February 21, 2019
農業で新たな気付きを与える進歩~髙橋廣介氏(アプレ社)と遠藤正道氏(NTT ドコモ)
北海道にあるアプレ社は、同社の施設で28種類の無農薬野菜を栽培している。全て、二棟のハウスで栽培されているため、天候や気温に左右されない。同社の野菜は水耕栽培のため、土すら必要ない。
全ての野菜に単質養液を使うという、単純かつ論理的で先見性ある方法が、アプレを農業界の最先端企業たらしめている。
野菜はそれぞれ、種類によって成長に必要となる栄養分が異なるため、これまでの農業では単一栽培が主流だった。単一栽培では、農業従事者は栽培する作物に適した肥料を選び、最適だと思われる環境を作ろうとする。
しかし、アプレの代表取締役の髙橋廣介氏によると、必要とされる栄養を与えてあげなければならない、というのは非常に人間的視点に基づくやり方だという。
「植物は勝手に自分に必要なものを選択して、いらないものは他の植物が吸収するんですよ」と髙橋氏は述べた。
自然の生態系はまさにこのようにして維持されている。それぞれ異なる栄養素を消費するがゆえに、さまざまな植物が共存できるのだ。多様性によって良いバランスが保たれている。
髙橋氏は、これを「雑木林理論」と呼ぶ。「一種類の木しか生えていない人工林は、定期的に枯れることがあります。全ての木が同じ栄養を奪い合うと、土壌のバクテリアのバランスが崩れます。劣化した土には全ての木を支えることはできません」と髙橋氏は説明した。自らバランスを保つことのできる自然林には、このような問題は起こらない。
単一栽培における土壌劣化との闘いに終止符を打つため、髙橋氏はこの理論を農業に取り入れた。アプレのハウスでは、多種多様な野菜が隣り合わせに植えられ、共通の養液からそれぞれが必要な栄養を吸収している。
単一栽培では栄養を与え過ぎて作物を甘やかしがちなのに対し、アプレの野菜は、それぞれが能力を出し切って自分に必要なものを勝ち取るので、より強く、よりおいしい野菜になるという。
「技術面でも効率化されています。われわれのモデルは狭い場所で、短期間で野菜が育つので、露地栽培に比べ、すでに40倍程度の効率性を誇っています」と髙橋氏は語った。
さらに、この効率性を上げるという髙橋氏の野望を支えるのは、NTT ドコモが、NTT グループの AI を活用した取り組み、corevo を通して提供している技術である。
温度、湿度、二酸化炭素量、養液の成分バランス、野菜の画像など、効果的に収集して分析し、記録していけば、役立つ情報がたくさんある。
まさにそれをやることで、効率を上げ、熟練者の勘だけに頼らない農作業にしていくことができるのが NTT ドコモのAI 技術だと、同社の法人ビジネス本部第二法人営業部の第五営業担当部長、遠藤正道氏は説明した。
「私の目標の一つは、仕事を作ることで日本の地方再生に貢献するということです。農業という道を開き、誰もが始めやすくするというのは、この目標を達成するための一つの方法だと思っています」と髙橋氏は述べた。
アプレは、すでに香港での野菜の販売に成功している。しかし、このように野菜を海外で売るだけではなく、水耕栽培システムそのものを広めることで海外市場に進出しようともしている。
アプレの勝算は十分にある。というのも、同社のシステムの最もユニークな点の一つが、廃液を出さない、完全循環型だということだからである。髙橋氏によると、4年近く前にハウスが稼働を始めてから、使用済み養液を一滴たりとも廃棄していない。これは、多様な品種が一緒に栽培されることで養液が自然に浄化され、再利用が可能になるからだという。
「アメリカやヨーロッパなど、世界の一部地域では、水耕栽培養液の廃棄が厳しく規制されているんです。当社のシステムを使えば、廃液の浄化設備を作る費用を削減できます」と髙橋氏は語った。
世界進出の第一歩として、アプレと NTT グループは、2月25日から28日までスペインのバルセロナで開催されるモバイル技術の国際展示会 MWC Barcelonaの、スマートアグリカルチャー部門に出展する。
「日本には、まだ水耕栽培の廃液に関する規制がないんですが、政治家の間では取り入れるべきだという議論も始まっているようです」と髙橋氏は話した。
髙橋氏は、日本における水使用量の67パーセントが農業用水であり、水質汚染の主な原因となっていることも指摘した。アプレの水耕栽培システムは、日本と海外、両方における農業の環境負荷を減らす可能性を持っている。