October 17, 2019
社会経済の転換期における投資
環境、社会、ガバナンス(ESG)の要素がますます企業経営と事業活動にとって重要になってきている中、世界の構造的変化に対応するために必要な革新的なアイデアや示唆に富んだ提言を共有しようと、Japan Times ESG 推進コンソーシアムと国際金融情報センターは東京で9月26日、フォーラムを共催した。
ラッセル・インベストメントが後援した「2019 リーダーズ・カンファレンス」と銘打ったこのイベントでは、投資の役割と傾向を取り上げた2つのパネルディスカッションが行われた。
一つ目のパネルディスカッションでは、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)理事長の髙橋則広氏と、国際金融情報センター理事長の玉木林太郎氏が、「地球規模の構造的変化と我々のすべきこと」というテーマで意見を交わした。
このセッションは日本投資顧問業協会会長の大場昭義氏がモデレーターを務めた。
まず大場氏はこのテーマについて、戦後のビジネスモデルが限界に直面している現代において、金融という点で持続可能な社会を形成するための方策を講じながら、リターンを増やしていくにはどうすべきか、ということだと述べた。
大場氏から玉木氏への最初の質問は、このような変化はどのようにして生まれ、他国と比較して日本は構造的変化の背景と過程においてどのように異なるのか、というものだった。
玉木氏は、「人口動態、デジタル化とイノベーション、脱炭素が社会経済的変化を促した三要素です」と答えた。
また玉木氏は、長期的な投資家やその他のステークホルダーの要望に応えていくために、気候関連の情報は、各企業が開示していかなければいけないと語った。
「戦後に形成された日本の精緻な社会経済システムの中で、日本人はそこそこ幸せに生きてきたため、システム全体を変えるというリスクは避けてきたところがあります」と、玉木氏は述べた。
そして玉木氏は、今日の決断が長期的な未来を決定づけるということに、企業が気付かなければならないと語った。
次に、大場氏は髙橋氏に対して、GPIF はこの転換期において、世界最大の年金基金として、また長期的投資家としてどのように活動しているのか尋ねた。
髙橋氏は、GPIF が実施した調査結果を示し、非財務情報を掲載した統合報告書を発行する上場企業が増えてきていることを紹介した。
「しかし、ESG にはいくつも開示基準があるため、何を開示するかを決めるのが難しいのです」と、髙橋氏は述べた。そして、「われわれは、例えば気候変動など、どういった要素に関心を持っているかを投資家側も明らかにするよう、呼びかけています」と話した。
髙橋氏は、GPIF の株式投資のほとんどはインデックスベースのパッシブ運用となっており、投資家と投資を受ける企業との間のより深い対話を促していると語った。
続いて大場氏は、「投資家や会社、政府は、リターンの継続的な改善と社会の持続可能性を同時に実現するためにどうすればよいか」との質問を投げかけた。
これに対して玉木氏は、機関投資家の長期的資金の投資先がどこになるか次第で、構造的変化のスピードが変わるだろうと述べた。
再生可能エネルギーへの投資など、持続可能で長期的な投資は、その他の金融資産の市場価値の変動に影響されることなく、長期にわたって安定的なリターンを生むと、玉木氏は語った。
「長期的投資は機関投資家のニーズに合っているはずです」と、玉木氏は話した。
さらに、「保険契約者や年金加入者など、機関投資家の背後にいるベネフィシャリー・オーナーが、本当に期待していることは何かを理解することは大切です。四半期ごとの決算内容を気にしているでしょうか? それよりもほとんどの人は、長期的に社会を持続可能な形にするために、資金を使ってほしいと思っているのではないでしょうか」と述べた。
また玉木氏は、政府は脇役という立場から、民間がしかるべき方向に向かうよう、カーボンプライシングのシステムなどの枠組みを提供していくべきだと語った。
一方髙橋氏は、資産運用会社は、投資先の会社が何を目指しているのかを知るために、非財務情報をしっかり見ていくべきだと述べた。
「企業戦略の中に ESG 要素を入れていくよう促すようにしています」と、髙橋氏は話した。
また髙橋氏は、「GPIF は直接投資をしないため、ESG インデックスが誰にどのように作られていて、透明性があるかどうかなどについては、特に関心を持っています」と語った。
セッションの締めくくりに玉木氏は、ミレニアル世代とさらにその下の世代は、明らかに異なる価値基準を持っていると話した。
「若者の投票行動は、特にヨーロッパやカナダで変化していっています。彼らはよりグリーンな選択肢を選ぶようになってきており、日本の若者も将来的にはこれに追随して、政策に急激な変化を起こす可能性があります。われわれはこれに対応できるよう、準備しておかなければなりません」と、玉木氏は述べた。
このフォーラムの2つ目のパネルディスカッションについては、当コラムで近々掲載予定だ。