March 26, 2021
【サントリー】創業精神を軸にグローバル展開、社会課題に挑む
サントリーグループは「人と自然と響き合う」を使命とし、気候変動や環境問題などの社会課題に向き合ってきた。2019年には「サステナビリティ・ビジョン」を策定。水資源の保全やCO2排出削減、地球環境保全、サプライチェーンにおける人権の尊重、心豊かで健康な生活への貢献といった取り組みと決意を国内外に発信した。世界規模での社会課題の解決をめざし、国や産業界、NGO・NPO、教育機関、消費者に広く連携を呼びかける。
新浪氏は、ローソン社長時代に東日本大震災を経験したことをきっかけにESG経営に関心を持った。甚大な被害を前に「よりよい社会を創るため、企業は社会に寄り添い社会と一緒に生きていかなければいけない」と強く感じたという。サントリーでは創業以来の「利益三分主義」の精神で社業を営むと同時に、「社会に寄り添うからこそ社業を営める」と考えESG施策を推進する。
「水」の分野では、2003年に水源涵養のための「天然水の森」活動を開始した。(2020年6月)現在は全国15都府県に展開し、目標とした「国内工場で使う地下水量の2倍以上の水の涵養」を2019年に1年前倒しで達成。「水と生きる」を社会との約束とするサントリーにとって水は「企業活動の源泉」であり、新浪氏は「飲料を作るためには水を自然からいただくだけでなく、水資源を守り、育み、次世代につなげなければいけない」と話す。海外拠点でも活動を開始しており、さらに広げたい考えだ。
工場での節水や水の循環利用、子供たちへの環境教育の「水育」、自然環境の保全・再生など、水源涵養のほかにもサントリーの水に関する取り組みは国際的にも知られ、サントリー食品インターナショナルは2020年12月、「CDP水セキュリティ」で最高評価の「A」を5年連続で獲得した。優れた環境保全活動を選定する「CDP気候変動」でも「A」評価を受けている。
気候変動対策では、バリューチェーン全体で温室効果ガスの排出量実質ゼロをめざす「環境ビジョン2050」を発表した。省エネルギー技術の導入、再生可能エネルギーの積極的な活用、次世代インフラの利活用などの活動を利害関係者との協働を通じて推し進める。
2019年には「プラスチック基本方針」を策定。2030年までにグローバルで使用するすべてのペットボトルをリサイクル素材と植物由来素材に切り替え、100%サステナブル化するという目標を打ち出した。新浪氏によると、使用済みプラスチックを回収する仕組みやリサイクル技術は、民間主導で整備や開発を進めた日本が世界トップレベルにある。これからは廃プラスチックを熱源として使う代わりにリサイクルに回す仕組み作りが必要と話す。
課題もある。その一つが、これから一層進むであろう技術の開発と実用化には膨大なコストがかかることだ。消費者に負担を転嫁せずコストを回収するには、事業の競争相手と手を組むのはもちろんのこと、サプライチェーンも巻き込み飲料業界あげて技術革新やコスト削減努力に取り組み、さらには処理のボリュームを増やすことが欠かせないという。社会の協力や政府の支援も必要と訴える。プラスチック使用量の削減、リサイクル過程で排出されるCO2を減らす技術の開発も急がれる。
新型コロナウイルス感染症の流行は経済や生活に大打撃を与えたが、日々の感染防止や医療現場でプラスチックの有用性が改めて認識される契機になった。「プラスチックは『悪』だからなくすという考え方からリサイクルへと、大きく潮目が変わってきた」。
コロナ禍でグローバルにさまざまな支援活動も展開する。日本や米国、カナダ、欧州での消毒用アルコールの生産、米国を中心とする飲食業界関係者への食事支援や手作りマスクの寄付、日本で実施する飲食店応援プロジェクト「さきめし」などはその例だ。世界各地で大小さまざまな試みを社員が発案し、地域社会と協力して実現した。新浪氏は、それには社として取り組んできたESG活動が大きく影響したと考える。「(社会貢献という)価値観を共有する会社とは一緒にがんばりたいと、社員のモチベーションが上がった」「利益三分主義の創業精神がグローバルに息づいている」という。
一方、ESGに関する「ルール」や「スタンダード」作りが欧州主導で進んでいることには危機感を抱く。たとえば「グリーン技術」ひとつとっても、昔からある優れた技術が、新しくできたルールに合わないという理由だけで価値がないとみなされる。ESGが国の成長戦略の一つとして利用されているとの現状認識を示し、日本企業にグローバル企業の立場から次のように助言した。
「自社の技術や取り組みをどんどん広報していき、周囲を巻き込む必要がある。その際、いまやれることではなく、もう少しがんばればできることを伝える。少し先をめざすことでイノベーションは生まれるし、世界ではそれが常識だからだ。『陰徳』ならず『陽徳』の考え方で民間も行政も情報を世界に発信し、日本企業の魅力や技術をもっと知ってもらうことが重要だ」