December 16, 2022

【パラグアイ大使】不完全さが美しい。日本の焼き物の魅力。

ライター:村岡麻衣子

PHOTOS: KOUTAROU WASHIZAKI

AMBASSADOR RAUL ALBERTO FLORENTIN ANTOLA

1965年パラグアイのアスンシオン市生まれ。ドイツのアウグスブルグ大学経済学部、ベルギーのブリュッセル自由大学、ブリュッセルの国際研究調査機関等で学び、アスンシオンの高度戦略研究所の国防審議会にて国家戦略立案の修士号を取得。1993年にパラグアイの外務省と産業商務省の管轄下にあって貿易と投資を推進する機関、PROPARAGUAYに入所。在ドイツ、在デンマーク、在ポーランド、在リトアニア、在ラトビア、在エストニア大使を務め、2018年より駐日大使。2020年からは在ベトナム大使も兼任する。

モダンと伝統、ある文化と別の文化。人々の好奇心をそそるのはいつも、異なるもの同士が出会ったり混ざり合ったりした時だ。ラウル・アルベルト・フロレンティン・アントラ駐日パラグアイ大使が、お気に入りの日本の贈り物として選んだ器もまた、異文化同士の出会いを象徴していた。今回のインタビューでは、この陶芸作品や、芸術家であるマリア・リズ・アキノ夫人との日本の芸術や工芸の楽しみ方、そしてこれまであたたかな関係を育んできた日本とパラグアイの将来について話を聞いた。

フロレンティン大使のお気に入りのKeicondo作、笠間焼の器。

パラグアイ大使として日本へ派遣という話が来たときは驚いたというフロレンティン大使。「それまではおもにパラグアイとヨーロッパ諸国との関係を扱ってきたので、このオファーは意外でした」と明かす。地理的にも南米のアルゼンチン、ボリビア、ブラジルと国境を分ける内陸国であるパラグアイからすると、日本はまさに地球の裏側にある国だ。過去に2度、短期の任務で来日したことはあるものの、日本はまだ大使にとって未知の国だった。しかし大使はこれを冒険のチャンスと捉えた。日本を愛し、日本の芸術を学べる機会に心躍らせる夫人からのあと押しも心強かった。

2018年に大使に就任してから、旅を通じて日本各地の芸術や工芸を楽しむ中で、もっとも惹かれたもののひとつが日本の陶芸だった。「たまたま日本の工芸作家を特集したテレビ番組を観ていたときに、笠間のKeicondoというユニークな陶芸家のことを知ったのです」と大使は語る。

茨城県の中央部にある笠間市は、日本有数の陶芸の地として知られる。商業用の陶芸の歴史としては江戸時代からだが、もっと古い時代の土器や窯跡も見つかっている地域だ。現在の笠間には、多くのギャラリーや工房、窯があり、陶器市なども開催されている。Keicondoは笠間で創作活動を行なっている陶芸家の一人だ。

木彫りの牛車。開拓時代にはこのような牛車でものを運んだ。

堅木で作られたハープは、パラグアイの伝統工芸品のひとつだ。

「わたしたちは笠間にある彼の工房を訪れ、そこでこの若き才能、Keicondoとその父親に会うことができました」と大使。Keicondoはエチオピア出身の笠間焼の陶芸家の父と日本人の母の間に生まれた。笠間焼はシンプルで丈夫だが、粗野ではない。使われる粘土の種類と手法にもとづいて笠間焼と定義されるものの、さまざまなスタイルを許容するゆるやかさがある。Keicondoの作品は、国籍を超えた雰囲気を漂わせる。黄土色は光の当たり具合によって、太陽や土、木の葉や果物にも見える、自然の色だ。「不完全さの中に美しさを湛えているところが日本の陶芸の魅力だと思います。ひとつひとつ違っていて良いという考え方 — これが作品をあたたかく、自然で人間的なものにしており、独特の優美さを生み出しています」と大使は語る。

夫人もまた、自然を観察する中で見つけた色や質感を用い、文化と文化の出会いに着想した興味深い作品を多数制作している。来日してから墨絵を習い始め、和紙の魅力に出会った夫人は、さまざまな種類の和紙とナンドゥティと呼ばれるパラグアイの伝統的なレース刺繍を使ったコラージュなどの作品も手がけている。

日本からパラグアイへの移民の歴史のはじまりは1936年に遡る。移民の多くは長年に渡り農業に従事し、同国の農業の発展に貢献してきた。現在、パラグアイ在住の日本人は移民2世、3世を含め約7,000人。2021年6月時点で日本には2,100人以上のパラグアイ人が暮らしている。1989年のパラグアイ民主化以降、両国はさらに関係を深めてきた。「政治的な関係はこれ以上ないほど良好です」と大使は言い、国際政治や国際協力の文脈における両国の相互的な協力関係の充実度を評価した。一方で、「商業的な関係においてはもっとできることがあると思っています」と大使。

パラグアイと日本の外交関係樹立100周年を祝す記念切手が大使館の廊下に飾られている。

日本人移民コミュニティの存在と、おもに日本製の自動車や機械類、ハイテク製品への高い需要のおかげもあり、日本人がパラグアイについて知るよりもずっとパラグアイ人のほうが日本のことを知っているというのが現状だ。「日本人に対して、我々の国のことを紹介するところから始めるべきだと考えました」と大使は言う。そこで2019年、パラグアイのことをもっと知ってもらおうと、経団連と協力してパラグアイに代表団を送り込んだ。

こういった努力の成果が表れ始めている。アルゼンチンとブラジルという南米のふたつの大国に挟まれるパラグアイの地理経済的優位性を評価し、パラグアイに投資する日本の企業が出始めた。「今年も、インドネシアなどの国に進出している日本の製造会社が、南米の製造の拠点としてパラグアイに新しい工場を設立することを決めました」と大使は話し、この流れを喜ぶ。近隣諸国にとっては、国際市場での競争力を増すべく経済活動を補完したり強化したりするためのプラットフォーム。日本のような遠くの国にとっては南米地域へのゲートウェイ。大使はパラグアイこう位置付ける。

パラグアイの企業は、品物の種類に関わらず求められる高い基準と品質が壁となり、これまで日本市場への進出に苦戦してきた。日本への輸出を増やすための努力を続け、現在の対日輸出品目としてはおもに胡麻や飼料用大豆製品、チアなどの穀類の農作物がある。今後も輸出品目も量も増やすことを目指しているが、中でも日本への輸出開始のために注力しているのが牛肉だ。パラグアイは世界でも有数の牛肉輸出国であり、世界50ヶ国以上がパラグアイ・ビーフを輸入しているが、日本はその中に入っていない。「日本への輸出を開始するための手続きを進めているところです」と大使は言う。

国境が開き、人の往来がしやすくなってきた。日本とパラグアイの距離がより縮まり、さまざまな方面で連携の可能性を探っていければどんなことが起こるだろうかと、大使は期待をふくらませている。

ナンドゥティと呼ばれるパラグアイの伝統的なレース刺繍の技法を使って作られた日の丸とパラグアイの国旗。

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