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「点ではなく面で考える」包括的ビジョンこそ地域を真に変える

December 16, 2021

ライター:田代かおる

キャンプパーク木頭
2018年開業。全10室/コンドミニアム、コテージ、ロッジ、グランピング仕様のテントなど全4タイプの宿がある。
レストラン、半露天の大浴場、フリーWIFI、そして最大100名が利用できる会議室を完備した研修棟など。
大自然のなかで宿泊が可能だ。●徳島県那賀郡那賀町木頭折字45 TEL:0884-64-8055
https://cpkito.com/
写真提供:KITO DESIGN HOLDINGS

藤田恭嗣
1973年、徳島県那賀町木頭地区生まれ。大学在籍時の1994年に会社創業、96年法人化、99年メディアドゥ設立。同社代表取締役CEO。2013 年、木頭ゆずの栽培・加工品販売を手掛ける「黄金の村」設立、17年 KITO DESIGN HOLDINGS 設立。18年グランピングを楽しめる「CAMP PARK KITO」、20年「未来コンビニ」、21年6月JR 徳島駅コンコース内に「YUZU CAFE Kitchen」をオープンさせた。
写真提供:KITO DESIGN HOLDINGS

ここは、標高1,000mを超える山々に囲まれ、那賀川が中央を流れる美しい山間地域、徳島県那賀町木頭地区。人口約1,000人、65歳以上が人口の過半数を占める「限界集落」だ。この地区に2020年4月オープンした一軒のコンビニエンスストア(日本では通称「コンビニ」と呼ばれる)が大きな話題を呼んでいる。建築物として、レッド・ドット・デザイン・アワード(ドイツ)の最優秀賞をはじめ国際的なアワードからの評価に次いで、日本最大級の空間デザインアワード「日本空間デザイン賞 2021」の部門金賞と、年間グランプリ「KUKAN OF THE YEAR/日本経済新聞者賞」をW受賞。現在、国内外のデザインアワード10冠を達成している。

「未来コンビニ」というユニークな名を持つ限界集落に現れたこの店は、日本全国で59,000軒を超えるというコンビニ業界の常識を覆す存在だ。

ミニキッチンを備えるコテージタイプの外観。大人4名まで宿泊可能だ。
写真提供:KITO DESIGN HOLDINGS

「世界一美しいコンビニ」をコンセプトにこの店を作ったのは、木頭出身の実業家で「KITO DESIGN HOLDINGS株式会社」代表取締役、藤田恭嗣。藤田は、電子書籍取次最大手「メディアドゥ」の創業者でもあり、代表取締役社長CEOとして東京を拠点に活動する。しかし常々「故郷の木頭が心から離れたことはない」と語る。その想いは、「メディアドゥ」の事業とは別軸で展開する、木頭創生へ向けた本格的な取り組みへと繋がる。

藤田がまず木頭で着手したのは、産業と雇用の創出だった。かつて木頭は、木頭杉で知られるように林業を生業としていたが、輸入木材の流入による市場競争激化や、進む過疎高齢化と共にその規模は年を追うごとに小さくなっていた。そこで村の再生のため主要産業創出を、と立ち上がったのが藤田の父と、のちの叔父である。彼らは木頭に多数存在した柚子の原生林に活路を見出した。柚子は、実が成るまでに18年かかると言われるほど栽培期間が長く、当時は流通しづらい果実と考えられていた。そこで藤田の叔父は地元の研究会と共に実験と工夫を重ね、 3年から5年で実る栽培方法を生み出すことに成功し、「木頭柚子」の名を世に広める。現在では、日本の柚子栽培の苗の多くが「木頭柚子」に由来するものだという。村再生の光として「木頭柚子」にかけた父や叔父の意志を受け継ぎ、藤田氏は、2013年に木頭柚子栽培・加工販売事業「株式会社 黄金の村」を設立。国内外への出荷促進や、木頭柚子ブランド強化のため、スイーツ・グロッサリーブランド「柚子の木」やオリジナルスイーツショップ「YUZU CAFE Kitchen」などの店舗展開も始めた。

「限界集落」に2020年4月にオープンした「未来コンビニ」。その建築は国内外のデザインアワードで高く評価された。
写真提供:KITO DESIGN HOLDINGS

さらに藤田は前進する。木頭地区にはまだ足りないものがあった。柚子事業が活発になっても、木頭を訪れる人が滞在できる場がなかったのだ。木頭の魅力をより多くの人に伝えるには、滞在してもらうことが不可欠、と考えた藤田は、2018年に「CAMP PARK KITO」を誕生させることになる。「CAMP PARK KITO」は、すでに閉鎖されていたキャンプ場を再利用しているが、コンフォートと滞在の充実度をより一層高めた宿泊場だ。施設としてのクオリティは藤田にとって常に欠かせない要素で、コンドミニアム、コテージ、ロッジ、グランピング、などバリエーションを豊富に揃え多様なニーズに応えられる充実した宿泊施設や、最大100名規模の研修が行える研修場も備える。

山々に抱かれるように佇む徳島県那珂町木頭地区。近年、木頭柚子栽培、加工販売が地区の主要産業して雇用を生み出す。
写真提供:KITO DESIGN HOLDINGS

大自然の中に高いデザイン性と快適さを実現したこのキャンプ場は年々人気を呼び、県内外からの来客を増やしている。人々が、観光地としてただ通過してしまう場所ではなく、木頭という土地の魅力を味わい人々との交流が生まれる「もてなし」の心が込もった施設となっている。冒頭で紹介した「未来コンビニ」は、未来の主役となる子供たちへのメッセージを込めた場所として、また、かつて普段の買い物にも車で1時間の移動を強いられていた地元住民の生活環境改善のために設立されたが、このキャンプ場の宿泊客にとっても必要不可欠な存在となっている。

「木頭にないものは食、文化、教育の3つ」と言い切る藤田の勢いはこれに留まらない。すでに来年に向けて新たな事業にも着手しており、プロジェクトを次のステージへと進める。「CAMP PARK KITO」「未来コンビニ」、そして新たな事業など、藤田の木頭での事業展開を見ると、彼のビジョンが実に包括的であることが見えてくる。

木頭の事業は「点ではなく面で考えている」という。この言葉からも、彼の繰り出す事業構想が、一点集中型の近視眼的な視点とは対極にあることが分かる。個々のプロジェクトは、それ自体に存在意義を作り出しながらもそれぞれが有機的に繋がり、その結果として「木頭」という場所とそこにいる人が繋がり、持続的な価値を作り出していく、という長期的な視野のもとの一手なのだ。この情報を受け取る側や、プロジェクトに参加する側も、事業単体ではなく木頭全体の「村をデザインする」という長期的な取り組みの中にいる自覚を持っていくべきだろう。

「すべての人が笑顔になれる奇跡の村を創る」。これが藤田の目指す地域創生のビジョンだ。木頭でのこれらの活動の原動力は「自分のアイデンティティを作り上げた故郷への愛」だという。日本の地方も、ようやく変わろうとしている。

写真提供:KITO DESIGN HOLDINGS

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