May 26, 2023

【不二製油HD】サステナブルな食の未来を共創

By OSAMU INOUE / Renews

ILLUSTRATION: AYUMI TAKAHASHI

Fuji Oil’s strong points

1. 2020〜21年、CDPの「気候変動」「水」「森林」でトリプルAの評価

2. パーム油調達で「森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロ(NDPE)」を明言

3. 農園までの「トレーサビリティ100%」を2030年までに実現すると宣言

4. 「大豆ミート」など植物性タンパク質を原料としたプラントベースフードにも注力


食品大手の不二製油は今年3月、農林水産省が主催する「国内食品製造事業者の持続可能な原材料調達の優良企業表彰」で最優秀賞にあたる「農林水産大臣賞」を受賞した。この、「持続可能な原材料調達」が今回のテーマ。受賞は、不二製油が食品分野のトレーサビリティ(追跡)で突出した実績を上げてきた証左である。

不二製油はグループ最大の事業子会社。持株会社の不二製油グループ本社(不二製油HD)が世界14カ国にまたがる37の連結子会社を束ねる。

1950年創業の不二製油HDは、植物性油脂メーカーとしては後発ながらも「南方系油脂」に目をつけ、頭角を現した。今では「植物性油脂」「業務用チョコレート」「乳化・発酵素材」「大豆加工素材」の4事業を核とし、食品メーカーやコンビニエンスストアを支えている。

例えば、作業性などの機能を備えつつ、なめらかさに欠くことのできない「チョコレート用油脂」の国内シェアは1位。世界シェアでもトップ3に入る。メーカー向けの「業務用チョコレート」では日本やブラジルでシェア1位を誇る。

この食品業界の“黒子”は今、サステナビリティへの取り組みでも注目されている。

国際非営利団体のCDP(Carbon Disclosure Project)は毎年、サステナビリティへの貢献度が高い「Aリスト企業」を公表している。

2021年版で、「気候変動」「森林」「水セキュリティ」の3部門すべてにおいてAリストだった「トリプルA」企業は、調査対象の世界1万2000社中わずか14社。不二製油HDはその1社となった。同社は前年の2020年版でもトリプルAを達成。かつて、トリプルAを取った日本企業は、花王と不二製油の2社しか存在しない。

CDPの2022年版では3部門のうち、気候変動が「-A」にランクダウンしたものの、森林と水はAリストのままで、高評価を維持。そのほか、「MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ」など主要なESGインデックスにも継続的に組み込まれているなど、外部からの評価が高いことで知られる。

評価が高い理由の一つは、欧州にサステナビリティ戦略のチームを置き、最新の情報をキャッチアップして社内共有しながら、総合的にサステナビリティに対応していること。何より、冒頭で紹介した「持続可能な原料調達」への取り組みを抜きにして、不二製油HDのサステナビリティは語れない。

不二製油グループ本社があらゆる食品素材の原料としているパーム農園と、パーム油を抽出する前の果房


パーム油のトレーサビリティ100%

同社は、植物性油脂や業務⽤チョコレートのほかに、ホイップクリーム、チーズ風味素材、⼤⾖たん⽩素材など、さまざまな⾷品素材を製造・販売している。その主原料はパーム油・カカオ豆・⼤⾖。このうち、パーム油の調達が最も大きなボリュームを占める。

アブラヤシの果房を搾って精製するパーム油は、世界の植物性油脂で生産量が最も多い。ほかの植物性油脂と比べて加工しやすく、収穫量も多いため、食品から日用品などまで幅広く使われている。チョコレート・スナック菓子・カップ麺から洗剤・化粧品まで、スーパーマーケットやコンビニエンスストアに並ぶ商品の約半数に使用されていると言われている。

一方で、インドネシア・マレーシアを中心とする東南アジア地域の産出国において、農園開発に起因する森林破壊問題、そして、強制労働や児童労働などの人権問題が危惧されてきた。最大の課題は、主にサプライチェーンの“上流”で起きるこれらの問題が、“下流”からは見えにくいことだった。

そうしたなか、不二製油HDは2016年3月、「責任あるパーム油調達方針」を策定。サプライチェーンにおけるすべてのパーム油生産において、「森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロ(NDPE)」を明言し、「人々と地球環境を尊重するサプライヤーから、責任ある方法で生産されたパーム油を調達する」と約束した。加えて、相当に困難な目標(KPI)も自らに課した。

不二製油HDが掲げている「責任」の範囲は膨大だ。不二製油グループ11社でパーム油の加工・精製を行っており、それらの原料は、主にマレーシアとインドネシアの大手サプライヤーやグループ子会社から仕入れている。

各地に点在する、パームの実から油を搾る「搾油工場」の数は1400以上。それらは不二製油HDと資本関係があるわけではない。さらに、搾油工場の上流には、アブラヤシの果房を卸す農園が大小含め数十万と存在する。

それでも不二製油HDは、すべての搾油工場、すべての農園を含む、サプライチェーンすべてにおける「トレーサビリティ(追跡)」を、2030年までに100%まで持っていくと宣言した。違法な森林破壊はないか。人権問題は本当にないか。サプライチェーンの最上流までさかのぼり、自ら確認ができなければ、「トレーサビリティ100%」とは言えない。


現地NPOと連携

「確認すべき箇所の数は膨大で、しかも、我々は日本人。言葉の壁も、文化や慣習の違いもある。相当に困難だが、それでもルールが守られているかどうか、サプライチェーンの上流まで把握できていないと『サステナブル調達』とは言えない」。

不二製油HDのESG部門長を務める平松義章氏はこう話す。途方もない作業だが、すでに目標を上回るペースでトレーサビリティを実現している。

サプライチェーンの経由地点となる「搾油工場までのトレーサビリティ(TTM)」に関しては、2019年度に100%を達成。「2030 年まで100%」とした「農園までのトレーサビリティ(TTP)」は2021年度に85%とし、2025年までの中間目標を前倒しで達成した。

では、こうした膨大な、しかも日々、変遷する農園や搾油工場の状況をどう把握しているのか。ここに、不二製油HDの努力とノウハウが詰まっている。

「先駆的なことをやっている以上、サステナブル調達のノウハウのすべてを外部に開示するのは難しい」(ESG部門長の平松氏)とするが、いくつかのヒントはある。キーワードは、「現地NPOとの連携」と「衛星画像の活用」だ。

不二製油HDは、マレーシア・インドネシアに根を張る複数の現地NPOと連携し、様々なアドバイスやサポートを得ている。例えば「労働環境改善プログラム」を一緒に作り、どう工場や農園に浸透させていくべきか、どう指導するのかまで、ともに考え、実践している。言語や文化の壁があるからこそ現地に頼るべき、という考え方だ。

さらに、農園の環境問題に関しては、衛星画像と人工知能(AI)を活用。その分析においても、現地NPOの協力が欠かせないという。不二製油HDのサステナビリティ戦略を統括する門田隆司取締役は、こう話す。

「NPOと情報共有し、マイルストーンを設定することで、影響を与えるポイントはどこなのかなどを明確に把握できています。客観的情報により森林破壊などの状況が分かり、関係しているサプライヤーに対して改善要求などの処置もとっている。こうした把握や改善は、当社だけでは不可能なことであり、NPOは大変、重要な存在となっています」

当然、NPOの協力だけで「トレーサビリティ100%」が達成できるわけではない。すべてのサプライヤーと絶えずコミュニケーションをとり、訪問して確認をする努力も続けている。さらに、日本企業としては珍しく、「グリーバンス(苦情処理)メカニズム」も活用している。

同メカニズムは、ステークホルダーから提起されたサプライチェーン上の環境・人権問題について、問題を改善する仕組み。問題に蓋をするのではなく、徹底的にオープン、かつ透明にすることで、改善を促す先駆的な取り組みだ。

ウェブサイトでは、苦情を受け付けているほか、改善などの進捗も英語で公表している。不二製油HDが問題を確認したグリーバンスは2022 年 6 月末までに累計 259 件のグリーバンスを受け付け、その約 8 割が解決済みという。


未来を見据えたプラントベースフード

不二製油と一風堂が共同開発した植物性ラーメン「プラント赤丸」

パーム油を扱う大手企業として、着実に環境と人権のサステナビリティに寄与する不二製油HD。同様に、カカオ豆や大豆のサステナビリティに関してもKPIを設定し、トレーサビリティ100%へと突き進む。

そして今、人類の未来に向けた新たなサステナビリティへの取り組みにも注力している。動物性の肉や乳に代わる植物性タンパク素材「プラントベースフード」の開発だ。門田取締役は、その背景をこう説明する。

「当社は決して動物性食品を否定しているわけではありません。しかし、動物性だけに頼っていては、環境破壊を防ぎ、GHGの排出を抑制し、しかも今後増え続ける地球人口の食を賄うという難問を解決することはできません。当社が提唱する植物性食品の浸透は、その一つの解決策だと信じています」

イメージしやすい製品が、大豆からタンパク質を取り出し、繊維状にして肉に近い食感に仕上げた「大豆ミート」素材。その開発着手は1960年代と古く、食感と味を動物性食肉に近づけるべく、数十年をかけて改良を重ねてきた。そして近年、大手外食チェーンやコンビニエンスストアが相次いで採用し、一般市場に浸透しつつある。

さらに、動物性に近い驚きのおいしさを植物性だけで実現した出汁「MIRA-Dashi®」も開発。とんこつラーメンが人気の大手ラーメンチェーン「一風堂」が2022年7月、新宿にオープンした新店舗で、このMIRA-Dashi®を採用した植物性の“とんこつ風”ラーメンなどの常時提供に踏み切り、注目を集めている。

2022年7月には、おいしさを追求したプラントベースフードの商品群を「GOODNOON」と名付け、GOODNOONを含めた高付加価値領域で2030年度に売上高1000億円を目指すと発表。GOODNOONコンセプトへの賛同企業を募り、さらなる浸透を図っている。

パーム油のサステナブル調達も、プラントベースフードの展開も、なるべく多くの他社や地域を巻き込みながら、ともに世界をより良くしていこうとする姿勢が根底にある。「共創」なくして、サステナビリティは成し得ない。そんな不二製油HDの信念が、世界を大きく変えていこうとしている。

不二製油HDが2022年7月に開催したプラントベースフード(PBF)戦略説明会での写真。すべて、植物性の素材で調理されたメニュー。

2022年に発売した大豆ベースの「プライムソイミート」

なぜ不二製油グループはサステナビリティに本気なのか

門田隆司
不二製油グループ本社 取締役
上席執行役員 最高技術責任者兼ESG担当

不二製油グループは世界14カ国で事業を展開しており、原料の調達から始まるサプライチェーンにおいて、非常に多くの人が関わっています。パーム油などのサプライチェーンは一部で、強制労働や児童労働といった人権問題、そして、森林破壊などの環境問題を抱えています。我々は、これらの解決や対応に多大な力を注いできました。

そもそも、当社の「グループ憲法」という経営ポリシーの中で「人のために働く」という価値観を謳い、現在の中期経営計画では「サステナビリティの深化」を掲げております。

もともと、我々の顧客には欧州や米国にオリジンを持つグローバル企業が多く、サステナビリティへの要求は非常に高いレベルにありました。顧客の要請をきっかけとし、それに応え、社会での不二製油の責務とあるべき方向性を見出してきました。

人権問題や環境問題に対して厳しく処置されている事実もあり、対応の遅れはレピュテーションリスクをもたらします。取引停止や輸入禁止等、市場からの退場が迫られるリスクも高まります。それらを避けるためにも、サステナビリティへの対応に取り組んできました。

ただし現在は、もっと積極的に、前向きにサステナビリティを捉えています。

すなわち、サステナビリティに早く対応する事で、顧客の信頼をさらに得るとともに、新しい価値も創造でき、「サステナブル市場」への進出機会も出てくると考えています。サステナビリティへの対応そのものが、企業価値の向上に寄与するという考えです。今では、全ての企業活動の基礎にサステナビリティを据えて、企業戦略を練っています。

近年、特に力を入れているのが、「大豆ミート」など植物性タンパク質を原料としたサステナブル食材の開発です。

コロナ禍以降、原料やエネルギーコストの高騰、相次ぐ自然災害や異常気象なども相まって、「食」への危機意識はさらに高まっています。創業以来70年以上、植物性素材にこだわり、事業を展開してきた当社には、そうした課題解決に貢献できる知見があります。

「プラントベースフード」とも言われる「植物肉」「植物ミルク」等の市場は、2030年には2020年比で5倍の約22兆円規模になると想定されています。プラントベースフード市場は肉、乳だけに限らず、欧州を先頭に世界中で確実に需要が高まっており、今後ますます加速すると見込まれています。植物性で動物を超えるおいしさを表現し、選択肢を広げていく事が、人類や地球環境のサステナビリティにつながると確信しております。

とは言え、当社のサステナビリティへの貢献は、まだまだ満足できるレベルには達していません。世界にはサステナビリティを大きく進め、同時に企業価値を上げている会社が数多くあります。それらのリーディングカンパニーを目指し、今後も絶えず努力していきます。

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