August 30, 2024

【株式会社コーセー】“美の創造企業”としての矜持

By OSAMU INOUE / Renews

ILLUSTRATION: AYUMI TAKAHASHI

Kose’s strong points

1.1991年から「美しい知恵 人へ、地球へ。」という企業メッセージを発信

2.CDP2023年版の「気候変動」と「水セキュリティ」で2年連続「ダブルA」

3.2009年からの雪肌精「SAVE the BLUE」プロジェクトで延べ12,269㎡にサンゴを移植

4.「雪肌精」各シリーズのボトルや外装では「脱プラスチック」も推進


「あなたが美しくなると、地球も美しくなる。」――。化粧品を購入すると、その分、沖縄の海にサンゴ礁が広がる。2024年7月、そんなキャンペーンが今年も始まった。

コーセーを代表する化粧品ブランド「雪肌精」が展開する、雪肌精「SAVE the BLUE」プロジェクトの一環。夏の「SAVE the BLUE~Ocean Project~」は今年で16年目を迎え、雪肌精は環境意識の高いブランドとしても消費者から認知されるようになった。世界的にも、購入や使用がサステナビリティに直結する化粧品ブランドは珍しい存在と言える。

1946年創業の老舗の化粧品メーカーであるコーセーは、シャンプーや日やけ止めなどの日用品も含めた総合化粧品メーカーとして成長。現在は68の国と地域に展開し、海外売上比率は約37%に達するグローバル企業となった。

サステナビリティへの取り組みに意欲的な企業としても評価が高い。2024年7月、ESG投資の代表的な株式指数「FTSE4Good Index Series」に5年連続で採用。そのスコアは国内化粧品メーカーでトップクラスに位置する。

また、2024年2月に公表された国際非営利団体「CDP(Carbon Disclosure Project)」による2023年版の「Aリスト」でコーセーは、「気候変動」「水セキュリティ」の2部門で最高評価を受ける「ダブルA」企業となった。2023年、CDPに情報開示した日本企業は約2000社。そのうち127社がAリストの評価を受け、26社がダブルA以上となった。2年連続でダブルA以上となった化粧品メーカーは、花王とコーセーのみだ。

国際的な評価も高いコーセーのサステナビリティ活動。その取り組みは1991年に大きく前進した。


大谷翔平選手が体現するジェンダー平等

まだ「サステナビリティ」という言葉は今の文脈で用いられていなかったが、「エコロジー」という言葉は耳にするようになっていた1991年当時、CI(コーポレート・アイデンティティ)の導入でグローバル化を目指したコーセーは、「地球環境の保全」を企業としての重要な課題のひとつと捉え、「美しい知恵 人へ、地球へ。」というコーポレートメッセージを打ち出した。

1997年にはグループ横断の「地球環境委員会」を設置し、事業を通じた社会貢献の取り組みを進めた。2017年には国連グローバル・コンパクトに署名、SDGsへの貢献も目指す。

その実現に向け、2019年にサステナビリティ戦略立案の専任組織を設けると、2020年4月には2030年への目標を掲げる「コーセー サステナビリティ プラン」を発表。「人や社会への貢献」と「地球環境への貢献」を大きく前進させた。前者では、「アダプタブルな商品・サービスの提供」がコーセーらしい特徴的な取り組みと言える。

コーセーは、「雪肌精」や「DECORTÉ(コスメデコルテ)」といった主力ブランドにおいて、男性専用の『フォーメン』商品を出していない。コーセーでサステナビリティ戦略を担当する経営企画部長の原谷美典取締役はこう話す。

「ジェンダーへのアプローチが最もコーセーらしいと我々は自負しています。性別関係なくお肌を健やかに保っていただけますし、作り分ける必要がないのでエコにもつながる。ホテルのアメニティなどに提供する業務用も同じで、管理もしやすいと喜ばれます」

化粧品に男女は関係ない。そのコーセーの考えを、米ドジャーズ所属の大谷翔平選手が体現している。

コーセーは雪肌精やコスメデコルテのモデルに大谷選手を起用し、2023年から広告展開を続けている。日本の“侍ジャパン”が劇的な優勝を果たした同年2〜3月開催の「WORLD BASEBALL CLASSIC(WBC)」。期間中、大谷選手がInstagramアカウントで投稿したロッカーの写真にコスメデコルテの化粧水とクリームが写り込んでいたことがSNSで話題を呼び、男女問わず売り上げを伸ばした。

地球環境へ貢献するアプローチでは、「2040年カーボンニュートラル(Scope1・2)」に向けたCO2排出量の削減や、包装資材の見直しや再生プラスチックの使用を含む「脱プラスチック」、「責任あるパーム油の調達」などを推し進める。

とりわけコーセーらしいユニークな取り組みが、冒頭でも紹介した「商品・サービスを通じた環境課題の啓発」だろう。

サステナビリティ戦略を担当する経営企画部長の原谷美典取締役(左)と経営企画部 サステナビリティ戦略室の河野斉治室長
PHOTO: OSAMU INOUE

12,269㎡のサンゴを植樹

「雪肌精」は、アジアを中心に15の国と地域で展開するコーセーを代表するブランド。トウキやハトムギ、メロスリアといった自然由来の和漢植物エキスを配合した化粧水として1985 年に誕生し、その後アイテムを追加してスキンケアブランドとして成長した。特に化粧水はロングセラーとなり、2023年11月時点で、累計6,700万本以上を出荷している。

2007年、同年に就任した小林一俊社長の肝入りで松嶋菜々子さんを起用した広告キャンペーンを展開すると、売り上げの成長が再加速。勢いに乗るかたちで2009年、環境支援プロジェクトの「SAVE the BLUE」が始まった。

海水温上昇などで死滅が進むサンゴ礁を救うべく、夏の2カ月間に販売された対象商品容器の底面積合計に相当するサンゴの保全費用を寄附するというもの。原谷取締役はこう振り返る。

「雪肌精は弊社の看板ブランドでもあり、その高い知名度や展開国の多さを活かしてなにかできないかと考え、長期にわたって取り組むという覚悟を持って始めた。今ではお客さまだけでなく流通様も巻き込んだ恒例行事として定着していることが特長だと自負しています」

2011年からは活動範囲を海外にも拡大。日本を含む9つの国と地域でサンゴ保全に取り組む。過去15年間で累計2万本以上、面積にして12,269㎡のサンゴを植樹したほか、店頭のPOPやディスプレーでも大々的に紹介されることから、消費者の環境保全への関心を高め、理解を深める啓発活動としても大きな役割を果たしてきた。

2022年冬からは、温暖化の原因となるCO2削減に貢献する、雪を守る活動も開始。季節を限定せず、活動の幅を広げている。雪肌精の地球環境への貢献はこれにとどまらない。


包装容器を見直し「脱プラ」も加速

2020年9月、コーセーは雪肌精の発売以降初となる全面的なリブランディングを実施し、日本産の植物から見出した独自成分を配合した新シリーズ「雪肌精 クリアウェルネス」を投入した。新シリーズでは、「脱プラスチック」に向け、包装容器に関わるあらゆる要素を見直した。

ボトルには、焼却時のCO2の発生を抑制する「グリーンナノ素材」や、石油由来原料の使用量を削減する「バイオマスプラスチック」を採用。さらにラベルレス、プリントレスのデザインとし、プラスチックやインク使用量を減らしたうえで、生分解されやすく、環境負荷の少ない植物由来の「バイオマスインキ」も取り入れた。

外装のパッケージには、日本でのリサイクル率が 90%以上と言われる段ボール素材を採用。紙の商品説明書を省き、QRコードで読み取るデジタル方式とした。さらに、ボトルへ詰め替えできる「レフィル」製品も同時販売。レフィルに関しては、2022年に環境省が実施した「製品・サービスのカーボンフットプリントに係るモデル事業」へ参加し、生産から廃棄に至るまで、製品のライフサイクル全体を通じたCO2排出量を“可視化”させている。

算定対象としたのは、「雪肌精 クリアウェルネス ピュア コンク SS」という商品。詰め替えレフィルはボトル本品に比べ、原材料調達から廃棄・リサイクルまでの過程で生じるCO2排出量が約28%少ないことを確認した。

さらに、2021年1〜2月に発売した雪肌精 クリアウェルネスシリーズの「W バリア ミスト」「UVディフェンス」では、プラスチックを使った外装(スタンディングパウチ)の代わりとして、100%紙製のパウチを採用。スタンディングパウチの100%紙化は困難とされていたが、大手印刷のTOPPANの協力を得て実現した。プラスチックフィルムを使用した従来のスタンディングパウチと比べ、製造時のCO2排出量を約28%削減させている。

また、2024年3月に発売した新商品「薬用雪肌精 ブライトニング エッセンス ローション」では、ボトル容器にバイオマスプラスチックを採用し、使用料も削減。包装フィルムを廃止し、外装の外箱を封印するプラスチックシールは紙製に切り替えた。これらにより、CO2排出量をレギュラーサイズで約9%、ビッグサイズで約10%削減できたという。

「脱プラスチック」にこだわった雪肌精 のシリーズ
© KOSE


先駆者であり続ける

こうした取り組みが奏功し、2020年に打ち出したサステナビリティ プランは順調に推移。2024年4月には、進捗状況を公表すると同時に、新たな追加目標を加えたり、既存目標を上方修正したりするなど、取り組みを強化している。

「最大のアップデートは、Scope3まで含めたCO2排出量を『2050年までにネットゼロ』という目標を加えた点。『2030年までに30%削減』という既存目標の先を明確にしました」と話す経営企画部 サステナビリティ戦略室の河野斉治室長。「今後の取り組みとしては、雪肌精など化粧品のボトルを回収し循環させる水平リサイクルを進めるほか、2025年4月までに製品のレフィル化の目標値も定めるべく、準備を進めています」。

サステナビリティの担当部署として目まぐるしい日々が続くが、河野室長の挑戦は続く。「これまでは、社会の一員として当然、やらなければいけないことをやってきた。これからは、もっと“コーセーらしさ”を出しながら、特に“美”にまつわるところで人と地球に貢献していく。そういうことも意識しながら、考えていきたいと思っております」

続いて、原谷取締役はこう付け加えた。「他社のパートナーと組んで高め合う、というのは我々の伝統。業界内の競合であっても協力しあってオープンイノベーションに取り組んだり、新しいものを作ったりすることも視野に、なれ合いではない共存共栄を模索していきたい。それもコーセーらしさ、なんだと思います」。

かつてコーセーは、世界最大の化粧品メーカーである仏ロレアルと手を組んでいた。ロレアルが日本参入を検討していると聞きつけた創業者の小林孝三郎元社長がフランスに乗り込み、1963(昭和38)年に技術提携。ロレアルの日本向け製品を生産するため、埼玉県狭山市に工場を作り、翌年に稼働させたほか、美容サロン事業を協同で展開した。

両社の提携関係は2001年に解消されたが、コーセー社内には成功体験としてDNAに刻まれた。それは、花王との協働にもつながっている。

コーセーと花王は2021年、化粧品事業のサステナビリティ領域において、包括的に協働していくことに合意。第一弾として2022年4月から、化粧品などプラスチックボトルの水平リサイクルの実現に向け取り組んでいるとともに、役目を終えた化粧品の絵の具などへの再生利用の取り組みも推進している。

競合同士のサステナビリティ分野での協働は国内ではまだ珍しいが、「先んじて世に問う、というのも、コーセーらしさ」と原谷取締役は言う。

「もともとは商品もそうでした。今では定番になった『(粉状の)ファンデーション』や『美容液』というジャンルは、我々コーセーが世界に先駆けて発売したという自負があります。お肌の悩みに直結する解決策を提案してきた。サステナビリティも同じで、地球環境のためになる、新しい付加価値がある商品やサービスを提案していきたい」

安ければ良い「コモディティ」ではなく、環境への配慮が優れた「ブランド」として、コーセーは今後も先駆者であり続けるだろう。地球も美しくあり続けなければならない。それは、“美の創造企業”としての矜持でもある。

「薬 マツモトキヨシ 浅草店」の店舗のディスプレー
© KOSE

「美しい知恵 人へ、地球へ。」への思い

原谷美典
株式会社コーセー
取締役
経営企画部長

コーセーグループは1991年、CIの導入を機に「美しい知恵 人へ、地球へ。」というコーポレートメッセージを掲げ、発信し始めました。そこには、「美の創造企業」としてあらゆる知恵を出し合い、人々のため、そして地球のために貢献していく、という強い決意が込められています。

私は当時、まだ入社3年目の新人でしたが、斬新に感じると同時に、会社のイメージが本当にガラッと変わったなと思いました。

それから33年が経ちましたが、今でも「人へ、地球へ。」というメッセージは色褪せていません。ますます時代に合致し、グループ全体でサステナビリティへ本気で取り組む礎として、定着しています。

なぜ、こうしたメッセージを打ち出し、礎としているのか。なぜ、サステナビリティへ本気で取り組むのか。背景には2つの理由があります。

一つは、やはり我々、化粧品メーカーは「自然の恵みで生かされている」ということ。1991年当時はまだ、今の文脈における「サステナビリティ」や「SDGs」という言葉がなかった時代ですが、社内では「有限である資源を使い尽くすようなことは絶対ないようにするべき」と真剣に言われていたことが記憶に残っています。

特に30年ほど前から「自然派」や「ナチュラル系」といった天然由来の化粧品も求められるようになり、応えてきました。資源がなくなれば、植物由来の原料も二度と使えない。自然の恵みを扱う化学メーカーとして当然、地球環境への配慮に対する責任感は強く、それがコーポレートメッセージにも色濃く現れたのだと理解しています。

もう一つの理由は、持続可能な地球環境や社会への配慮というのは、企業としてお客さまから選ばれるために必要不可欠な要素だと考えており、そのために危機感を持って取り組んでいるということです。

消費者の環境への意識は年々、高まっています。多少、お値段が高くても、地球環境への配慮に対してちゃんとコストをかけ、真摯に取り組んでいる商品や企業を選ぶ消費者が、特に欧州を中心に、世界的に増えている。本気で地球環境への配慮に取り組まない企業は、消費者から選ばれなくなるということです。

選んでいただくためには、一過性ではなく、長期的な視点で地球や人々への約束を果たしていくことが重要です。雪肌精 「SAVE the BLUE」 プロジェクトの取り組みは、その象徴でしょう。

海や森を守る活動に収益の一部を還元するプロジェクトは、今年で16年目を迎えました。美しい瑠璃色のボトルは「雪肌精ブルー」として消費者に定着しており、そのブランドを使って青い地球を守ろうという取り組みも、長く続けることで広く消費者から認知されるようになりました。

やり始めるからには絶対に途中で投げ出さない。そういう強い覚悟をもって推進してきた結果です。その思いや推進力には、コーセーがオーナー企業(ファミリー企業)であることもプラスに影響していると感じています。

国内外にたくさんの化粧品メーカー、消費財メーカーがありますが、創業以来、同じオーナー家が社会への貢献を意識しながら舵取りをしてきたことも、“コーセーらしさ”を形成する一つでしょう。

明文化されているわけではありませんが、オーナー家には歴代、「後世に顔向けできないようなことをするな」という思いがあります。雪肌精 「SAVE the BLUE」プロジェクトを始めた時も、「途中でやめるようなことは絶対に許さない」と社長から言われたことを、すごくよく覚えています。

それは、責任感の現れでもあり、「人へ、地球へ。」貢献するという1991年の約束を守り続けることにもつながります。これからも、その約束を果たし続けていく覚悟です。

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