、企業として本気で水資源を守ろうとしている。本業を支える資源に対して徹底的に向き合う。これも、サステナビリティ先進企業としての、あるべき姿。サントリーはその代表格だろう。
企業の気候変動対策などを評価する国際非営利団体のCDP(Carbon Disclosure Project)。サントリーはグループとしてその高評価の「Aリスト」に、「水」部門で6年連続、「気候変動」部門で3 年連続で選出されている。
2019年7月、サントリーは「サステナビリティ・ビジョン」を策定し、水、CO2、容器・包装、原料、人権など、サントリーグループにとって重要な7つのテーマを掲げた。さらに、2020年6月に改定した「サントリー環境ビジョン2050」では、「2050年までにScope3も含めたバリューチェーン全体で温室効果ガス(GHG)排出の実質ゼロを目指す」と、2050年までの目標をより意欲的な内容にした。
特筆すべきは「水」に対するコミットメント。2050年までに「工場節水で50%削減」「半数以上の自社工場で、水源涵養活動により使用する水の100%以上をそれぞれの水源に還元」「サプライヤーと協働して重要原料の水使用効率を改善」といった目標が並ぶ。
だが、サントリーの水にかける本気度は、こうした表面的な宣言からは見えてこない。
全国21箇所、約1万2000haの森で水源涵養
「雨が降ってから地下水となり汲み上げられるまで20年かかる。森林での水源涵養プロジェクトを始めたときの水をようやく汲めると思うと感慨深いです」
サステナビリティ経営推進本部 サステナビリティ推進部の輿石優子部長は、目を細めながらこう話す。
「涵養」とは、地表からの雨水などがゆっくりと土壌に浸透し、帯水層に地下水として供給されるプロセス。サントリーは2003年から、地下水を汲み上げている自社工場の水源涵養エリアにおいて、森を守る「天然水の森」活動を進めている。
サントリーの「水科学研究所」が中心となって調査し、工場の水源涵養エリアを特定。行政や森林所有者と長期的な協定を結び、水資源を守るためのあらゆる施策を講じてきた。
熊本県阿蘇から始まった天然水の森の活動は、2019年、山梨県と締結した南アルプス白州工場周辺の水源涵養エリアの協定によって、全国21箇所、約1万2000haまで拡大。これにより、国内工場で汲み上げる地下水量の2倍以上の水の涵養を達成している。
水源涵養は国内のほかの大手飲料メーカーも行っているが、サントリーの涵養エリアの面積はその中で最も広い面積を誇る。かつ、21箇所のどれもが長期にわたるコミットメント。多くの協定は30年の契約年数で、中には100年にわたって更新予定の「天然水の森 赤城」などもある。
その活動内容は、単に植林や間伐といった取り組みに留まらない。活動は科学的な知見に基づいた綿密な調査から始まる。
例えば、サントリーの「水科学研究所」を中心に専門家とチームを組み、地下水涵養量の定量評価を実施。航空機によるレーザー測量や土壌調査、地下水調査などを踏まえた「地下水流動シミュレーション」モデルを試行し、地下水の“見える化”をしたうえで、それらの情報をもとに、それぞれの森にあった整備計画を策定する。
加えて、生物多様性の保護までも含めた徹底した森づくりをしている。
生物多様性に満ちた森へ
天然水の森では、多様で豊かな森林植生への転換、維持により、生物多様性に満ちた森を育んでいる。
例えば、放置された人工林が密集する暗い森では、適切な密度に間伐して明るい日光を取り入れることで、多様な下草を誘導し、それらを生息場所とする多くの生きものを育む。多様な植生が供給する落葉などを微生物や土壌動物が分解することにより、水の浸透機能の高い「ふかふかの土壌」が培われ、豊富な地下水を育むことに繋がるのだという。
また、土壌動物はウサギなどの小動物の餌となり、それを捕食する猛禽類が集うことで、豊かな生態系が形づくられる。「水源涵養林として高い機能を持った森は生物多様性に富んだ森である」という考えのもと、生態系ピラミッドの頂点にいる猛禽類の子育てを支援し、見守る「ワシ・タカ子育て支援プロジェクト」も実施している。
雛の餌が充実していなければ、子育てはできない。子育てのための猛禽類による巣作りは、バランスのとれた生態系ピラミッドが守られていることを示すバロメーターになる。
こうした活動の延長として、2022年4月には「生物多様性のための30by30アライアンス」に加盟。30by30アライアンスは、陸域・海域の少なくとも30%を2030年までに保全・保護することを目指すグローバルの有志連合。国内でも、環境省が来年度、「自然共生サイト(OECM)」として企業林などを認定する仕組みを導入する予定で、そのために先行して実施された実証事業において「天然水の森 ひょうご西脇門柳山」が試行認定を受けた。
一方、将来を担う子どもたちに向けて2004年から開始した次世代環境教育「水育」にも継続して力を入れている。
工場周辺の天然水の森などをフィールドに親子で水を育む自然の大切さを学ぶ「森と水の学校」、そして、“水育講師”が小学校に出張し水資源の大切さを伝える「出張授業」、2つの取り組みが水育の主軸。海外でも、2015年に開始したベトナムを皮切りに、タイ、インドネシア、中国、スペインといった国々で出張授業などを行っており、参加者は世界全体で37万人にまで広がっている。
水はサントリーの「一丁目一番地」
こうした世界でも類を見ないほど広範囲で深い取り組みは、外部組織も高く評価している。
「ウォーター・スチュワードシップ(流域レベルでの水資源を地域社会と連携して責任をもって管理する活動)」をグローバルに推進する機関「Alliance for Water Stewardship(AWS)」。この機関による水資源管理の国際認証「AWS認証」を、「サントリー天然水 奥大山ブナの森工場」が2018年、国内で初めて取得した。
その後、「サントリー九州熊本工場」「サントリー天然水 南アルプス白州工場」でも認証を取得。現在、AWS認証を国内で取得しているのは、これらサントリーの3工場のみである。
また、自然に関する科学的な目標(Science Based Targets for Nature)の方法論を開発する国際組織「Science Based Targets Network(SBTN)」から協力要請を受け、米食品大手のゼネラル・ミルズ、P&Gとともに、サントリーは「水」に関するSBT目標設定の方法論を検証するパイロット・スタディに参画。国際的なルールづくりにも貢献している。
世界も認めるサントリーの水資源保護への取り組み。なぜここまでやるのか、という問いに、サステナビリティ経営推進本部長を務める小野真紀子 常務執行役員はこう答えた。
「自然が我々のビジネスの根源にある。水そのものを汲んで商品にしているほか、ビールやウイスキーの原料の成長にも水は欠かせないということを考えると、やはり、水というのは我々にとってのサステナビリティの一丁目一番地なのです」
そのうえで、120年以上、サントリーに脈々と流れ続ける「利益三分主義」という創業の精神がサントリーを本気にさせている、と説明する。(囲み記事を参照)
利益を社会に還元する利益三分主義の対象は水に限った話ではない。水以外の分野でも、サステナビリティ関連の取り組みに意欲的だ。
世界トップクラスの「Bottle to Bottle」比率
世界的には水と同等かそれ以上に、プラスチックがサステナビリティへの課題として認識されている。グループ全体で年間約29万トン(2020年実績)もの「PETボトル」を商品パッケージに使用しているサントリーにとっても、例外ではない。
PETボトルのリサイクル比率は、米国が18%(2020年度)で欧州が39.6%(2019年度)。対して日本は88.5%(2020年度)と世界最高水準を誇っている。
しかし、回収したPETボトルが再び新たなPETボトルへと生まれ変わる「Bottle to Bottle」の比率はわずか15.7%(2020年度)。ほとんどが食品用のトレーや衣類、自動車や電車の内装などに使われている。飲料メーカーなどは化石由来原料の新たなPETボトルを大量に製造し続けているのが現状だ。
そうした中、サントリーは2019年5月、こう宣言した。「2030年までにグループが使用するすべてのPETボトルについて、リサイクル素材と植物由来素材に100%切り替え、化石由来原料の新規使用をゼロにする」――。
これまで、新たに使用する化石由来原料の削減にPETボトルの軽量化などで務めてきたが、あと8年でゼロにするというのは相当に意欲的だ。国内外の多くの飲料メーカーは「2030年までに50%をリサイクル素材に」といった限定的な目標にとどめている。
本当に実現できるのだろうか。実は、サントリーのリサイクル素材によるBottle to Bottle比率は、2020年に26%、2021年には37%まで上がっており、国内平均の約16%を大きく上回っている。世界でもトップクラスのこの比率をさらに引き上げると同時に、廃糖蜜やウッドチップを原料とした植物由来原料のPETボトルも上乗せし、化石由来原料ゼロへと持っていく算段だ。
「汚れや異物があるものはPETボトルにリサイクルできない。そこで、企業や大手流通チェーンなどと提携して、少しでも多くのキレイなPETボトルを回収する取り組みを地道に続けています」。サステナビリティ推進部の輿石部長はこう話す。回収コストはかかるが、「それでもやらねばならないという使命感がある」(同)。
加えて、リサイクル可能にするため、少しでもキレイな状態で分別して排出してもらおうと、消費者への啓発も行っている。その一環として、「ボトルは資源 サステナブルボトルへ」というロゴをパッケージに加えた。2022年春から順次、全商品へと展開を進めている。
リサイクル技術の進展も、協力企業と一緒に進めている。「FtoPダイレクトリサイクル技術」は、回収したPETボトルをフレーク状にして溶解し、再形成するリサイクル工程の中間を省く技術。排出されるCO2を、従来技術に比べ約70%も削減できるという。2018年にこの技術を応用した製造ラインが初めて稼働し、2021年にはもう1ラインも動いた。
世界初のリサイクルアルミ缶
地道な回収努力と啓蒙・新技術の両輪で目標へ向かうサントリー。小野常務執行役員は「サステナビリティという言葉が急速に広まっていますが、我々としては昔から同じ思いでやってきたことで、やることは基本、変わらない」とする。一方で、こうも語る。
「ここに来てもう一段、ギアをあげようという経営陣の思いがあり、昨年9月に『サステナビリティ経営推進本部』を独立させ、本部としました。世の中の動きに遅れることなく、水はもちろんのことプラスチック対策でも業界をリードし、温室効果ガス対策もちゃんとキャッチアップして進めていく」
今年1月に本部長に就いた小野常務執行役員は、ヘッドクォーターと各ユニットの距離を縮めるべく、国内外のビジネスユニットのトップと定期的にディスカッションを重ねている。その中で出てきたアイデアの一つが今年9月、カタチとなった。
数量限定で発売された「ザ・プレミアム・モルツCO2削減缶」は、世界で初めて缶材由来のリサイクルアルミのみを使用し、商用化された「SOT(ステイオンタブ)缶」を使用。通常のアルミ缶に比べCO2排出量を60%削減した。
同じ9月、山梨県や東京電力などが共同開発した「グリーン水素」の製造装置を山梨県の2工場に導入すると発表。再生可能エネルギー由来の電力で地下水を分解することで、CO2排出量ゼロの水素を製造し、ボイラーの熱源やウイスキーの蒸溜などに利用する。製造設備の規模は16メガワット級と国内最大規模で、2025年の導入を目指す。
「まだまだ、やらなきゃいけないことがたくさんある」と言う小野常務執行役員。ギアを上げたサントリーが次になにを打ち出すのか。展開が楽しみだ。
なぜサントリーは水を大切にするのか
小野 真紀子
常務執行役員 サステナビリティ経営推進本部長
私どもの商品は、天然水のみならず、ウイスキーにせよビールにせよ、すべてに水を使っています。そして、水そのものが地球規模で人間の生活に必要不可欠なものであり、水を使う企業として守っていく責務があります。
そもそもサントリーには、120年以上前に創業者の鳥井信治郎が会社を興したときから「利益三分主義」という創業の精神が脈々と流れ、根付いている。これは、我々が得た利益を、事業への再投資のみならず、お得意先・お取引先へのサービスや社会への貢献にも役立てていこう、という考え方です。
そういった精神が宿る中で、「人間の生命の輝きをめざし」から始まる社是が生まれ、「人と自然と響きあう」という企業理念が定着しました。そして2005年、企業理念を一歩進めるメッセージ、グループの約束として「水と生きる」を掲げています。
ですから、こうした精神が宿っているサントリーにとって、水を大切にすることは当然のことであり、事業と切り離せないことなのです。
創業の精神は、120年以上ずっと会社の中にいる創業家の人間によって守られてきました。現在の経営陣も、創業の精神に非常に共感をして、それを伝えていくことを使命としています。社員も、サントリーが大切にする価値観をポジティブに捉え、うまく共鳴しあっていると感じています。
確かに、水源の保全にかかわらずサステナビリティへの取り組みはコストがかかりますし、すぐには結果が出ないことも多い。しかし、私たちの活動はいずれお客様や社会からの評価につながり、商品を選択していただけることで利益となる。それをまた還元するというサイクルが正しい価値観であることを、120年以上の歴史で学んでいます。
2代目社長の佐治敬三も、人々の生活を豊かにするため、サントリーホールやサントリー美術館を設立し、文化活動に取り組みました。それ自体、利益をもたらすものではありませんが、サントリーブランドの長期的な価値創出につながっています。社会に貢献したら、それはどこかで返ってくる。おそらくそういう考え方が、今も流れているということだと思います。
サステナビリティに関する地球規模の課題が日々、出てきています。新しい技術開発やイノベーションの創出も含めて、解決へのハードルは非常に高い。しかし私たちには、もう一つの創業の精神「やってみなはれ」があります。これは、「失敗を恐れず、新しい価値創造に挑む」を意味する創業者の口癖です。やってみなはれの精神でチャレンジし続ける。これが、サントリーのコミットメントです。