October 22, 2021
【山田 早輝子】たくさんのフードロスを生む日本での取り組み。真に影響力ある食品ロス対策とは何か?
山田早輝子
聖心女子大学を卒業後、米国・英国などで18年を過ごす。ロサンゼルスに映画プロダクション会社Splendent Media創設。
2020年9月、株式会社FOOD LOSS BANKを設立し代表取締役社長に就任。日本ガストロノミー学会代表。
the Japan timesが主催する、Sustainable Japan Award 2021、ESG部門でFOOD LOSS BANKが審査員特別賞を受賞。
「環境白書」(環境省発行)によると、日本における食品ロスの推計は年間612万トン(2017年度推計)。
この数字は、国連WFPによる世界全体の食糧援助量の約1,6倍に値し、可食と考えられる膨大な量の食品が日本国内だけで捨てられていることを意味している。
うち328万トンは、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどで廃棄処分になる事業系食品ロス。残りはというと家庭系食品ロスであり284万トンをも占めるという。
半分近い食品の廃棄に国民一人一人が加担していると言えるのである。
こうした状況から、日本で食品ロスといえば「売れ残り」と考えられがちで、問題解決への取り組みとしては、スーパーマーケットやコンビニエンスストアへと注目が集まることが多い。
一方で、日本の消費者は野菜の形状に厳しいため、一般に不揃いな農作物は間引かれ、出荷以前の段階で食品ロスが起こっているのも注目すべき側面だろう。
追い討ちをかけたのが、Covid-19の影響による飲食店での消費激減、一部の学校の給食廃止など。食材はさらに行き場を失った。
「今、すぐに行動に起こせることはないか」。2020年、食品ロス問題に新たな切り口で迫る会社、<Food Loss Bank>が設立された。
その活動が驚きをもって広く知られるようになったのは、ラグジュアリーファッションブランド<ジョルジオ アルマーニ>東京銀座の旗艦店内のレストラン、Armani / Ristoranteで「Loss Food Menu」を登場させたことだった。
「Loss Food Menu」は全7皿で構成され、これまで不揃い、規格外というだけで市場にも出ることのなかった食材で調理されている。
エグゼクティブシェフ、カルミネ・アマランテ氏と食材の生産者たちをつなぎ「Loss Food Menu」をゼロから実現へと運んだ立役者が、「FOOD LOSS BANK」設立者の一人である山田早輝子だ。
食品ロス問題というと、ハイエンド層と結びつきにくい傾向があるなか、なぜFOOD LOSS BANKはあえてそこをターゲットとしたのだろうか。
「コロナ禍で大きな打撃を受けた外食産業、なかでも困っていても顔が見えてこない生産者のために、何かできないかと思ったことがはじまりでした。これまでも、取り組みはあったけれど問題はなかなか解決しない。何か違う方法で向き合わなければと思ったんです。規格外食材だから安く売る、ではなく、不揃いでもクオリティが変わらないことを広く理解してもらいたい。そこで一流の品質を厳しく管理をしている人たちと仕事をしようと考えました。つまりハイエンド向けというより、クオリティについてインフルエンスを持つ人と場所で活動すべきだと思ったんです。「Loss Food Menu」によって、食品ロスを違う角度からも知ってもらえたのではないかと思います」
今、ファッション業界はサステナビリティに敏感であり、世界トップクラスのプレイヤーが動けばメッセージの波及も行動も加速するだろう。
「日本からスタートさせた「Loss Food Menu」はジョルジオ・アルマーニご本人からも賛同をいただき、現在、世界中のアルマーニ / リストランテ で導入してはどうかと協議が始まっています。
一つのプロジェクトを実現したらそれで終わりではなく、サスティナブルをサスティナブルにする、つまり良い取り組みを継続していく。それこそ大切だと考えていますので、これは大変嬉しいニュースです」
FOOD LOSS BANKでは、<ブルガリ>”Chocolate Gems for Sustainability”で、パッケージに伝統工芸の価値を採り入れる試みも行った。加工食品 ‘Ugly Love’を展開するなどの活動を続ける。
最後に、食品ロスは温室ガス排出と無縁でないことも思い出しておきたい。今、世界の食料システムからの温室ガス排出量は総量の21〜37%、うち食品ロス、廃棄物からの排出量は8〜10%と、予想以上の割合を占めている。また「富裕層トップ10%が二酸化炭素の半分を排出している」ことを示すデータ(Oxfam, ‘Extreme Carbon Inequality’ 2015)もある。つまり富裕層へ向けたメッセージ発信と、そこからのライフスタイルの変化が期待されるのだ。スタートから約一年。日本発のFOOD LOSS BANKのプロジェクトが今後、日本のみならず世界に向けて影響力を持つ可能性は十分あるのではないだろうか。