April 17, 2024
NTTの「Sugatami」が映し出す、都市の可能性
Translator: Tomoko Kaichi
地方の社会問題の解決を図ろうと、デジタル技術の活用が国策として推進されるなか、データを使って現状を分析し、問題を抽出し解決策を見いだそうとする動きが一部の自治体で始まった。
日本電信電話株式会社(NTT)の「サステナブル・スマートシティ・パートナー・プログラム(SSPP)」が提供する「Sugatami」は、まさにそのためのツールだ。SSPPは地方創生を支援する共創プラットフォームであり、「姿見」から名前をとったSugatamiは、地域の機能や住民の満足度を鏡のように映し出す。
ジャパンタイムズは、NTT研究開発マーケティング本部アライアンス部門の松村若菜部長と元木健太主査、そして2つの自治体の職員に、市民をまきこんだ「まちづくり」におけるSugatamiの活用について聞いた。「中央政府は全国の自治体に、エビデンスに基づくまちづくりの政策立案を推進している。多くの自治体は、この点で第三者と提携する方が良い結果を期待できるかもしれない。データに特化した企業として、私たちはこのような取り組みに参加できることをうれしく思う」と元木主査は語った。
2つの自治体のうち1つは、2020年にSSPPに加盟した山梨市だ。政府が2022年12月に発表した「デジタル田園都市国家構想」の実現に向け、山梨市は地方創生のためのデジタル技術の効果的な活用を議論してきた。そして、市民のウェルビーイング(心身の幸福)を高めるまちづくりのため、市として何をするべきかを考えようと、まずは市民と会うことから始めることにした。
市民との対話会を前に、山梨市ではSugatamiを使い、経済、教育、健康、福祉、交通など都市機能18分野を100以上の指標に基づきスコア化し、さらにアンケート調査を行い住民の満足感を評価することで、地域の特性を可視化した。2023年3月の対話会には、高木晴雄市長も参加した。
「対話会で市の2022年度予算の内訳と、Sugatamiから得たデータを並べて提示したところ、意外な事実がわかった」と山梨市の企画政策担当の雨宮雄貴主任は振り返る。「例えば、子育てや教育など、市が予算を割いているわりには、市民の満足度が向上していない分野があった」。一方、維持管理にあまり手間がかからない、豊かな自然環境や飲料水の水質については、多くの人が非常に満足しているようだった。
「参加した市民の中には、教育の満足度が向上しないのは、現状が当たり前に思われているからではないかと分析する人もいた。人口減少など、行政だけでは対応が難しい問題は、行政にすべて頼るのではなく、市民も一緒になって解決策を考えていきたいという意見も多かった」。雨宮主任はこう述べ、「今後は市の過疎地域の住民、または子供や若者など、さまざまなグループの人たちと同じような対話の場をもっと設けたい」と語った。
雨宮主任によると、行政が市民に何かを説明したり、市民から要望を聞いたりする機会はこれまでもあったが、市民と深く議論する対話会はこれが初めてだった。こうした分析と議論を重ねることで、市の限られた予算を最も効率的かつ効果的に使うことができると期待する。市では昨年、市職員向けのワークショップでもSugatamiを使っており、今後は新人職員の研修でも活用したい考えだ。
Sugatamiを導入したもう一つの自治体は徳島県北島町だ。同町で行財政改革の推進を率いる杉本航平氏は、「北島町は県内で面積が最も小さい自治体だが、2万3000人強の人口は少しずつ増えており、人口密度は四国で最も高い。過疎化の危機感は、少なくとも今のところ高くない」と話す。しかし、住民の満足感は高いとはいえず、町の魅力もあまり認識されていない。そのため、住民のウェルビーイングのため、この町の課題を理解し、それらを持続可能な方法で解決するにはどうすればいいかを、Sugatamiを使って模索しているという。
「たまたまNTTのプレスリリースでSugatamiのことを知り、私からアプローチして意見交換を始めた。自治体の包括的戦略を策定するにあたりSugatamiを活用し、町への理解を深めた」と杉本氏は話す。
日本政府は5年ごとに総合戦略を示し、各自治体がそれを具体的な施策に落とし込む。杉本氏によると、「統計や市民アンケート、外部有識者の意見などを参考にしてきた」という従来の手法にSugatamiを加えることで、町の都市機能や、都市機能ごとの住民の満足度を多角的に分析することが可能になった。それにより、「例えば、教育は町が最も労力と資金を投入した分野の一つだが、住民はあまり満足していないことがわかった」といい、この種の気づきが都市機能へのアプローチやリソースの配分を見直す助けになったという。
「住民が抱く幸せや願望の形はさまざまで、それらは相反することもあれば補完し合うこともある。自治体がそれらすべてを満たすことはできず、住民の協力が必要なこともある。自治体にとっては、住民の望みが何であれ邪魔をせず、実現できるよう支援する姿勢が重要で、それが結果的に住民の望みを叶えることにつながる」と杉本氏は語った。
北島町では今後、住民向けのワークショップでSugatamiを活用し、町に関する豊富なデータを提示する計画だ。まちづくりの現在地を理解してもらい、目指す姿を自分ごととして認識してもらいたいと考えている。
杉本氏は、新しい視点や意見を得るため、住民以外の人や外部組織と交流する重要性についても触れ、SSPPはそのための理想的なプラットフォームだと評価する。実際、SSPPのそもそもの目的がまさにそれだった。「(SSPPの)会員である自治体、企業、アドバイザー、まちづくりに関心のある人など、多様なステークホルダーが連携し、自発的に行動して知恵を出し合い、問題を解決する。これがSSPPの目指す姿だ」とNTTの松村部長は話す。
NTTは、まちづくりに携わるために必要な資質を身につけるための機会も、グループ社員に提供している。松村部長は、「まちづくりの信頼できるパートナーとして認知されるためには、利害の異なる多様な関係者とコミュニケーションをとり、合意形成ができる人材がもっと必要だ」と現状を説明。この研修プログラムを社外にも広げ、異なる立場にある人々が互いに学び合う機会を作りたいとのNTTの考えを最後に述べた。
NTTは、ジャパンタイムズと共同で持続可能社会の実現に向けた日本の取り組みを発信する企業グループ「Sustainable Japan Network」の会員です。ネットワークへの参加や活動詳細はウェブサイト(https://sustainable.japantimes.com/sjnetwork-jp)をご覧ください。