March 18, 2019

より環境に優しい展望と実践に向けた転換の勧め

Japan Times ESG Consortium

Audience members listen to a presentation by Hiroshi Aoi, president of retail chain Marui Group Co. | YOSHIAKI MIURA

地球の持続可能性への関心が高まり、国連が提唱する「持続可能な開発目標(SDGs)」の実施が進む中、企業にとって、環境、社会、ガバナンス(ESG)の課題に取り組むことは、投資を呼び込み、価値の創造を通じて持続可能な世界の実現に貢献するために必要不可欠だ。東京で先日開催されたフォーラムで、リーダーや専門家たちは聴衆にそう語った。

日本での ESG 推進の取り組みを海外の投資家に向けて英文で発信することを目的として、2018年に設立された Japan Times ESG 推進コンソーシアムは、ESG 投資の意義と企業でどう取り組みを進めるかについて共有するため、2月20日にこの行事を開催した。

今回のフォーラムには、日本での ESG の取り組みをけん引する3人のリーダーが登壇した。国際金融情報センター(JCIF) 理事長の玉木林太郎氏、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)理事長の髙橋則広氏、そして大手小売チェーン丸井グループ代表取締役社長の青井浩氏が、六本木アカデミーヒルズ・オーディトリアムに集まった満員の聴衆に向けて講演を行った。

開会のあいさつで、財務副大臣の鈴木けいすけ氏は、昨年頻発した自然災害や世界的な異常気象に見られるような気候変動は、既存の社会システムに大きな転換を求める状況になっていると指摘した。

鈴木氏は、「個人や企業の気付きや善行に依存するのではなく、ESG 投資のトレンドを推進するためには、さらなる資金流入を期待していかなくてはならないのです」と述べた。鈴木氏はまた、ESG 情報に関する企業の情報開示のフレームワークと、投資家が企業を比較できるようにする指標を作ることの重要性を強調した。

気候変動の警告

JCIF の玉木氏は、「気候変動とビジネスの課題」と題して基調講演を行った。

「世の中は大きく変わろうとしています」と玉木氏は述べ、変化の主な要因として、人口動態、デジタル化、気候変動を挙げ、なぜ ESG が重要なのかを説明した。

「ESG は倫理を追求しているわけではありません。ESG というのは、あくまでも最後は投資に対するリターンとして返ってくることを前提にした議論です」と、玉木氏は語った。そして、「これまでの財務情報が提供してこなかった、企業の長期的視点に立った情報を、ESG が提供しているのです」と述べた。

玉木氏は歴史的な合意となった2015年のパリ協定と、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新の報告書に言及した。この報告書には地球温暖化のぞっとするような予測が盛り込まれており、温暖化を1.5度以内に抑えるのが望ましいとしている。しかし、1.5度シナリオを達成するためには、2050年までに二酸化炭素の排出量をネットでゼロにする必要がある。

「炭素の排出を減らすという話ではなく、なくす、止めるという議論になっているのです」と玉木氏は語った。そして、「19世紀末からわれわれは化石燃料に依存してきました。脱炭素化は、まさに隅から隅までの、既存の社会経済システムの転換を要求するものです」と述べた。

気候変動がビジネスに与えるインパクトとして、玉木氏は3点を挙げた。第一に、企業は現在のビジネスモデルの延長ではなく、人々が、もう化石燃料を使わなくなった時代を想定し、将来から逆算して事業を考えるべきだということ。第二に、環境負荷を下げることは、企業のブランドイメージの確立と維持のために非常に重要であるということ。そして最後に、長期的なリターンに高い関心を持つ株主や投資家に対して、企業はその活動を開示すべきであるということだ。

これほど大きな転換の実現は、市場メカニズムの力を借りなければできないが、マーケットが現在機能していない理由は、「温室効果ガスの排出に値段がついていないから」だと玉木氏は指摘し、炭素税と排出権取引の2つを可能な解決策として提案した。

玉木氏は、「導入について、政府が長期にわたる明確で、信頼できる道筋を示すことができれば、炭素税は極めて有効な方法で、人々の行動が変わり、これからあまり環境負荷のないような分野についての投資や研究開発も進むはずです」と述べた。

玉木氏はまた、化石燃料をほとんどのエネルギー源とする、いわゆる座礁資産の問題、化石燃料ベースの企業からの投資引き揚げの動き、グリーンボンド市場の拡大、そして企業情報の開示、つまり、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)など、グリーンファイナンスの論点にも触れた。

「なぜ、日本では気候変動への関心がいまだに低いのか?」という問いかけをして、玉木氏は講演を締めくくった。

ユニバーサルオーナー、ESG を推進

2018年末時点で運用資産額156兆円という GPIF の髙橋氏は、「ユニバーサルオーナーとしての ESG 投資」のテーマで基調講演を行った。

「多くの人たちが分かっていないところですが、今日、シニア世代が受け取っている年金は、今の若い人たちが納めている保険料なのです」と、髙橋氏は話した。そして、「25年後以降、若い世代の人口が減って、シニア世代を支え切れなくなったときに取り崩して使えるようにとってある(現在、納められている保険料と支払う年金の)差額の一部を GPIF が運用しているわけです」と語り、「また、将来の若い人たちの保険料をできるだけ上げないようにするためにやっているのが私たちの運用です」と述べた。

だが、これから25年後の世界の状況の予測を考えると、将来の世代は今日の世代よりも気候変動に苦しんでいそうだ。それ故、GPIF としては収益性を確保するだけでなく、持続可能な社会に取り組むべきなのだ。「それが、長期投資家としての GPIF が、基本的に突きつけられている課題です」と髙橋氏は語った。

GPIF の現在のポートフォリオによれば、運用資産の半分は株式に投資されている。80兆円については、その投資スタイルはほとんどがパッシブである。つまり、GPIF が積極的に投資先を選ぶのではなく、国内であれ海外であれ、ほとんど全ての上場企業の株を長年ずっと保有することになる。

「長期のユニバーサルオーナーとして、われわれは(投資先を)選ぶことはできず、世の中の仕組みそのものにベットせざるを得ないのです」と髙橋氏は語った。よって、地球温暖化や企業ガバナンスの欠如など、企業の将来を脅かしかねない長期的なリスクを減らすことを主眼とする ESG を推進するのは、GPIF にとって当然のことだと、髙橋氏は説明した。

現在の法律では、GPIF が金融資産を直接購入することはできないので、GPIF は資産運用会社を通じて投資する。FTSE Blossom Japan Index、MSCI ジャパン ESG セレクト・リーダーズ指数、S&P/JPX カーボン・エフィシェント指数、MSCI 日本株女性活躍指数など、環境、社会、企業ガバナンスの何らかの基準に合致する企業をカバーする5つの ESG 指数を選び、GPIF はそうした企業に3兆円を投資している。

企業はポジティブ・スクリーニングによって指数に採用され、ESG 情報の開示が奨励される。GPIF は昨年12月、TCFD への賛同を表明した。髙橋氏は、「それでも、温暖化ガスについての日本企業の情報開示の現状は、国際ランキングの中では低位にとどまります」と述べた。

ESG の活動をさらに推進するため、GPIF は2016年から毎年、アセットマネジャー、企業、従業員を巻き込んで、ESG 情報についての優れた企業報告書を選んでいる。

「ひとりよがりになるリスク、やりっぱなしになるリスクを感じています」と話した髙橋氏は、GPIF 自身も昨年、年次 ESG 活動報告を出したことに触れ、「継続的に ESG の課題に取り組んでいくことが大切です」と述べた。

ESG を推進する丸井の取り組み

経営の立場から、丸井グループの青井氏は、「ESG 経営の実践」というタイトルで特別講演を行った。

1931年、家具の月賦商として創業した丸井は、小売・金融一体の独自のビジネスモデルを時代の変化に合わせて進化させてきた。

「共創(客と共に価値を作ること)は、創業者の言葉に由来する考え方でしたが、今われわれはこの考え方をさらに発展させ、お客様だけでなく、将来世代を加えた全てのステークホルダーと共に価値を創る、価値共創経営というものを進めています」と、青井氏は語った。

青井氏は、ESG に関して多くの企業が直面するであろう5つの課題を示して、丸井の取り組みを紹介した。ESG は企業価値につながるのか、コスト増の問題をどうするか、経営陣のコミットメントをどう得るか、どんな取り組みをすればよいのか、どうやって社内にESG の考え方を浸透させるのか、それらを考えることが重要だ。

過去5年間の丸井グループの株価と EPS(一株当たりの利益)の推移と、比較として、トピックスの動きや競合企業の株価や EPS の推移を示した折れ線グラフは、聴衆の関心を集めた。

状況証拠でしかないと認めつつ、青井氏は、同社の株価の伸びが EPS の伸びを上回っている事実について、「ESG に関わる取り組みによるプレミアム」ではないかとみている。

「近年、非財務情報である ESG の取り組みも反映されるマーケットのメカニズムになってきているのではないかと思います」と青井氏は語った。

気候変動のリスクを意識して、丸井グループは同社のエネルギー使用の80パーセントを占める電力について、化石燃料から再生可能エネルギーにシフトし始めている。同社は昨年7月、使用電力を100パーセント再生可能エネルギーにより発電された電力にすることに取り組んでいる企業が加盟している、国際的な企業連合である RE100に加盟した。RE100の目標を達成するために、丸井は100億円のグリーンボンドを発行したが、これは国内小売業界では初のことだ。みんな電力と業務提携し、丸井のエポスカード会員に再生エネルギーへの切り替えを勧める一方で、丸井は独自の電力供給網を築くべく、電力小売業者としての登録も予定している。

「環境への取り組みをリスクやコスト増から、そういった取り組みを本業のビジネスに取り込んでチャンスに変えていくことが重要です」と青井氏は述べた。

青井氏は、全ての人が「しあわせ」を感じられる、インクルーシブな社会への丸井のビジョンと、ビジネスを通じてそのビジョンを実現しようとする、同社の取り組みであるインクルーシブな店づくりやモノづくり、ファイナンシャル・インクルージョンなどについて言及した。

「基本的には、ESG 情報は株主と投資家のためのものですが、それは従業員や顧客や取引先にとっても有益なのです」と青井氏は話した。そして、「だから、ESGは重要なのです。それは経営自体のためになります」とも述べた。青井氏は、優秀な社員を採用する際に、ESG がいかに有益であるかということも付け加えた。「ミレニアル世代はインクルージョンに共感を持っています」と語り、トップダウンではなく、やる気のある従業員たちの主導で行われている、インクルージョン実現のためのさまざまな活動を紹介した。

「ESG を推進するためには、企業文化を変革することが重要であり、ESG を推進することは、企業文化を変革することになるのです」と青井氏は述べた。

パネルディスカッション

一連の講演に続いて、玉木氏と青井氏をパネリストに、コモンズ投信取締役会長の渋澤健氏がモデレーターを務めたパネルディスカッションが行われた。

渋澤氏は ESG 投資に関して、IR 活動の場での投資家たちの関心と反応、そして日本と海外で違いがあるかどうかについて尋ねた。

青井氏は、日本は ESG 投資において、まだ欧米に後れを取っているが、GPIF の大々的な推進のおかげで、資産運用において ESG 情報は必須になったと述べた。

「さすがに投資家からの拒絶反応はもうありませんね。それでも、私たちの『VISION BOOK 2050』のエッセンスを紹介して、当社の長期的展望について話をしたときには、半分ぐらいの人はポカンとしていましたね」と、青井氏は語った。

グリーンボンドの流動性をもっと高めるにはどうすればよいか、との渋澤氏の質問に答えて、玉木氏は、何が「グリーン」かについて統一的な定義がないことを指摘した。

「政府や格付け機関のサポートにより、グリーンについての社会的コンセンサスを得る必要があります」と玉木氏は述べた。

企業の情報開示について、渋澤氏は、非財務情報である ESG 情報の測定はどうあるべきかを尋ねた。

玉木氏は、気候変動関連の情報は測りやすいので、それらの項目は一種の財務情報になりかけていると答えた。

青井氏も測定は大事だと同意し、エコの分野での取り組みを、丸井グループがどのように数値化しているか紹介する一方で、「共創を通じたしあわせ」のような社会的要素になると、測るのが難しいと指摘した。

玉木氏は、「そのような指標をいかにして作るかが、SDGs の実施でも共通の克服課題です」と述べた。

渋澤氏の最後の質問は、企業のミッション(何をやるのか)と目的(なぜやるのか)の違いについてだった。

「利益第一の意思決定では、正しい経営判断ができません。そうではなく、われわれがなぜそれをやるのかに向けて考えると、利益も含めて正しい経営判断ができると、私は思います」と、青井氏は述べた。

玉木氏も同意し、ミレニアルのような若い世代は社会を改善することに重きを置いており、ビジネスの目的に関心が高いと指摘した。

PRI(責任投資原則)ジャパンヘッドおよびCDP(前身はカーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)ジャパンのディレクターを務める森澤充世氏がフォーラムを締めくくり、ESG 推進コンソーシアムへのさらなる参加への期待を表明した。

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