August 25, 2023

【丸紅】「グリーン」への貢献を通して収益力強化と企業価値の最大化を目指す

Hiromichi Matono

グリーン戦略は丸紅が現在推し進める基本方針の一つとなっている。この戦略によってグリーン事業を推進し、すべての事業をグリーン化することで、収益性と企業価値の最大化を目指している。

「全社的に、あらゆる本部がグリーン戦略を追求していくなかで、私達はその中心を担う意気込みを持って取り組んでいます」と丸紅フォレストプロダクツ本部長の寺垣毅氏は話す。

日本の5大総合商社の1社である丸紅の創業は1858年までさかのぼる。丸紅株式会社が設立されたのは1949年だが、長い歴史において紙パルプ事業は食料や電力と並ぶ主要事業の一つだ。2019年に紙パルプ事業は、森林由来の素材を幅広く扱う事業内容を反映してフォレストプロダクツ本部に改称された。そして、「人と森の力で、サステナブルな未来を切り拓く」をパーパスとして掲げる。

「自分達の取り組みを、もっと根源的に突き詰めたいと思ったのです。自然や環境に優しいものを扱っているという自負があったので、もう一度その想いを見つめ直したい。そして、その社会的存在意義や志をもう一度みんなで議論しようじゃないかと本部員に投げかけました。私達の全ての活動の原点として、迷った時の羅針盤になるような言葉にしたいと思いました。」2021年にパーパスについて議論を進めたきっかけについて、寺垣氏は経営共創基盤の木村尚敬パートナーとのインタビューの中でこう述べた。

フォレストプロダクツ本部は森林由来の素材やプロジェクトを扱う組織だ。例えば、バリューチェーンの上流では、インドネシアやオーストラリアで合計13万ヘクタールの植林面積を保有・管理する海外植林事業を経営している。丸紅が100%保有するインドネシア子会社MHPだけでも、12万ヘクタールの植林面積を管理し、ユーカリを植え、一貫経営する製紙用パルプ工場に素材として供給し、その製品をアジア全域に輸出している。また、現地コミュニティと協力し地域社会の発展や環境保全に貢献するとともに、バイオ燃料など森林資源を活用した新規ビジネスの開発を目指している。

Tsuyoshi Teragaki, chief operating officer for Marubeni’s Forest Products Division | Hiromichi Matono

しかし、森林資源をチップ・パルプ・紙などの素材として供給するだけでは充分ではない。一方で、伐採をせず森林によるCO2吸収だけを目的とした事業も良い事業ではないと寺垣氏は話す。「森林を活用することで、素材利用による経済価値と環境価値の両方を追求していきたい」と寺垣氏は言う。インドネシアとオーストラリアのプロジェクトは全体で1100万トンの二酸化炭素(CO2)を蓄積し、2030年には1900万トンの蓄積量にすることを目指している。

さらに丸紅は、東南アジアやアフリカにも植林事業を拡大することを視野に入れている。

例えばフィリピンでは、20世紀初頭には国土の70%が森林地帯だったが、近年その面積は20%に減少してしまった。このような森林破壊により、フィリピンは豪雨に見舞われると深刻な洪水や土砂災害が起きる。今年2月、丸紅は環境天然資源省、フィリピン大学、現地の財閥と基本合意書(MOU)を調印した。植林事業で環境保護に貢献しながら、森林再生によるCO2の吸収と蓄積を通してカーボンクレジットプログラムを開始することを目指す。

丸紅は旧ポルトガル領のアンゴラにおいても現地企業とMOUを調印し、現地での植林事業の可能性を検証する。アフリカ大陸は世界で最も森林の減少率が激しい。アンゴラ南部では、かつて内戦によりポルトガルのパルプメーカーが撤退し、その後放置された植林地で違法伐採が行われた。丸紅は森林再生を通して、森林の素材活用とカーボンクレジットを創出することを目指していると寺垣氏は話す。

寺垣氏によると、植林事業で重要なのは環境を保護しながら長期的に収益を上げるだけではなく、一部を伐採することで地元に雇用創出をし、住民の日々の生活の糧にも繋げることだという。

「CO2吸収を目的として伐採を行わない植林事業の場合、事業主はカーボンクレジットからの収入による収益が上がるが、現地の人々から見れば「木を活用しないのはもったいない」と盗伐し、燃料に利用したり輸出をしたりしてしまう。そこは住民とのコミュニケーションや地域との共生が必要になってくる」と寺垣氏は話す。

そのために植林事業に必要なことは土地のポートフォリオを組むことだという。その上で、植林面積の一部は環境保全の促進のために、別の部分は産業用や燃料用として活用しなければいけないと寺垣氏は言う。

Hiromichi Matono

一方で丸紅は国内でも森林経営サービスの提供に取り組んでいる。日本では第二次世界大戦時に多くの森林資源が消費され、その後植林が行われたが、現状それらは有効活用されているとは言えない。現在、丸紅は秋田県能代市や山口県周南市と協力し、市有林の森林を活用しながら、カーボンクレジットを創出・販売、また木質バイオマス燃料を産出するなどで林業の再生に寄与しようとしている。

バリューチェーンの下流においては、丸紅はグリーン事業のデジタルトランスフォメーションに取り組んでいる。丸紅経済研究所や本社デジタル・イノベーション室と協業し、丸紅は段ボールのサプライチェーンにおけるカーボンフットプリントを可視化するシステムを構築した。これによりユーザー企業は温室効果ガス(GHG)排出削減のために、どのサプライヤーから調達すべきか判断ができる。

「従来はQCD (Quality品質, Costコスト, Delivery納期)に基づいて箱や紙の購入を決めていた。しかしエンドユーザーが優良な企業であればあるほど、それだけではないと気がつく。どれだけ資材調達でGHG排出の負荷がかかっているのか。またそれをどう削減できるのか。そこを可視化してほしいという要望を受けている」と寺垣氏。

将来的には、ユーザー企業がGHGの排出量を考慮して製紙メーカーや加工会社を選別する日が訪れるであろう。このような動きはペットボトルやアルミ缶など他の容器メーカーにも広がる可能性がある。その場合、各分野において関連メーカーや加工会社の理解と協力が鍵になるだろうと寺垣氏は話す。

さらに寺垣氏は、グリーン事業が持続性を維持するためには収益性の確保が重要だと述べた。フォレストプロダクツ事業に関しては、2022年度は一過性要因から94億円の純損失となったが、今年度は60億円の純利益を予想している。

「企業がグリーン戦略をビジネスとして取り組めば、規模とスピードの追求ができるというプラス面がある。ただし、そのためには経済性が伴わないといけない。私達は、グリーン戦略を通じて、環境・社会・経済の正の相関を追求していきたい」と寺垣氏は語った。


Naonori Kimura
Industrial Growth Platform Inc. (IGPI) Partner

“サステナビリティ”とは経営理念の実践そのもの

丸紅グループにおいてのサステナビリティとは、”社是「正・新・和」の精神に則り、 公正明朗な企業活動を通じ、経済・社会の発展、地球環境の保全に貢献する、誇りある企業グループを目指す”という経営理念の実践そのものだ。とりわけ、グリーン戦略を中期経営戦略の基本方針の一つとして掲げ、「グリーン事業の強化」と「全事業のグリーン化推進」を両輪として、「グリーン」への貢献を通じた収益力の強化・企業価値の最大化を図っている。中でもフォレストプロダクツ本部においては、2020年より社員を巻き込みながら「人と森の力で、サステナブルな未来を切り拓く」という本部パーパスを策定、川上の植林事業から川下の販売流通まで、DXとGXの融合を図りつつ、様々な事業をサステナブル視点に基づき世界各国で展開している。サステナビリティを実践する上で「人財」を最も有用な要素の一つとして捉え、「丸紅人財エコシステム」を構築し、価値創造の源泉である人財育成にも経営としてコミットしている。まさに、言葉に踊らされることなく、経営理念の実践そのものとしてサステナビリティを捉えられている。

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