August 30, 2021
【NRI】ESGは全社で問題意識を共有、社員一丸で活動を推進
野村総合研究所(NRI)は2019年に22年度までの中期経営計画を策定し、グループの持続的成長と持続可能な未来社会作りを両立させる「サステナビリティ経営」の推進を表明した。科学技術や経済などさまざまな分野の専門家が社会課題の解決に取り組むことで、「社会になくてはならない存在」を目指す。会長兼社長の此本臣吾氏は、それには「社員一人一人が問題意識を持つことが重要だ」と強調。国際的動きと歩調を合わせ、ESG(環境・社会・ガバナンス)活動の社内外への情報発信に力を入れる。
NRIは日本初の民間総合シンクタンクとして1965年に設立された。88年に野村コンピュータシステムと合併し、コンサルティングからITソリューションまで一貫サービスの提供を強みとする。売上高の9割を構成するITソリューション事業は約9割が国内案件だが、今後は4~5年前に本格化させた海外進出を加速する計画だ。
60年に書かれた設立趣意書は、冒頭に「研究調査を通ずる産業経済の振興と一般社会への奉仕というねらいと一致する」と述べている。「ESGやSDGs(持続可能な開発目標)といったいまの流れは、設立時の思いが違った形で言葉として表現されたもの。われわれは設立から50数年間、その思いを継いできた」(此本氏)という自負がある。
90年代に台湾に赴任した経験から、近年世界的潮流になりつつある「ステークホルダー主義」の考え方も、NRIを含む日本企業には早くから根付いていたと振り返る。同時に、日本社会を外から見て気づいた課題もある。その一つがダイバーシティの推進、特に女性の社会進出の遅れだ。当時と比べて環境は改善したものの、女性の就労を支える社会インフラの整備は十分とは言えない。女性の幹部登用の影響について実施した社内調査では、社員のエンゲージメントやモチベーションを高めるという点で、女性管理職が「非常に秀でている」ことを示す事例がいくつも出てきたという。「社員が生きがいを持って仕事ができなければ、(社として)競争力は保てない」(此本氏)。社内で就労環境の改善と成功事例を積み重ね、女性がもっと活躍できる社会へ提言を続けたいと意欲を示す。
新型コロナウイルス感染症の流行は、テレワークの導入、業務やサービスのデジタル化の加速など社会に多くの変革をもたらした。コロナ収束後も「これだけは揺るがない」と断言するのが「ビジネスとITの一体化」。「人工知能(AI)やアルゴリズムといったテクノロジーの進歩と広がりにコロナ禍が重なり、デジタルトランスフォーメーションが一気に加速した。ビジネスとITの両ナレッジを生かした提案にこれからも力を入れていく。顧客側でもその両方を同時に考えられる人材の育成が必要だ」(此本氏)。ビジネスや組織風土の改革では利害相反もしばしば起きるが、経営トップがビジョンを示すことが解決に欠かせないという。
環境問題に強い危機感を持ち、「デジタルプラットフォームを通じたサービス提供やシェアリングエコノミー(共有化経済)への移行」を解決のキーワードとして挙げる。オンライン化と共有化経済が進めば、それだけエネルギー使用量や環境負荷は減る。「再生エネルギーを無尽蔵に作れる中国や米国などと違い、日本は太陽光パネルの設置も地理的に厳しいなど制約がある。デジタルテクノロジーを活用し、エネルギーを(大量に)使わずとも豊かな社会生活を送れる方法を考えなければいけない」(此本氏)。
NRIではそのための施策を率先して進めており、例えば金融機関に共同利用型サービスを提案。証券会社が取引システムを個別に構築・稼働する場合と比べてエネルギー使用量を削減し、二酸化炭素(CO2)排出量を7割以上減らせるという分析が出た。NRIグループ全体では30年度までに、13年度比でCO2排出量の7割超削減を目指す。保有する5つのデータセンターで省エネ設備の完備やサーバーの省エネ化を進め、すでに49%削減に成功。データセンターの使用電力の再エネ率7割達成も掲げ、数年以内の前倒し実現を視野に入れる。
顧客企業への提案も積極的に行っている。物流分野ではテクノロジーで配送ルートを最適化、これまで10台のトラックでさばいていた荷量を理論上7台で回せることが分かった。日本全体でテクノロジー活用を奨励する仕組みがあれば、多方面から知恵が集まり「(エネルギー利用を)さらに効率化できる」と期待する。
国際基準に沿ったESGの情報開示や、気候変動イニシアティブ、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)など国際的活動の認定取得にも早くから取り組む。こうした情報発信の先には13500人近い社員がいる。「日々の仕事がどういう形で社会に価値を生み、課題の解決に貢献しているか、社員一人一人に認識してもらいたい。そのための活動に尽力していく」(此本氏)。