July 28, 2023

企業のカーボンニュートラルを推進

By OSAMU INOUE / Renews

ILLUSTRATION: AYUMI TAKAHASHI

Omron’s strong points

1. 2022年、CDPの「気候変動」「水」でダブルAの評価

2. サステナビリティの課題解決に貢献する売上高を2024年度までに45%成長と宣言

3. FAシステムを効率化させるサービスで顧客企業のカーボンニュートラルを支援

4. 血圧計などの健康デバイスとデータを活用した病気の予防支援サービスを開発


2023年、創業から90周年を迎える老舗のオムロン。一般には、血圧計や電子体温計など医療機器のイメージがあるだろう。

しかし本業は、工場の産業用ロボットや自動制御システムなどを手がける「FA(Factory Automation)機器」大手。2022年度の実績で、売上高の55%をFA機器関連が占めており、株式市場もオムロンを「産業エレクトロニクス」のセクターとして見なしている。

そして、これまで同社が革新的な電子機器で社会的課題の解決や変革をリードしてきた歴史があることは、あまり知られていない。

都市部への人口集中や公共交通機関の混雑といった社会的課題が露見した高度経済成長期。オムロンは、道路の信号制御性システムや駅の自動券売機などを次々と開発し、日本の交通システムの礎を築いた。「全自動感応式信号機」や、定期券・切符の両方に対応した「自動改札機」は、オムロンが世界で初めて世に出したものだ。

その後も、1971年に世界初の「オンライン・キャッシュ・ディスペンサー」を三菱銀行本店で稼動させたり、1987年に世界初の「超高速ファジィコントローラー」を開発したりしたことで、情報化社会への移行をリードした。

そして今、オムロンは、「サステナビリティへの対応」という社会的課題を、本業で解決しようと挑んでいる。


CDPでダブルA

オムロンが「サステナビリティ先進企業」であることは、あらゆる客観評価が物語っている。

国際非営利団体のCDP(Carbon Disclosure Project)が毎年、公表している調査で、オムロンは2022年、「気候変動」「水セキュリティ」の2部門で最高位の「Aリスト」に選ばれた。

調査対象となったのは、時価総額の高い世界1万8700社。うち日本企業は1700社超で、気候変動と水のダブルAを得たのはオムロンを含む18社しかいない。さらに、産業エレクトロニクスのセクターでAリストに入ったのは、オムロンのみだ。

主要なESG関連インデックスの評価も高い。2022年、オムロンは「DJSI(The Dow Jones Sustainability Indices)」の最高位であるWorldに6年連続で選定された。同年にDJSI Worldに選ばれたのは、グローバルの主要企業3560社中、332社。そのうち、オムロンは同業種で「上位3%」という高評価を得ている。

世界175カ国、200業種、10万以上の企業・組織のCSR活動を包括的に調査しているフランスの「EcoVadis」の評価はもっと高い。2022年12月に公表された結果では、オムロンは業種別で上位1%以内となる「プラチナ」だった。

これらは、オムロンの生産活動や事業が、環境や人権などに配慮されていると世界が認めた証左。しかし、オムロンのサステナビリティは自身のCSRやカーボンニュートラルへの取り組みにとどまらない。

オムロンの本業が、顧客企業のカーボンニュートラルへの取り組みを強力に推進させようとしている。

人と機械が協調し作業している様子
© OMRON CORPORATION

長期ビジョンで宣言

オムロンは2022年に発表した長期ビジョン「SF(Shaping The Future)2030」で、長期ビジョンとしては初めて「サステナビリティ重要課題」を5つ設定。そのひとつに「事業を通じた社会的課題の解決」を掲げ、「カーボンニュートラルの実現」「デジタル化社会の実現」「健康寿命の延伸」に取り組むと宣言した。

さらに、それらの課題解決に貢献する「サステナビリティ売上高」を2021年度比で、「2024年度までに45%成長させる」という経営目標も掲げた。

GHGやプラスチックごみの排出をどれだけ減らすか、についてのコミットメントは一般的だが、こうした事業を通じたサステナビリティ売上高へのコミットメントは珍しい。

「本業自体がサステナビリティに貢献すべきである、という企業理念が、オムロンを突き動かした」と、オムロンでサステナビリティ推進を担当する井垣勉 執行役員常務は話す(詳細は囲み記事を参照)。

中でも、もっとも注目すべきインパクトのある貢献は、カーボンニュートラルの実現を促進する本業のFA機器事業だろう。


新サービスで顧客工場の生産性を向上

オムロンは、自社拠点におけるGHG排出削減目標を2030年に65%減、2050年に100%減とする。サプライチェーン全体の「Scope3」の100%減は、不透明な部分も多いため、あえて明言していない。

ただし、オムロンのカーボンニュートラルへの取り組みはこれにとどまらない。オムロンは、自社拠点でのGHG削減と同時に、自社商品・サービスの提供を通じた顧客や社会に対するカーボンニュートラルの推進」にも注力している。

センサー、産業用ロボット、制御システム、安全装置……。工場の自動稼働を実現するオムロンのFA関連機器は、世界40以上の国と地域に広がっている。

2016年からは、個別に販売してきた装置や部品、ソフトウェアなどをパッケージ化し、より高度な自動化が実現できるソリューション「i-Automation!」を展開。「ロボットによる部品の高速ピッキング・配送」や「高精度なパネル貼り合わせ」など、約290のアプリケーションから成る。

さらに2017年には、工場のあらゆるセンサーや機器からリアルタイムで得られるデータと顧客の知見を掛け合わせ、製造現場の革新を進めるサービス「i-BELT」も開始。2022年には、AIなども活用しながら、よりデータ活用を速やかに進める強化も施した。

この、i-Automation!とi-BELTの組み合わせで、顧客企業のカーボンニュートラルへの取り組みを強化できると井垣常務は説明する。

「IoTやAI分析、データ活用などの組み合わせで、工場のすべてを“見える化”することで、生産にかかる消費エネルギーの効率を上げながら、品質も向上させ、『エネルギー生産性』を高めることが可能になる。これこそが、製造業における脱炭素の本丸であり、現場対応では限界があった『省エネ』の殻を破ることができるのです」

具体的な例として、井垣常務はクリーンルームにおける取り組みを挙げた。

クリーンルームは、チリやホコリを一切、除外するため、コスト度外視で電力を消費してきた。しかし、i-Automation!とi-BELTにより、24時間体制で空気の状態や稼働状況を見える化すると、空調機器をオフにしても生産や品質には問題がない時間帯が存在することが分かるという。実際に、オムロンの自社工場で実証したロジックをi-BELTに組み込んだ。

i-BELTは年間を通じてモニタリングと改善を繰り返す。生産ラインに変化があっても、先手を打って故障や不良品を生むのを防ぎ、かつ、様々な機器のオンオフを最適化して省エネ化と生産性向上を図るコンサルティングを提供している。その繰り返しが、カーボンニュートラルへの実現を支援するという。


「i-BELT」のインパクト

では、どのくらいのインパクトが見込めるのだろうか。

「京都府にあるオムロンの綾部事業所には、FA機器を製造する主力工場があります。そこでは、過去10年で生産量が35%増えているにもかかわらず、消費エネルギーは15%削減し、エネルギー生産性は1.6倍になった。この実績をもって、オムロンは製造業のエネルギー生産性を2倍まで高めることが可能だと考えています」

井垣常務はそう話した。実際にオムロンは昨年、「2040年までにエネルギー生産性を倍増させる」というコミットメントに賛同する国際イニシアチブの「EP100」に参加している。加盟する日本企業は4社で、製造業はオムロンのみだ。

連携するイニシアチブとして、使用電力の再生可能エネルギー100%を目指す「RE100」がある。参加する日本企業は2023年7月時点で80社と多いが、オムロンはこちらには加盟していない。それは、「再生可能エネルギーへの転換よりも、生産活動におけるGHGを直接的に減らす行動のほうが、優先順位は高い」と考えているからだ。

「もちろん再生可能エネルギーに変えていくことも大事ですが、それよりも生産活動で発生するGHGのグロスの量を減らしていかないと、温暖化は止まらない」。そう、井垣常務は強調する。

エネルギー生産性の「2倍」は、同じ量を生産するために使うエネルギーが「50%減」と同義。そこまでの事例はまだないが、オムロンが、顧客企業である真空装置メーカーのアルバックと取り組んだプロジェクトでは、i-Automation!とi-BELTによる見える化とデータ活用によって、装置全体の電力使用量を23%削減することに成功したという。


プラスチック問題、寿命延伸にも寄与

オムロンの本業を通じたサステナビリティへの直接貢献は、カーボンニュートラルだけではいない。2018年に導入したi-Automation!のアプリケーション「パーフェクトシーリング」は、プラスチックごみの削減にも寄与する画期的なものだ。

お菓子などの袋詰めに使用する従来のシーリング(袋とじ)装置は、あくまでもプラスチック製のフィルムを前提としたもの。環境に優しい「生分解性フィルム」を装置に充填すると、シーリングが不十分な不良品が大量発生するという課題があった。不良品を抑えるためには、装置のスピードを落とし、生産性を下げなければならないため、普及が遅れていた。

そこでオムロンは、センサーとソフトウェアによる温度制御の精度を10倍に高め、生分解性フィルムでも、プラスチックフィルムと同じ速度、同じ品質でシーリングできる組み合わせ技術をパッケージ化。グローバルの大手食品を中心に、すでに350社が採用し、生分解性フィルムの普及が進んでいるという。

これに、i-BELTを組み合わせれば、顧客企業のプラスチックごみの削減に加えて、GHG削減にも寄与できるというわけだ。

さらに、健康寿命の延伸という、オムロンが掲げるサステナビリティ重要課題においても、大きな進展が見られる可能性が出てきた。

2022年2月、オムロンは医療データ分析のJMDCに1118億円を出資し、資本提携を交わした。JMDCの強みは、その膨大なデータベース。健康保険組合に加入している1000万人以上の組合員の健康診断結果や、処方されたレセプトデータを持っており、それらのデータを活用したサービスを医療機関や製薬会社などへ提供している。

一方で、血圧計の世界シェア50%を誇るオムロンは、これまで世界で3億台以上の血圧計を販売してきた。最近は、脈拍や血圧などのバイタルデータをスマートフォンで管理できるアプリ「OMRON connect」対応機器も増えている。

両社の提携の狙いは、JMDCのビッグデータと、オムロンのバイタルデータをかけ合わせることで、まだ誰も構築したことのない医療プラットフォームを実現することだ。人類の寿命に寄与する革新的なプラットフォームになる可能性を秘めている。

例えば、病気の状態や地域、性別などあらゆる属性ごとに、どんな薬がどのくらい効いたかなどをデータ分析することで、新たな発見や創薬につながるかもしれない。あるいは、血圧計の測定結果とJMDCのビッグデータをかけあわせて分析する「予防診断サービス」も考えられる。

「私たちは、脳梗塞であったり、心筋梗塞であったり、循環器疾患によって引き起こされるさまざまな疾病をいかに予防するか、ということに挑戦したい。今後、あらゆるパートナーと組むことで、新しい価値を生み出していくことを期待しています」(井垣常務)。

血圧計というハードにサービスをかけあわせ、社会や人類に貢献する革新を生む。FA機器とサービスが重なり、カーボンニュートラルを促進する、という先の発想と同じである。

主力事業でサステナビリティに貢献しようとするオムロンの姿勢は、日本のみならず、世界の大手企業の学びになるだろう。

Bluetooth通信機能を搭載したオムロンの血圧計(右)。スマートフォンアプリ「OMRON connect」(左)でバイタルデータが管理できる
© OMRON CORPORATION

サステナビリティはオムロンの存在意義そのもの

井垣 勉
執行役員常務
グローバルインベスター&ブランドコミュニケーション本部長 兼 サステナビリティ推進担当

サステナビリティというのは私たちにとって、オムロンの存在意義そのものだと考えています。なぜならば、サステナビリティは企業理念の実践に直結する取り組みだからです。

私たちの原点は、1959年に創業者の立石一真が制定した「社憲」にあります。オムロンの企業理念「Our Mission」に据えている、その創業者の言葉は、「われわれの働きで われわれの生活を向上し よりよい社会をつくりましょう」というものです。

1959年にこの社憲を制定して以来、オムロンは自分たちの技術でいかに社会の課題を解決し、自分たちも成長していくかということをずっと続けてきました。今の言葉に置き換えれば、社会や世界のサステナビリティに貢献することが、私たち企業のサステナビリティにつながるというその考えは、創業以来、変わりません。

そして、そうした企業理念や経営スタンスを、より具体的に事業へ落とし込み、実現可能性を高めるため、私たちは新たなフェーズに突入しました。

2022年に発表した長期ビジョン「SF2030」の中で、私たちが解決すべき3つの社会的課題「カーボンニュートラルの実現」「デジタル化社会の実現」「健康寿命の延伸」を掲げ、4つの事業でサステナビリティに貢献する売上高を「2024年度までに45%成長させる」と宣言(コミットメント)をしています。

このコミットメントについて、社内では議論になりました。一度、宣言したら、株式市場からずっと進捗を追いかけられます。ですが、私たちの最終ゴールが企業価値を向上するということにあるからこそ、そのプレッシャーを乗り越えました。

「言うだけ」では、「絵に描いた餅」になるかもしれません。課題解決がどういうロジックやシナリオで、オムロンの次の10年の成長につながるのかを説明できなければ、資本市場は我々のメッセージを評価してくれないと思います。

言う以上は、事実を伴って説明しなければいけないし、市場からモニター・トラッキングされて当たり前です。逆に、プレッシャーを「期待」と捉え、それに応えていく方向へ舵を切ろう、ということになりました。

サステナビリティをここまで経営や事業計画に落とし込んでいる企業は珍しいと自負しています。なぜ、そこまで本気になるのか、と問われれば、最初に申したように「それが存在意義だから」と答えるしかありません。

社会課題の解決から逃げたら、もうオムロンではなくなる。そのくらいの覚悟をもって、よりよい社会に向け、これからも邁進していく所存です。

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