March 25, 2022

【Food Paper】廃棄される野菜から和紙づくり

ライター:春口滉平

100年続く伝統技法で大判紙から小物まで幅広い和紙のプロダクトをつくり続ける福井県の五十嵐製紙。近年では著名なアーティストからオーダーを受け、アート作品の制作に特化した和紙をつくることも多いという。 | COURTESY: IGRASHI SEISHI

日本には1400年以上の歴史があるという和紙づくり。その起源は諸説あるが、最も古くから和紙づくりが行われていたという福井県越前市は、「越前和紙」として全国的に有名な和紙の産地として知られている。1919年創業、100年以上の歴史をもつ五十嵐製紙は、現在もこの地で和紙をつくりつづけている。五十嵐製紙代表の五十嵐匡美氏に話を聞いた。

和紙の原料は、主に楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)などの植物だ。まず原料を煮沸し、水にさらして細かい不純物を取り除いたものを細かく砕いて水に溶き、トロロアオイという植物の根からとれる「ねり」と呼ばれる粘着性のある材料を加える。この液体を細かい隙間の開いた簀の上で揺すり、余分な水分を落としながら繊維を絡めて平滑な紙にしていく。この工程を「漉く」と呼ぶ。漉いた紙に圧力をかけて脱水したのち、乾燥させることで和紙になる。

和紙のメイン用途は壁紙や部屋の仕切りとする襖の紙だが、現在は和室の需要が減少しているため、お菓子の包み紙や名刺のような小物類や、紙を加工して作品をつくる海外のアーティスト向けに強度のある和紙の生産などが主流となっている。さらには後継者不足も問題になりつつあるという。「和紙の製紙会社の減少にともなって、金型や和紙のための道具をつくる会社のような関連企業も減少しています。ペーパーレス化などの影響もあって、和紙に限らず製紙市場全体が縮小しているのが現状です」と五十嵐氏は語る。「加えて、楮やトロロアオイなど原料となる植物の生産量も減少し続け、和紙の生産自体が危ぶまれています」。

こうした状況のなか、五十嵐製紙が開発した新しい和紙が「Food Paper」だ。Food Paperは、廃棄される野菜や果物の繊維を使ってつくられる紙で、発案者は五十嵐の息子だった。「次男の優翔(ゆうと)が、小学校4年生から5年間、身近な食べ物を使って紙を漉くという自由研究をしていたんです。たけのこの水煮やバナナの皮など、いろんな食べ物で紙をつくっては、レポートにまとめていました」。和紙の材料不足について議論するなかで、デザイナーと協働してこのアイデアを商品化することになった。

「五十嵐製紙」が手掛ける、廃棄される野菜や果物から作られる紙の文具ブランド「FOOD PAPER」。野菜を収納できるストッカーやサコッシュなどが人気商品。洋紙でも和紙とも違う独特な風合いが特徴。 | COURTESY: IGRASHI SEISHI

畑で採れる野菜などを中心に、さまざまな実験を重ねて「FOOD PAPER」が生まれた。

Food Paperに使われる材料は、フードロスとして普段は廃棄されている野菜や果物だ。使用する食材によって色や風合いが変わるため、文具や小物など、さまざまなプロダクトに展開されている。「普段から大量に廃棄されている、身近な食べ物を材料にしています。加えて、季節の食材もラインナップに加えるようにしていて、季節を感じられるような商品をつくりたいと考えています」。

和紙はすべて植物からできているため、水にさらすだけで溶ける。江戸時代には和紙のリサイクル業者があり、使用済みの和紙を回収して漉きなおし、最終的にはトイレットペーパーとして使用していたのだという。また、和紙を製品として出荷する際にはカットして成形するが、切れ端は原料として再利用が可能。不純物として取り除かれた繊維だけを使った和紙も生産されるなど、和紙の生産課程はすべてがサステイナブルだ。廃棄食品を使ったFood Paperは、そうした和紙の歴史の最先端をいく、現代にふさわしいプロダクトだった。

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