June 28, 2024

世界で最も住宅を建てた企業の責務

Osamu Inoue/Renews

ILLUSTRATION: AYUMI TAKAHASHI

Sekisui House’s strong points

1.2008年、環境省から「エコ・ファースト企業」として、住宅業界で初めて認定

2.CDP「Aリスト」2023年版で、世界10社のトリプルA企業の1社に選定

3.省エネ「ZEH」住宅の累計販売棟数は国内最大規模の8万3541棟

4.ZEH化が遅れる集合住宅でも先行し、サーキュラーエコノミーにも挑戦


2024年1月時点の累計建築戸数は266万戸。世界で最も住宅を建ててきた大手ハウスメーカーの積水ハウスは、サステナビリティへの取り組みでも業界をけん引する。

2008年、積水ハウスは日本の環境省から住宅業界で初めて「エコ・ファースト企業」に認定された。エコ・ファースト企業とは、環境分野において「先進的、独自的でかつ業界をリードする事業活動」を行っている企業を認定する制度。当初は住宅業界で積水ハウスだけだったが、一条工務店、大和ハウス、旭化成ホームズなどの大手が続いた。

2017年には、事業電力の再生可能エネルギー(再エネ)化100%を目指す国際イニシアチブ「RE100」に日本からリコーに続いて2番目に加盟するなど、住宅業界のみならず、日本企業全体でも環境リーダーとなっている。

国内を代表する“環境先進企業”は世界でも認められた。2024年2月、企業の気候変動対策などを評価する国際非営利団体の「CDP(Carbon Disclosure Project)」は2023年版の「Aリスト」企業を公表。積水ハウスは、「気候変動」「フォレスト」「水セキュリティ」の3部門すべてで最高評価を受ける「トリプルA」企業となった。

2021年版において、気候変動部門で3度目のAリスト入りをした積水ハウスは、翌2022年版でフォレストと併せ「ダブルA」となり、2023年版ではそれに続く快挙を成し遂げた。調査対象となった全世界2万3000社のうちトリプルAとなったのはわずか10社。うち、ハウスメーカーは積水ハウスだけだ。

「最近、なにかを大きく変えたということではない。25年前から取り組んできたことの積み重ねを評価していただいたと捉えています」。1992年の入社以来、ひらすら環境畑を歩んできた環境推進担当執行役員の近田智也氏はそう話す。

環境経営へとシフトする積水ハウスの動きは、国内はもちろん、世界的に見ても早かった。


「CO2オフ住宅」の普及を約束

快適な住まいを実感してもらう「住まい手価値」、地域との共存共栄などを大切にする「社会価値」、利益を適正に社会に還元する「経済価値」、そして、すべての企業活動を持続可能な社会づくりに結び付ける「環境価値」――。

4つの価値を経営の基軸に据える積水ハウスは、このうち環境価値の創造にいち早く取り組んだ。起点となったのが、1999年に発表した「環境未来計画」。それまでも、部署ごとに高断熱・省エネルギー(省エネ)住宅の開発や販売などに取り組んではいたが、全社をあげて環境問題に積極的に取り組むよう、大きく舵を切った(囲み記事を参照)。

日本の大手ハウスメーカーで環境を経営の基軸に据えると大々的に公言したのは積水ハウスが初めて。1997年に京都で開催された「国連気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)」で採択された国際条約「京都議定書」を受け、世界で最も住宅を建てる事業者として自らの在り方を真剣に考えた末の決断だった。

以降、2001年に在来樹と生物多様性を守る「5本の樹」計画を始動、2002年に「工場ゼロエミッション」を達成、2003年に戸建住宅の「次世代省エネルギー基準仕様」を標準化するなど立て続けに行動した。2005年には、京都議定書におけるCO2排出の削減目標をすべての新築戸建で順守する「サステナブル宣言」を行い、2007年にはフェアウッド調達を推進する「木材調達ガイドライン」の運用も開始した。

これらの動きがあったからこそ、2008年4月に環境省のエコ・ファースト制度が開始されてすぐに、認定に向けたアクションを取ることができたと近田執行役員は話す。

「エコ・ファースト制度の認定には、企業として『エコ・ファーストの約束』を宣言することが求められますが、すでに具体的な取り組みを始めていたため、言うべきことは決まっていましたし、社内のコンセンサスも取れていた。応募は自然な流れでした」

制度開始初年度に認定された23社で唯一のハウスメーカーとして、積水ハウスは「生活時及び生産時のCO2排出量削減を積極的に推進します」など3つの柱を宣言。具体プランとして16項目の約束を列挙した。その一つが以下だ。

快適な生活をしながら省エネルギー+創エネルギーで暮らしにおけるCO2排出量が差し引きほぼゼロになる近未来型の「CO2オフ住宅」の普及を積極的に推進します――。

その約束通り、積水ハウスは省エネ住宅の普及でリーダーとなっていく。

The yard of a homeowner participating in Sekisui House’s Gohon no Ki (“five trees”) project, which has planted 20 million trees since its launch in 2001.
© SEKISUI HOUSE LTD.

ZEH住宅の累積販売棟数8万棟超

2024年4月、積水ハウスは、「ZEH」基準をクリアする住宅(ZEH住宅)の累積販売棟数が2023年度末時点で8万3541棟になったと公表した。正確な統計はないが、おそらく世界で最もZEH住宅を販売している企業だろう。

ZEHとは、「net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」の略で、「エネルギー収支をゼロ以下にする家」のこと。資源エネルギー庁によると2008年頃から米国でとして注目され始めた。日本でも、2012年に国がZEHの概念や計算方法を確立。2014年4月閣議決定の「エネルギー基本計画」で、「2020年までに標準的な新築住宅で、2030年までに新築住宅の平均(=50%)でZEHを目指す」と定めて以降、普及が進んだ。

積水ハウスは閣議決定の前年、2013年からいち早くZEH住宅の販売に乗り出している。その初年度、戸建住宅に占めるZEH住宅の比率(ZEH比率)を49%とし、ほぼ政府目標を達成した。動きが早かったのは、2008年のエコ・ファーストの約束以降、自ら率先して省エネ住宅の開発と販売に取り組んでいたからだと近田執行役員は説明する。

「日本の住宅技術を世界にお披露目するということで、2008年の北海道洞爺湖サミットの会場に『ゼロエミッションハウス』を建て、同年に『CO2オフ住宅』という商品も売り出していました。早すぎたのか100棟も売れませんでしたが、その経験のおかげでつくり方も売り方も分かっていた。だから、国がZEHの概念を出してすぐに対応できたのです」

その後も積水ハウスは政府目標を遥かに上回る実績を積み、2022年度のZEH比率は93%(北海道を除く)、2023年度には95%(同)に達している。

もっとも近年は、他の大手ハウスメーカーもZEHに注力しており、競争は激化している。2023年度のZEH比率は、一条工務店で100%(北海道を除く)、「セキスイハイム」を展開する積水化学工業で96%(同)に達する。だが、積水化学工業のZEH累計棟数は2023年度末時点で5万3300棟。ZEH住宅で積水ハウスがリーダーであることに違いはない。

積水ハウスはマンションなど集合住宅のZEH化でも先行している。

2022年度、国内における注文戸建て住宅(約24万6000棟)のZEH普及率は33.5%と一定程度普及が進むものの、建売戸建住宅(約14万4000棟)は4.6%と依然として低い水準。マンションに至っては、2022年度の集合住宅着工面積におけるマンション版ZEH(ZEH-M)の割合が15.6%にとどまっており、目標まで開きがあるのが現状だ。

そうした中、積水ハウスは2021年10月、2023年以降に販売する分譲マンションの全住戸をZEHに、また全棟をZEH-Mにすると発表。2023年度には宣言どおりZEH化100%を達成した。

ZEH化がほぼ進んでいないとされる賃貸物件でも突き進んでいる。同社が広く展開する賃貸マンション「シャーメゾン」のZEH比率は2023年度、前年度比11%増の76%まで向上。累積受注戸数は4万2562戸となった。

Sekisui has sold over 80,000 homes compliant with the net-zero-energy house standard. This roof uses its unique solar panels that resemble classic roof tiles and thus do not jar with the home’s aesthetics.
© SEKISUI HOUSE LTD.

快適性を犠牲にせず

なぜ、ここまで積水ハウスはZEH化で先行できたのだろうか。

一つは、ZEHという言葉がない時代から同様の住宅の開発や販売に取り組んでいた経験が大きい。加えて、「デザインや居住の快適さを犠牲にしない」という方針が消費者に受け入れられ、普及が進んだ。

その方針を象徴するのが、独自開発した「瓦型太陽光発電システム」。これは、陶器製の屋根瓦と同じ形状の瓦型太陽電池パネルを設置することで、建物のデザインを損なわずに発電を可能とする積水ハウス独自のシステム。太陽光発電システムの普及にはデザイン性も重要と考え、2003年から住宅商品に取り入れた。洞爺湖サミットでのゼロエミッションハウスにも採用している。

「それまでの太陽光発電は、屋根に大きなパネルがドンと乗るタイプ。屋根の形状を選び、見た目も悪かった。一方で瓦型パネルはどんな形状の屋根でも敷き詰められ、街並みに違和感を与えないすっきりしたデザインに仕上げることができる。それでいて、しっかり発電でき、電気代も大きく削減できることから、お客様には満足いただいています」と近田執行役員。

ZEH商品にもこの瓦型パネルを採用。建物のデザインを選ばず大容量の太陽光パネルを載せられるため、ZEH比率向上の大きな武器となった。

近田執行役員は「住宅の設計にもこだわった」と話す。「窓などの開口部やリビングを狭くすれば省エネにはなりますが、当社は快適性を維持しながら、いかにしてZEH化するかを追求した。窓を大きくして、庭に5本の樹を植えて、鳥や蝶を眺めながら広いリビングで快適に過ごす。快適性の向上と省エネを両立させながら、進化させていったのです」。

そのためにまず取り組んだのが、遮熱・断熱性能の高い「複層ガラス(ペアガラス)」の積極採用だ。その歴史は古い。

1996年、高性能なペアガラスを標準採用した「セントレージΣ」という住宅商品を発売。2000年、すべての戸建住宅において高性能ペアガラス、断熱アルミサッシの標準化を実現させ、2003年には同じくすべての戸建住宅で、断熱性能が最上等級(当時)となる「次世代省エネルギー基準」をクリアする仕様へと価格転嫁なしで統一した。

「当時、ペアガラスは高くて使えないという風潮がありましたが、当社が標準採用したことで大量生産、コスト低減につながり、普及したという経緯があります」(近田執行役員)。

「エコキュート」や「エコジョーズ」など高効率給湯器の積極採用も進め、2005年には全戸建で標準採用とした。これも、業界全体での普及に寄与したという。

戸建でも分譲マンションでも賃貸でも、ZEH化はコストが増し、販売価格や賃貸価格に転嫁される。しかし、その後の光熱費抑制や売電によって、初期コストを吸収できる上に、快適性も向上するなどのメリットもある。

「社会や環境のために、お客様に我慢を強いては、ZEHは普及しません。どうしたら多くの人に受け入れられるかを常に重視しています」と近田執行役員。その考えは賃貸にも及ぶ。

ZEH賃貸マンションの76%(2023年度末)が太陽光発電システムを備え、その売電による収益は入居者に還元されている。「環境やCO2削減に貢献しながら、経済的にも助かるということで、若い世代を中心に受け入れられている」と近田執行役員は話す。

「物件の競争力も高まるのでオーナーさんにもご納得いただけている。現在、約2万人いるZEH賃貸への入居者さんの多くが『退去後もまたZEHに住みたい』と答えており、この世代が社会を変えていく一つの起点になるのではないかと期待しています」


本当の資源循環に挑戦

省エネ部材の標準採用でインパクトを出し、業界全体のトレンドを変え、ZEH住宅の市場を拡大している積水ハウス。当然、「電気自動車(EV)」の普及も睨む。

すでにほぼすべての新築戸建住宅にEV充電設備を設置しており、2023年12月には賃貸のシャーメゾンZEHでも全国的にEV充電設備の体制を整備したと発表した。

「EV逆境の話もありますが、我々は本気でEVに向き合う必要があると考えています。国際エネルギー機関(IEA)が、2035年に世界の新車販売の5割超をEVが占めると予測する報告書を出していましたが、多分、その流れはあるんだろうなと。となると、家庭の太陽光で発電した余剰電力で車を走らせる、あるいは、災害時などに車の電気を家に送って停電時をしのぐといったところを見越した家の作り方を、我々ハウスメーカーはもっと意識していかなければならないと思っています」

そう話す近田執行役員は、“本当”のサーキュラーエコノミーへの挑戦も見据える。

建築廃棄物の資源循環自体は、20年以上前から取り組んできた。2003年、「関東工場 資源循環センター」の設立を皮切りに、全国23カ所に同様の施設を設置。全国の施工現場から出る全廃棄物を回収し、リサイクルしている。回収した廃棄物を分析し、無駄をなくすことで、そもそも出る廃棄物を半減させることにも成功した。

ただし、リサイクルによってすべてが建材に生まれ変わるわけではない。熱エネルギーを回収・再利用する「サーマルリサイクル」も含まれる。これに近田執行役員は満足しない。

「できるだけ住宅・建設業界の中で循環していく仕組みをつくっていきたい。資源枯渇や地政学的な課題といった、建材のサプライチェーンに将来起こりうる様々なリスクを鑑みると、我々はバージン材に頼らない建築を考えていかなければいけません。自然から取って、作って壊して捨てる世界から脱却することが、本当のサーキュラーエコノミーなんだと思います」

すでに一部の建材でその挑戦は始まっている。積水ハウスは2023年9月、「塩ビクロス」廃材を再生した「アップサイクル内装壁面建材」を、壁紙などを扱うフクビ化学工業、エスエスピーと共同で開発したと発表した。塩ビクロスからの再生建材は国内初。戸建住宅や集合住宅での利用を視野に商品化を進めている。

本当のサーキュラーエコノミーの実現には、この壁紙の再生で見せたように、建材メーカー、そして住宅・建設業界全体での取り組みが欠かせないと考えている。

「建材の多くをたくさんのハウスメーカーや建設会社で共有している。サプライチェーンの奥には先が見えないくらい多くの企業が関わっている。我々1社ではどうにもならなくて、業界全体で向き合わなければサーキュラーエコノミーは成立しないと思います。時間はかかると思いますが、でも、やらなければならない」

近田執行役員はそう覚悟を覗かせた。住宅を基軸に社会変革に寄与してきた積水ハウス。その挑戦はこれからも当分、続きそうだ。

Toshiya Chikada, the executive officer in charge of environment improvement at Sekisui House
PHOTO: HIROMICHI MATONO

すべての起点となった「環境未来計画」

近田智也 博士(工学)
積水ハウス株式会社
執行役員 環境推進担当 ESG経営推進本部 副本部長

1999年、積水ハウスは住宅業界に先駆けて「環境未来計画」を発表し、以降、環境に関する様々な取り組みを率先して進めてきました。2008年には環境省の「エコ・ファースト企業」として業界で初めて認定され、「ZEH(Net Zero Energy House)」など省エネ住宅の普及でも業界の先頭に立って邁進しました。

いずれも住宅業界では動きが早いと言われますが、周囲を見て行動しているわけではありません。自ら考え、行動した結果です。

そもそも環境未来計画は、次世代に自然環境を引き継ぐのは我々の責務、という思いから始まりました。背景には、我々が最も住宅を建設している事業者だという事実があります。

積水ハウスの累計建設戸数は266万戸を超えましたが、環境未来計画を発表した当時、すでに我々は世界で最も住宅を建てている会社であり、それだけ地球環境に影響を及ぼしている自覚があった。現代社会に対してはもちろん、次世代に対しても大きな責任を感じていたのです。

それは、CO2の排出だけではありません。生物多様性も守らなければならない。その覚悟で2001年から「5本の樹」計画も始めています。

当時は、バブルがはじけた直後くらいでしたが、まだ山を切り拓いて宅地を造成する大規模開発も行われていた時代。地域の在来種の樹木が伐採され、代わりに、見た目のきれいな外来種や園芸種が植えられていました。しかし、それは人間のためであり、周辺の植物や生物のためではなかったのです。

そこで、「3本は鳥のために、2本は蝶のために、地域の在来樹種を」という想いを込め、その地域と相性の良い在来樹種を中心とした植栽にこだわり、庭づくり・まちづくりを提案し続けました。結果、これまでに累計約2000万本もの植栽をし、琉球大学の協力を得て生物多様性の定量評価の仕組みも構築できました。

在来樹種を流通させる文化や経路がなかったため、なかなか大変なプロジェクトでしたが、しかし、やらないと生き物の生息場所がなくなってしまう。住宅メーカーとしてできることはないかと考え、行動を積みました。

その起点は、やはり環境未来計画にあります。苦労があってもやる、やらなければいけないという決心がそこに書いてあるのです。

建物の高断熱化と高効率設備の採用で省エネを実現するとともに、再生可能エネルギーによってエネルギー収支ゼロを目指したZEH住宅の普及促進も、サーキュラーエコノミーへの取り組みも、すべては環境未来計画の頃からずっと続いている発想の延長線上にあります。

国から言われたから、他社さんがやり始めたから、といった考えは今もありません。自ら考え、行動する。持続可能な社会や環境のために何ができるのか。これからも常に我々は考え続けていきます。

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