January 27, 2023

【リコー】他社を巻き込み脱炭素・循環型社会を拡大

OSAMU INOUE / Renews

ILLUSTRATION: SHO FUJITA

Ricoh’s strong points

1.日本企業として初めて「RE100」に参加し、続く日本企業の参加を促す

2.「FTSE Blossom Japan Index」などGPIFが採用する国内株のESG指数すべてに選定

3.独自技術「QSU」により、複合機で業界トップレベルの省エネ性能を実現

4.顧客企業のビジネスモデルをサーキュラーエコノミー型に変革する技術を開発


複合機などデジタル機器を手がけるリコーは、日本でESG経営への対応が最も早かった一社。常に時代の先を行き、日本企業をリードしてきた。

その取り組みの幅は網羅的、かつ広範囲に及ぶ。そして今、リコーの思考は自社グループにとどまらず、他社をいかに巻き込みながらサステナビリティを実現するか、というところまで及んでいる。

リコーがサステナビリティ先進企業であることは、多くの客観的評価が裏打ちしている。2022年12月、世界的に権威のあるESG投資指標の一つ「Dow Jones Sustainability Indices(DJSI)」のWorld構成銘柄にリコーは3年連続で選ばれた。

毎年、世界の約3500社を対象に調査が実施され、2022年は332社がDJSI Worldに選出。「コンピューター・周辺機器/オフィス機器」セクターで選ばれたのは米HPなど4社しかいない。うち日本企業はリコーのみだ。

Satoshi Abe, general manager of the ESG Center in Ricoh’s professional services division

脱炭素へ向けた積極的なアクション

リコーは主要なESG関連インデックスの“常連”と言っていい。世界最大級の年金基金とされる年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が採用するESG指数のうち、国内株を対象とした5つのESG指数すべてに、リコーは組み込まれている。

客観評価はまだある。2022年12月、リコーは国際非営利団体CDP(Carbon Disclosure Project)の「気候変動」部門で、高評価の「Aリスト」に選出された。リコーのAリスト入りは3年連続だ。

こうした評価の背景には、「脱炭素社会」へ向けたリコーの積極的なアクションがある。リコーの動きは早かった。

2015年12月に採択された「パリ協定」を踏まえ、リコーは2017年4月、「2050 年にバリューチェーン全体の温室効果ガス(GHG)排出ゼロを目指す」という目標を日本企業でいち早く掲げた。さらに2020年3月、「2030年にScope1とScope2を2015年比で63%減、Scope3を40%減」という意欲的な目標を掲げ、SBTイニシアチブから「1.5℃目標」の認定も取得している。

事業で使用する再生可能エネルギー電力(再エネ)比率については、2050年までの100%達成に向け、取り組みを加速させている最中だ。2021年3月には、2030年度の目標数値を当初の30%から50%へと引き上げた。すでに主力の「A3複合機」の生産に使用する電力は2019年に100%再エネ化しており、2017年に数%だったグループ全体の再エネ率は約25%となっている。

こうしたコミットメントや実績が高い客観評価につながっていることは言うまでもない。だが、近年の取り組みや実績だけでは、リコーの“リーダー”としての真の姿は見えてこない。


常に時代をリード

リコーは事業とサステナビリティへの取り組みを両輪で実現していくサステナビリティ/ESG経営の先駆け。その歴史がリーダーであることを物語る。

環境問題に取り組む専門部署「環境推進室」を設置したのは1976年と、世界でも最も早い時期だった。1992年に「リコー環境綱領」を制定し、1998年には「環境保全」と「利益創出」を両立させる「環境経営」を他社に先駆けて提唱。環境経営というキーワードで日本企業をけん引してきた。

2017年、山下良則社長が就任して以降、環境経営はサステナビリティ/ESG経営へとアップグレードされ、戦略はさらに強化された。

パリ協定を受け、改めて「リコーグループ環境宣言」を制定。「環境負荷削減と地球の再生能力向上に取組み、事業を通じて脱炭素社会、循環型社会を実現する」と覚悟を掲げた。5〜6年前だが、日本では「脱炭素」「循環型社会」という言葉がまだ一般的ではなかった時代である。

2018年には、「気候変動関連情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言へ賛同を表明。TCFDのフレームワークに基づいた情報開示を充実させ、2021年から「TCFDレポート」も発行している。

とりわけ、エポックメイキングとなったのは、「RE100」への参画だろう。


日本企業初の「RE100」参加

RE100は、事業に必要な電力を100%再エネで調達することを目標に掲げる企業が集う国際イニシアチブで、英国の非営利組織The Climate Groupが2014年に設立した。このイニシアチブに、リコーは2017年4月、日本企業として初めて参加した。

契機となったのが、パリ協定を採択した2015年の「COP(気候変動枠組条約締約国会議)21」。「京都議定書」に代わる新たな国際枠組みを決定する重要なこの会議で、リコーは公式スポンサーに選ばれ、会場に複合機やプリンターを提供している。前述の通り1998年から環境経営を掲げてきたことなどが、開催国である仏政府やCOP事務局に評価された。

公式スポンサーを務め、欧州各国の要人やグローバル企業のトップとコミュニケーションをする中で、リコーは世界との意識の差を痛感することになる。当時を、ESG戦略部兼プロフェッショナルサービス部 ESGセンターの阿部哲嗣所長は、こう振り返る。

「リコーは環境経営をいち早く掲げ、日本では先端を行っている自負がありました。ですが、世界はもう一段、先を行っていた。多くの著名企業が『脱炭素』『CO2排出ゼロ』を掲げ、強い意思で行動に移していた。そういうことを経営会議で報告して、リコーも脱炭素へ向け、目標や建付けを大きく変える必要があるという議論をしました」

「その中でRE100の話も出て、当然、参加すべきだとなった。社長の山下のリーダーシップもあり、社内的な説得は必要ありませんでした」

自然な“流れ”でRE100への参加を決めたリコー。これに驚いたのが、他の日本企業だ。

「なぜ、参加したのか」「どうやって入ったのか」――。リコーのRE100参加直後、業種を超えて様々な企業から問い合わせがあったという。とりわけ、「日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)」の参加企業の関心が強かった。

JCLPは、気候変動について危機感を持ち、積極的な行動を開始すべきであるという認識のもと、リコーなどが中心となって2009年に設立した日本独自の業種横断組織。現在では200社以上の日本企業が参加している。

リコーはRE100に参加した翌月の2017年5月、RE100に関する勉強会をJCLP加盟企業向けに開催。これを機に、積水ハウス、アスクル、イオン、富士通など、JCLP加盟企業のRE100への参加が加速していった。

その後もJCLPは、リコーが中心となり、様々なイベントなどを通じてRE100参加の意義や経験を発信し続けた。JCLPはRE100の日本側のカウンターパートにもなった。そうした活動が評価され、RE100参加企業のリーダーシップを表彰する制度として2020年にできた「RE100リーダーシップ・アワード」において、リコーは日本企業で唯一、最終選考企業に選ばれている。

2023年1月時点で、世界397社のRE100の参加企業のうち、日本企業は77社と米国に次ぐ世界2位の多さ。その流れを作ったのは紛れもなくリコーである。

JCLPはその活動趣旨に政策関与も掲げている。2022年4月には、JCLPの共同代表を務めるリコーの山下社長らが岸田文雄首相を訪問。再エネ最優先の政策を推進するよう求めた意見書」を手渡すなど、積極的なロビー活動も続けている。

A Ricoh Manufacturing (Thailand) Ltd. building.

環境と使いやすさの両立

企業だけではなく、政府の政策にもポジティブな影響を与えるリコー。脱炭素やGHG削減にかける思いは、自社製品のものづくりにも色濃く影響している。

主力製品である複合機の省エネ化に向けた、弛まぬ努力が、それを象徴している。

リコーが2001年に発売した「imagio Neo350/450」は世界に驚きを与えた。「省エネモード(スリープモード)」からの復帰時間を、従来機の30秒以上から、一気に10秒へと短縮させたからだ。

複合機(複写機)の省エネは、一日の約9割ともいわれる使用していない時間帯の消費電力をいかに減らすかがカギとなる。そのため、一定時間が経過すると消費電力を押さえるスリープモードが生まれたが、立ち上げまでの長い復帰時間が課題となった。

印刷するには、紙と接する「定着ローラー」を十分な温度まで加熱しなければならない。そのために要する30秒以上の復帰時間がストレスとなり、スリープモードはオフィスの現場で敬遠される傾向にあった。

そこでリコーは、スリープモードからの復帰時間を短縮する独自技術「QSU」の開発に着手。低温でも定着するトナーや、温まりやすくするため肉薄化した定着ローラーなどの部品に加え、ローラー内部のヒーターを複数に分散して制御し、温度分布を均等にするといった革新的な技術を開発した。

これにより、リコーはモノクロ機で世界初の復帰時間10秒を達成。QSUを初搭載した「imagio Neo350/450」は、世界的にエポックメイキングな製品となった。1999年のCOMDEXで先行展示したモデル機は「未来の複写機」と讃えられ、省エネ技術賞を受賞。日本では、複写機部門初となる「省エネ大賞」の最高賞を受賞している。

その後もリコーはQSUを進化させ、第2世代では高速印刷に、第3世代ではカラー印刷に対応させた。現在の第4世代では、定着ローラー内側の加熱パイプをなくし、ハロゲンヒーターで直接、定着ローラーを温める方式へと構造を刷新。さらに、定着ベルトを薄く、小径化することで、大幅な熱容量の低減も図った。業界トップレベルの省エネ性能を実現しているにもかかわらず、スリープモードからの復帰時間は5秒台と大きく短縮している。


再生事業で300億円

Launched in June 2021, the MP C4504RC is assembled from recycled materials.

リコーのサステナビリティへの取り組みは、省エネ・再エネを中心とする気候変動対策だけではない。資源を無駄にせず、リデュース・リユース・リサイクルを促進する「サーキュラーエコノミー」でも、リーダーシップを発揮している。

顧客から回収した複合機、プリンター、トナーやインク、消耗部品などのリユース・リサイクルの取り組みを1990年代からグローバルで展開。1993年には、回収した製品・部品をリユース・リサイクルしやすくするための部材共通化や、分解性を高めるための設計基準が盛り込まれた「リサイクル対応設計方針(現・環境適合設計方針)」を策定し、リユース・リサイクル時の余分な工数やコストの発生を抑制している。

1997 年には、リユース・リサイクルによる初の「再生機(RC機)」を発売。約30年続けた結果、製品再生・部品再生事業は2021年度、約300億円の売上高を計上するまでに成長した。

2021年6月に発売した最新のRC機「RICOH MP C4504RC」は、リユース率が80%を超えている。加えて、製品ライフサイクル全体のCO2排出量は、新造機に比べ約2割削減できているという。

リコーは、鉄のリユースを促進する技術革新にも先駆けて業種横断で取り組んできた。鉄スクラップを100%原材料とするリサイクル製品「電炉鋼板」の採用だ。

2012年3月、リコーは複合機の鉄製構造部品に、東京製鐵と共同開発した電炉鋼板を採用すると発表。電炉鋼板を事務機に採用するのは初とあって、様々な業種に驚きを与えた。おそらく、マイクロチップを搭載する全精密機器でも初だろう。

鉄鉱石から作る「高炉鋼板」に比べ、電炉鋼板のほうがあらゆる意味で環境負荷が低いことは言うまでもない。ただし、リサイクルされた電炉鋼板は、若干の不純物を含み、表面の綺麗さや成形・加工のしやすさなどで高炉鋼板に劣るため、主な用途は建設材料だった。自動車や精密機器、家電などは、高炉鋼板を使用するのが常。それを、リコーは覆した。

複合機に必要な材料特性をリコーが特定。東京製鐵が薄板化や電気伝導性・プレス加工性の向上などを施し、高性能の複合機用鋼板の開発・生産を実現させた。新開発した電炉鋼板は現在、高速複合機やプロダクションプリンターなどに搭載されている。


根底にある「コメットサークル」

こうした長年にわたるサーキュラーエコノミーへの取り組みは2021年3月、「サーキュラーエコノミーレポート2021」にまとめられ、公表された。統合報告書や、気候変動対策に特化した「TCFDレポート」とは別のレポート。日本の経済産業省・環境省が同年1月に策定したガイダンスに沿ったもので、日本企業としては初の試みである。世界でも同様のレポートを出す企業はまだ珍しい。

日本のみならず、世界においても先んじてリーダーシップをとるリコー。根底には、リコー独自のコンセプトがある。

今から30年近く前の1994 年、リコーはメーカーとしての領域だけではなく、その上流と下流を含めた製品のライフサイクル全体で環境負荷を減らしていくコンセプトを図に表した「コメットサークル」を制定した。

現在、広く認知されているサーキュラーエコノミーの概念図に非常に近いもので、サーキュラーエコノミーの概念図の一部はコメットサークルが原型とも言われている。

重要なポイントは、環境負荷に最も大きな影響を及ぼすのは製品の基本設計を握っている製品メーカーである、ということを自覚していること。だからこそ、メーカーが主体となってライフサイクル全体の環境負荷を低減させていかなければならない責任があるという考えのもと、責務を果たす覚悟を示している。

そして今、リコーは、このコメットサークルの概念を突き進むべく、顧客企業をも巻き込んだ変革に取り組んでいる。


顧客企業も変えていく

「複合機のリユースやリサイクルを通じた30年の蓄積は、自分たちのビジネスモデルをサーキュラーエコノミー型にしていくという活動。それはもちろん進化させていきますが、今、注力しているのは、お客さまのビジネスモデルをサーキュラーエコノミー型にするための価値やソリューションを提供する取り組みです」

ESGセンターの阿部所長は最新の動きについて、こう説明する。最もわかりやすい例が、PETボトルに直接レーザーで印字することで「ラベルレス」にする技術だろう。

PETボトルに巻きつけているラベル自体がプラスチックごみの増加につながる。加えて、ラベルを剥がす手間が効率的なリサイクルを妨げるという課題があった。解決するために、2020年頃から飲料メーカー各社がラベルレスのPETボトルの販売を拡大している。

ただし、ラベルレス商品は必要な情報がダンボールに印字されている「ケース商品」に限定されている場合が多い。法令で義務付けられている「容器識別マーク」はPETボトルの成形で表示可能になったが、成分などの表示は成形では不可能なためだ。

そもそも、インクなどを使ってPETボトル自体に商品名やロゴ、成分表示などを印字することは、PETボトルリサイクル推進協議会のガイドラインで禁止されている。

そこでリコーは、インクを使わず、PETボトルのリサイクルに影響を与えないレーザーマーキング技術で、ボトル表面に細かなデザインや印字を施す技術を開発。2021年12月、飲料大手のアサヒ飲料と共同で1200ケース限定のテスト販売をAmazonで行った。

消費者はラベルを剥がす手間がなくなる。飲料品メーカーはラベルを印刷するコストが削減できる。リサイクル業者は分別作業者の負荷を軽減できる。消費者・メーカー・リサイクル業者すべての側面でリサイクル促進が期待できる画期的な技術だ。

レーザーマーキング技術によるラベルレスのPETボトルの販売は緒についたばかり。まだ通常商品の市販には至っていない。だが、さらなる技術向上とコスト削減により、近い将来、市民権を得る可能性は十分にある。

「サステナビリティに向けて、グローバルでトップレベルの活動をしなさい」。山下社長はそう社員に檄を飛ばす。30年の歩みは新たなフェーズへと入った。

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