December 04, 2023

【NRI】イノベーションプログラムで地域に起業コミュニティを育てる

チームのアイデアをビジネスモデルに変えるワークショップ|NRI

スタートアップ企業のためのエコシステムを形成することは、特に大都市圏以外では容易なことではないかもしれない。

東京、大阪、福岡などの都市では、多くの起業家向けの支援プログラムやビジネスコンテストが存在する。「そういったものとはちょっと違うものを作りたいと思いました」と野村総合研究所(NRI)の未来創発センター リージョナルDX研究室長、齊藤義明氏は話す。

地域における起業の環境は、多数のスタートアップ企業がひしめく大都市のそれとは明らかに異なる。地方都市ではスタートアップ支援システムは「ドーナツ」化が起きていると齊藤氏は語る。未来のスタートアップ企業のために、地方銀行、財団、その他の組織は支援体制を整えている。しかし投資先がないのだ。それは「ドーナツ」の真ん中にある空洞のようだという。投資に値する起業家を輩出するには、そのための種を播くき、芽が出るまで育てていく必要があるのだ。

「起業家が出てくるまで待つのではなくて、もう一歩踏み込んで、地域の現場で何か挑戦したい人達と一緒にもがき悩みながら作っていくプログラムにしようと思ったのです」と齊藤氏は言う。

NRIのイノベーションプログラムは2014年に北海道の十勝地域で始まった。それ以降、プログラム参加地域は沖縄、新潟、山形の各県と山陰地方など5地域に拡がった。育成した起業家は700人を超え、150以上の新事業構想と25の新会社を生み出した。

このイノベーションプログラムは齋藤氏が国内の100人の革新者との間に築いたネットワークがきっかけだった。そのプロジェクトの前に、彼は米国の財団の支援でイノベーションや起業をテーマに100人の起業家や専門家を訪問し、イノベーションの現場を目撃したという。そして、同じように国内の起業家と対話を重ねることで、社会課題解決のための独自のビジネスモデルや刺激的な人生観を知ることになった。「彼らに会った事で、このような方達を全国に増やしたいと心から思ったのです」と齊藤氏は語る。「国も地域も人口が減少し、人々は疲弊しています。もしこのような起業家が増えていったら、地域が活性化されるだろうと考えました」

当然、起業家支援プログラムを運営することは容易ではない。地方自治体、金融機関、その他の支援機関で構成される事務局は、プログラムを支援するために深いコミットメントとある程度の予算が必要になる。30~40人が4カ月から5カ月にわたる15のセッションに参加をする。彼らは7から10のグループに分かれ、セッションの最後には実際のビジネスプランのプレゼンテーションを行う。

野村総合研究所(NRI)の未来創発センター リージョナルDX研究室長、齊藤義明氏

なかでも最も重要なのは、新規ビジネスはチームで創り出すという点である。「最終的な目標はコミュニティを作ることです。何か一つ優れたスタートアップができ上ればそれで良いわけではないのです」と齊藤氏は語る。

彼がコミュニティが必要だと話すのには理由がある。それは人材が豊富ではない地域ではコミュニティから育てる必要があり、また地域によっては保守的な土地柄が起業家の輩出を阻むということもある。さらに、イノベーションの創出にはいかに周りの人々とコラボレーションをしていくかが必要だということもある。「イノベーションというのは、必ずしも世界がまだ誰も気がつかなかった発明をすることではなく、すでにあるものの足し算や掛け算ですよね」

イノベーションプログラムは果実も生み出し始めている。特に、来年でプログラム開始から10周年を迎える十勝ではそうだ。この地域は、北海道の開拓者精神が残っており、一世紀半前に、原野を開拓しながら北海道の警備にあたる屯田兵の派遣を明治政府が諦めた土地で、現地住民が自身で荒野を切り拓いてきた。その後、十勝は気候に恵まれている土地柄であることもあり、耕作地として食料自給率が非常に高まった。それらの要因から、起業をするリスクを厭わない地域性を生んだのかもしれない。

一例を挙げると、北の大地の力強い馬がレトロなデザインの貨車を引き、中ではクラフトビールや十勝産のおつまみを提供する「馬車バー」がある。これらの馬は、重い鉄ぞりを引くレースで知られるばんえい競馬を引退した馬であり、かつては北海道の原野を開拓することに使われたが、近代になって耕作がトラクターに置き換わるようになってからは、ばんえい競馬も数が減少している。

もう一つの例は、「KOYA.lab」だ。車で牽引する小型のトレイラーハウスが、十勝の絶景ポイントの一つに連れて行き宿泊するというサービスだ。4つある絶景ポイントの中には、丘の上から十勝のパノラマが見下ろせる場所や、夜に満天の星空を眺めることのできる森などがある。

十勝以外でも、新潟県では判子店を営む店舗でウイスキーを蒸留する「亀田蒸溜所」がある。判子の使用は社会のデジタル化とともに減少しているが、この創業者は彼が本当に好きなウイスキーを作ることを始めようと決心した。ウイスキー品評会「ワールドウイスキーアワード2023」で、この蒸溜所の「ニューポットPeated」がNew Make &Young Spirits部門における「ワールドベスト/世界最高賞」を受賞した。この世界的な品評会には、40カ国以上から1500銘柄以上のエントリーがある。

将来的には、イノベーションプログラムを立ち上げる地域を、現在の5地域から増やしていきたいと齋藤氏は語る。「このようなビジネスの価値がより広く認められて、10から20の地域でプログラムが立ち上がれば、より大きな社会的インパクトがあり、他地域への発信力にも繋がるだろう」と齊藤氏は話す。

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