October 28, 2022

【NEC】技術を生かしサステナビリティに貢献する

Osamu Inoue/Renews

ILLUSTRATION: SHO FUJITA

NEC’s strong points

1.「FTSE Blossom Japan Index」などGPIFが採用する国内株のESG指数すべてに選定

2.「生体認証」「AI」など本業の技術をサステナビリティや社会課題解決に応用

3. 「AIと人権」や「CO2の見える化」など社会インパクトが大きい取り組みにも注力

4.CFOがサステナビリティ経営担当役員を兼務し、非財務価値の向上に取り組む


今、国内有数のITベンダーであるNECは、「ICT」の会社から「ICTを活かしサステナビリティに貢献する会社」へと大転換しようとしている。

「持続可能な社会の実現」や、それを目標とした「Purpose経営」を標榜する企業は多いが、その濃淡や、本気度は千差万別。中には、マーケティング目的やIR対策でそう銘打ち、見せかけの「グリーン・ウォッシング」との嫌疑を受ける企業も少なくない。

だが、NECには「そうではない」と言える客観的な評価がある。「技術で世界のサステナビリティをけん引するリーダー」と言えるファクトもある。


主要なESG指数に選出

NECは、世界の主要なESG指数(インデックス)の多くに組み込まれている。

例えば、時価総額で世界の上位3500社からサステナビリティに優れた企業を毎年選定している「Dow Jones Sustainability Indices World Index」。選定はグローバルにおけるサステナビリティ企業の証とも言え、2021年は世界322社、日本からは35社が選ばれた。NECはその1社であり、2年連続で選ばれた。

一方、世界最大級の年金基金とされる年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がその運用戦略において採用しているESG指数が8つある。このうち、国内株を対象とするのは「FTSE Blossom Japan Index」「MSCI日本株女性活躍指数(WIN)」など5つ。そのすべてに、NECは組み込まれている。

企業の気候変動対策などを評価する国際非営利団体のCDP(Carbon Disclosure Project)。評価が高い「Aリスト企業」として、NECは「気候変動」「水セキュリティ」の2部門で3年連続選出されているほか、「サプライヤー・エンゲージメント・リーダー」としても2年連続選定されている。

カーボンニュートラルに関しても、2021年度、自社のみならず、「Scope3」まで含むサプライチェーン全体からのCO2排出量を2050年までに実質ゼロにすると宣言。日本では多くの上場企業が2050年までのカーボンニュートラルを宣言しているが、明確に「Scope3まで含める」と明言している企業は少ない。

The Sustainability Promotion Division’s Director Yuria Hiroi (right) and senior professional Koichi Inagaki

途上国の課題を解決する「生体認証」

「今、NECは第3の創業期の只中にいます。我々のすべての事業はCSV(共有価値の創造)のためにある」

NECのサステナビリティ経営担当役員でもある藤川修 代表取締役 執行役員常務 兼 CFOは、こう話す(囲みインタビュー記事を参照)。

コンピューターと通信の融合によって顧客企業や組織の効率化や利便性向上のために仕事をするのが第2の創業期だとすれば、第2の創業期で育んだ技術力を生かし、社会のサステナビリティや課題解決のために働くというのが第3の創業期。NECにとっての「サステナビリティ経営」とは、上辺の環境配慮ではなく、本業そのものがサステナビリティの向上や社会課題解決に貢献することを示す。

それを象徴するのが、世界トップクラスの精度を誇る「生体認証」技術を使った貢献だろう。生体認証技術というと、効率化に目が行きがちだが、困った人々や小さな命を救う技術でもあることは、あまり知られていない。

インド政府が2009年から導入し、13億人以上が登録している国民IDシステム「Aadhaar(アドハー)」。NECは、その顔認証、虹彩認証、指紋認証を組み合わせた生体認証技術を提供し、最もハードルが高い「登録」や各種申請におけるプロセスの簡素化に寄与した。藤川CFOはこう説明する。

「当時、政府が貧しい方々にお金を配ろうとしても、文字の読み書きができない人々の申請代行をする業者が搾取して末端に行き着かないという課題がありました。それを、当社の生体認証技術によって解消できた。インドに限らず、それ以外の途上国にも同様の問題はあります。そういった社会課題に向き合うことができる技術というのは、価値が大きい」

2019年にはケニア共和国での実証実験で、生後2時間を含む出生当日の新生児の指紋認証のエラー率を0.3%に抑えることに成功。同年、NECは、2000年の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で設立された予防接種を推進する「Gaviワクチンアライアンス」などと覚書を締結し、開発途上国におけるワクチン普及を目的とした幼児(1~5歳)向け指紋認証の実用化を目指している。

こうした生体認証技術には「AI(人工知能)」技術も活用されている。その技術を全く違う分野に応用し、人類のサステナビリティに貢献する挑戦も始まっている。


「AI創薬」事業へ参入

「2019年に“AI創薬”事業に参入しました。株主総会で定款まで変えて本気で取り組んでいる。これは、NEC自ら変わろうとしていること、そして我々の技術を世のため人のために活かすことをコミットしていることの証であると受け止めています」

サステナビリティ推進部(Sustainability Promotion Department)でディレクターを務める廣井ゆりあ氏は、こう語る。

NECは今、個々人の遺伝子をAIで解析したオーダーメイドのワクチンを投与し、免疫反応を利用して抗がん作用を発揮する「個別化ネオアンチゲンワクチン」の開発に、フランスのバイオテクノロジー企業と共同で取り組んでいる。2020年から、頭頸部がんと卵巣がんを対象とした個別化ワクチンの臨床試験を欧米で実施しているほか、そのAI技術の適用範囲を新型コロナワクチンの開発へと広げている。

また、今年6月には“AI農業”への取り組みの一つとして、食品大手のカゴメとの共同事業も明らかにした。

ケチャップの原料となる加工用トマトの営農支援を行う合弁会社をポルトガルに設立。成功例や熟練農家のノウハウなどをAIに学習させ、デジタル技術で生育状況や農地の状態を把握しつつ、適切な水や肥料の量を指示するサービスを提供している。

「水消費の75%が農業と言われていますから、地球の水資源を守ることにものすごく効果がある。肥料のあげすぎによる土壌汚染も防ぐことができる。さらには収穫量を上げて食糧危機に応じていくなど、AI技術がサステナビリティに貢献できる幅は、すごく広いと感じています」

藤川CFOは、AIの可能性について期待を込める一方で、自らにブレーキをかけるように、こうも語った。

「AIに限らず最新技術は使い方を間違えると、とんでもない問題にもなりかねない。特に顔認証や画像認識に関してリーダーである我々は、当然、人権やプライバシーへの配慮でもリーダーでいなければならないと考えています」

CropScope, an AI farming support tool jointly developed by NEC and Kagome


人権尊重でもリーダーに

NECは2019年、「人権の尊重」を最優先に事業活動を推進するための指針として、「NECグループ AIと人権に関するポリシー」を策定し、非営利の活動も含めて“悪用されない”体制やルール作りに取り組んでいる。

「私の仕事の7〜8割が人権のガバナンス体制の強化」と話すサステナビリティ推進部の廣井ディレクターは、こう説明する。

「欧米で厳格な規制が敷かれつつありますが、NECはそういう活動に深く入り込んで、意見を出してリードしている。日本の経済産業省にもコメントを伝えています。“人権侵害の起こりにくい技術が選ばれる世界”を作っていく、というのが、業界をリードするベンダーとしての責任。かなり集中して取り組んでいます」

顔認証技術やAI技術は、無人殺人兵器への転用や、カジノなどでの“カモ”の識別など、人権にもとる行為への応用が懸念されている。そうした応用はカネも生む。しかしNECは人権の尊重を第一に掲げ、悪用から守られる世界を作ろうと奮迅する。

目先の利益ではなく、まずは社会へのポジティブなインパクトを重視する――。それが、NEC Wayの実践とも言え、そうした姿勢は随所で垣間見ることができる。

At the conclusion of the agreement with Gavi, the Vaccine Alliance


業界横断でCO2の“見える化”

パナソニックやソニー、富士通など、IT・エレクトロニクス産業を中核とする国内最大級の業界団体、一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)。昨年10月、そこを事務局とする「Green x Digital コンソーシアム」が立ち上がった。

サプライチェーン全体におけるCO2排出量データを共有できる仕組みの構築と、再生可能エネルギーの新たな調達方法の確立を目指すコンソーシアムだ。このうち前者のワーキンググループの主査をNECが務め、運輸・金融・自動車・建設などの業界を巻き込み、今年9月時点で105社が協調しながら、データ共有の実現に向けて取り組んでいる。

中心を担っているのが、NECのサステナビリティ推進部でシニアプロフェッショナルを務める稲垣孝一氏。彼はこう話す。

「CO2排出量を正しく把握できなければ真の姿は見えて来ないし、対策も立てられない。既にCO2の見える化ツールは乱立しているが、異なるツール間でサプライチェーンを繋ぐことができないのが現状です」

「さらに、各社が算定するデータの質も課題と感じている。CO2削減は、あらゆる業界を横断して、グローバルにサプライチェーン全体で取り組まなければ、大きな効果は期待できません」

稲垣氏が言うように、企業が排出するCO2のほとんどは、自社の生産活動ではなく、「Scope3」と言われる他社や顧客による排出から生まれる。原材料の調達や輸送・配送、顧客による使用・廃棄などが、その対象だ。実際に、NECが排出するCO2全体のうち、Scope3は95%も占めるという。

このScope3を源とする膨大なCO2排出量の算定方法は、「GHGプロトコル」で示されてはいる。だが、詳細まで決められていないため、企業や業界によって算定結果にばらつきが出ているのが現状。そこで、排出量を計算するツールを提供するベンチャーや、あらゆる業界を巻き込み、共通化したうえで、正しいCO2の量を算出・共有できる仕組みを作ろうと、NECが中心となって取り組んでいる。

当然、その仕組みは誰のものでもなく、日本全体のCO2削減に寄与する半ば公的なものとなる。NECだけではなく、あらゆる企業が同じ条件で恩恵を受けるはずだ。それでも率先して注力するのは、事業の「非財務価値」をNECが重要視している証左と言える。


財務と非財務の戦略を統合

「『結果の指標である財務』と『結果を生み出す非財務』の取り組みを統合して行うことが、サステナブルな成長を維持し、変化への対応力向上につながる」

昨年12月、ESGに関する活動の説明会に登壇した藤川CFOは、多数のメディア関係者を前にこう明言した。NECは、決して企業の成長や収益を度外視してサステナビリティや社会課題解決に貢献しようとしているわけではない。その逆で、社会インパクトが大きい事業の「非財務価値」が企業価値の向上に寄与し、NECの成長につながると確信している。

だからこそ、「CFOがサステナビリティ経営担当役員を兼務」という体制になったと藤川CFOは説明する。

「私の一番の使命は企業価値を上げていくこと。財務も非財務も、最後は企業価値の向上につながる両翼であり、CFOの責任として、いわゆる従前の財務に加えて、非財務の領域も当たり前のごとく責任の範疇に入ってくると考えています」

財務に責任を持つCFOが、サステナビリティ経営やESGを推進する役員を兼務するというのは、一見珍しい。だが、CFOとして非財務価値も含めた企業価値の最大化をゴールにするのであれば、極めて合理的な判断と言える。

近い将来、NECが初めた「CFOがESG担当も兼務する」という企業文化が広がり、それが当たり前の世の中になるかもしれない。

All targets lead to enterprise value

藤川 修
NEC 代表取締役 執行役員常務 兼 CFO

NECは今、「第3の創業期」と自ら銘打った大変革の只中にいます。1899年に岩垂邦彦がNECを創業し、1977年には当時の会長である小林宏治が「コンピュータ技術とコミュニケーション技術の融合」を意味する「C&C」を提唱して、今日の礎を築きました。

 

C&Cが当たり前のものとなった2013年、今度は中期経営計画において「“社会価値創造型企業”へ変革します」と宣言します。このあたりから第3の創業期が始まりました。

 

ただし、変革していく中で、なかなか社員のベクトルを合わせきれなかった。我々の価値観であり、行動の原点である「NEC Way」も、創業の精神を受け継ぎながら、時の経営者によって更新されていく中で、フォーカスがぼやけてしまっていました。

 

そこで2020年、社員全員が同じベクトルを向かうことを意識し、改めて考え方を整理したものが、新しいNEC Wayです。そこでは「Purpose」として、「NECは、安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会の実現を目指します」と掲げました。

 

さらに翌2021年に発表した2025年までの中期経営計画と合わせ、その先に描く社会像も「NEC 2030VISION」として公表しています。「環境負荷の見える化により行動変容を促し、全体最適を維持する新たな社会の仕組みを創り、持続可能な地球環境を実現」など、我々が目指す価値創造をより具体的に示しました。

 

この戦略やビジョンは、デジタル技術を通じて社会のサステナビリティに貢献していくという我々の覚悟を示している、とも言えます。デジタルの中でも、例えば生体認証や画像認識の技術、AI技術など、我々が強いとされている技術的な価値を起点に、社会的な課題をどう解決できるか、という視点で、いろいろな組み合わせを探っているところです。

 

当然、社会課題解決と技術の組み合わせというのは簡単ではありません。すぐに結果が出ないことも多いですし、経営的には投資などのリスクも伴います。しかし、社会的なインパクトのある分野に踏み込んで結果を出すことができれば、当社の財務にもインパクトがあるはずです。

 

2019年にAI技術を活用した創薬事業に本格参入すると発表した際、「事業価値を2025年に3000億円まで高める」としましたが、個々人の免疫システムに合わせたワクチンの可能性は、それどころではありません。もしかしたら、今の製薬業界の構造を一変しかねないインパクトを秘めた事業だと思っています。

 

これはベンチャーの発想だと思いますが、大企業でもやろうと思えばできる。「All targets lead to Enterprise Value」。サステナビリティ戦略担当を兼務するCFOとして、すべての目標は企業価値向上につながると信じ、社会的インパクトのある非財務価値と財務価値の両立に責任を持って邁進していきます。

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