February 26, 2021

ESGの視点から、日本企業の強みを探る

Hiroshi Ozeki and Minako Suematsu before the ESG Talk   Hiromichi Matono

持続可能な社会の実現のために日本で活躍するリーダーのお一人、ニッセイアセットマネジメントの大関洋氏に、日本のESG投資の現状や日本企業の強みについて語ってもらった。


官民挙げてESG投資を拡充へ

Nissay Asset Management Corp. President and Chief Executive Officer Hiroshi Ozeki is actively involved in efforts to achieve a sustainable society. | Hiromichi Matono

――2020年はESG投資の流れという点で大きな変化はありましたか。

「ニッセイアセットは2008年から企業のESG評価を国内株式運用に組入れており、ESGを冠したファンドのトラックレコードを10年以上持つおそらく日本で唯一の会社だと思う。2020年は菅首相が所信表明演説で『2050年カーボンニュートラル宣言』を行い、全産業で官民挙げてESG投資の流れが加速しているのを肌で感じる」

「(長期の大型投資に)なかなか踏み出せなかった企業経営者も、(宣言が出たことで)これからは走り出さざるを得ないと覚悟を決めるしかない。そこはもう大きな変化が出ていると思う」

――日本はESG対応が遅れているという意見も海外では聞きます。

「日本は石炭火力発電の割合が高く、国としての(エネルギー政策の)方向性も明確に定まっていなかったというところで、国際的に批判・非難にさらされてきた。しかし、日本の企業自体は世界の最先端を行く取り組みをしているのが実態だ」

「たとえば2020年12月時点でのお話をすると、国際非営利団体CDPが環境先進企業としてA評価を与えた企業は、国別では日本が最も多い66社だった。国際的枠組み気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が提言する情報開示に賛同する企業も日本は329社と世界最大だ。企業が事業の使用電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際イニシアティブ『RE100』をサポートする企業も46社と世界で2番目に多い」

――日本では低成長・デフレ脱却を目指すアベノミクスの成長戦略の中で、ガバナンスを強化し、ROE改革を進め株主利益を高める流れの中にESGが入ってきたという背景があります。日本企業のESGへの取り組みが収益改善につながった例はありますか?

「ニッセイアセットは投資先企業とのエンゲージメント(対話)を重視し、ESGについてもその活動や成果を確認している。その中である製油会社とは、サプライチェーンでの児童労働について問題意識を共有してきた。この企業はもともとESG経営を強化し成果も上げていたが、『2030年までに(パーム油を調達する)カカオ農園での児童労働ゼロ』を新たに表明した。当初は社内でコストをめぐる議論もあったと聞くが、結果的にサプライチェーンのトレーサビリティ向上や人権問題への取り組みが欧米企業から評価され、販路拡大につながった」

「この例でわれわれの対話がどれだけ影響したかは分からないが、必要に応じROE向上のための改善を促すこと、そして真摯に課題に向き合う企業に対しては支持する姿勢を伝えることが変革の後押しになればいいと考えている。2020年は1600件の対話を行った」

Hiromichi Matono

日本の技術のグローバル展開に追い風

――日本企業の技術がESGに貢献する例もありますか。

Hiromichi Matono

「日本は省エネ・省資源への意識が昔から強く、優れた要素技術がたくさんある。たとえば、あるハウスメーカーは屋根に太陽光発電パネルを載せた戸建て住宅を『ネットゼロエネルギーハウス』として売り出している。自家発電を売りにするだけでなくデザイン性も考慮し、しかも余剰電力を自社で買い取りRE100達成に役立てる。省エネ・省資源面で非常にインパクトがある試みだ」

「エアコンなど白物家電の省エネ化も日本は得意で、アジアの新興国の規制当局と普及で協力する企業もある。省エネ商品で海外市場の開拓と環境保全の両面で成果を上げている例はいろいろある」

「日本はエネルギー価格が欧米に比べて相対的に高いこともあり、省エネの意識がもともと高い。今後は欧米あるいはアジアや新興国にもカーボンプライシングが導入され、エネルギー価格にいろんな形で上乗せされると、消費者は環境だけでなく財布に優しいという意味で省エネを意識せざるを得なくなる。(省エネ仕様の)日本製品が受け入れられやすい環境がグローバルにできてくるのではないか」

――日本の技術力をアピールするタイミングということですね。

「企業や政府がやれることは多いと思う。発電や蓄電に関しても日本は要素技術をたくさん持っている。リチウムイオンや水素電池、発光ダイオード(LED)はその例だ」

「太陽光パネルも、最先端のフィルム状のものなど日本の技術は非常に進んでいる。自動車の天井や窓にフィルムをはって発電するといったことも技術的には可能で、実際に取り組んでいる人たちもいる」


E‣S活動と企業収益の両立

――投資にあたりESG評価の基準について教えていただけますか。

「どういうものをESG投資と呼ぶか、業界標準はまだできていないというのが実感だ。たとえばESGインデックスも、同じ企業に対する評価がプロバイダーによってまちまちで、相関がみられない」

「ニッセイアセットでは、企業ごとにE・S・Gそれぞれの取り組みと事業収益へのインパクトを評価している。要はESGの観点で良いことをしていても、それが事業収益に結びつかないとか、企業価値に影響を与えるマテリアリティ(重要性)があまりなければ高評価にはならない。どういうESG活動をし、それをどのように収益につなげていくかを評価するのがESG投資であり、必ずしも収益を目的としないCSR(企業社会責任)とはこの点が異なる」

「ESG、CSRあるいはSDGs(持続可能な開発目標)の活動も、それ自体に持続可能性を持たせるためには収益をしっかり確保する必要がある。カーボンニュートラルや脱プラスチックといった環境配慮を自社事業の中に位置付け、できるだけ自社技術を使ってコミットできるような事業の芽を育てて増やしていくことが大事だ」

――御社は2020年に初めて「スチュワードシップレポート」を発行されました。

「投資家あるいは顧客向けにわれわれのスチュワードシップ活動をまとめた。ほかにも先ほど述べたエンゲージメントを通じESGについて働きかけを継続することで、投資家ひいてはその裏側にいる消費者に(投資運用会社が)ESGについて関心を持っていることを伝えていきたい。経営者に(活動を始める・続ける)勇気や気付きを与える触媒の役割ができればいいと思っている」

「改善を思いつくのは簡単でも、それを実行して実現させるには時間がかかる。その過程でわれわれもぶれずにモノを言い続け、企業の素晴らしい取り組みや持続可能な経営体制、ビジネスモデルの構築に対しては高く評価していきたい」

「2、3年では変わらないことも、経営者はやるべきことを1個1個着実に実現し、必ずそこに辿り着くんだという姿勢を示すことが大事だ。そうすることで、その過程でイノベーションであるとか必要な技術が実は身近に見つかるなど、まさに『ワープする』ように実現時期が早まることもあると期待している」

――日本企業のESG活動が政府の「ネットゼロ宣言」によって一歩前進したことを実感しました。日本企業が持つ要素技術がネットゼロ実現に向けて、社会や世界に今後どのように貢献するかも楽しみです。最後に、経営者との対話を通じ1社ごとに投資判断をされているという点に、ESG投資はまだ始まったばかりだということ、そしてESGへの取り組みは企業ごとにさまざまで、いろんなステップがあるのだなということを感じました。今日はありがとうございました。

Hiromichi Matono

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