January 28, 2022

宇宙から環境保全に貢献、JAXA地球観測の歩み

ライター:塚田有那

日本で初めて、環境保全等のための地球観測を行う衛星「もも1号」(MOS-1)が打ち上げられたのは1987年のこと。以来JAXAでは、地球環境の状態とその変化をグローバルに観測し、さまざまな地球規模の課題解決を目的とした観測を継続的に行ってきた。「衛星データから得られた科学的な知見を世に広めるだけでなく、世界各地のさまざまなパートナー機関と連携しながら社会課題に取り組むことがJAXAのミッションです」と、JAXA第一宇宙技術部地球観測統括の平林毅は語る。

たとえば1997年の京都議定書の採択を受けて、温室効果ガスの観測に特化した世界初の衛星「いぶき(GOSAT)」は、2009年の打ち上げから今日まで観測を続けている。この12年の間だけでも二酸化炭素濃度、メタン濃度が右肩上がりで上昇していることが報告されているが、これまで各国の温室効果ガス排出量の報告において、衛星データが活用されるケースはなかったという。しかし人工衛星は各国の状況を均一に観測でき、透明性のある科学的なエビデンスを示すことが可能であることが「いぶき」の成果から示され、2019年には衛星データ活用の有用性が国際的に認められた。パリ協定で規定され、2023年から実施予定の「グローバルストックテイク(GST)」では、世界全体及び各国の温室効果ガス削減努力の進捗確認などが行われる予定であり、衛星データが科学的なエビデンスとして貢献できるよう、JAXAは12年間のデータとノウハウ蓄積の強みを活かし、国際機関や国内外の関係機関と協力して取り組んでいるという。

気候変動の観測衛星「しきさい」が観測した、植生指数とクロロフィルa(葉緑素)の濃度 | ©AXA/EORC

温室効果ガスの観測技術衛星「いぶき」が衛星分離する様子 | ©JAXA

陸域を観測する技術衛星「だいち2号」が観測した、拡大を続ける西之島 | © JAXA

ほかにも幅広い地球観測を通じて、グリーンイノベーション事業にも貢献している。たとえば再生可能エネルギー分野では、衛星から得られた地形データや日射量を活用して風力発電や水力発電、太陽光発電に適した設置場所の検討に貢献できる可能性があるという。また年間約600万ヘクタールの熱帯雨林が減少しているアマゾン・アフリカ地域では、対象地域77カ国の森林変化を観測し、違法伐採の監視に協力するなどの早期警戒システムを構築。また日本国内でも、人員不足により実態調査が困難となっている地域の森林を観測し、衛星データを地方自治体に提供する動きが進んでいる。現在は茨城県と連携し、2019年から実証実験がスタートしたところだという。

また海の水産資源にも着目し、日々変化する海面水温のデータなどを漁業の情報センターに提供することで、漁業で有用となる情報を漁業事業者が把握でき、より効率的な漁業を行えるような環境づくりに貢献している。

さらにJAXAが注力しているのは、災害発生など緊急時における情報提供と防災の将来予測だ。たとえば火山噴火警戒レベルの判断材料の1つとなる山体の変動監視や、洪水時における浸水域の広範囲な把握は、夜間や天候不良時にはヘリコプターよりも効率的な観測が可能となる。またインフラの老朽化に伴い重大な事故・災害リスクなどが社会課題となっている中で、予防保全として、堤防などのインフラの変化を監視する取組みも進めている。こうした実績から、2017年には政府の基本計画に衛星データを活用することが正式に盛り込まれ、また国土交通省や一部の地方自治体でも災害対応に衛星データ利用がマニュアル化された。そして現在は被災状況の把握に加え、災害被害に備えるべく、東京大学と共同で洪水の危険度を30時間以上前に予測するシミュレーションシステム「Today’s Earth」の実装を進めるなど、将来予測に向けた取り組みにも注力していると平林は語る。「地球規模の環境課題を前に、JAXAだけですべての予測を行うことはできません。今後はより多様な機関と連携し、さまざまな現象のプロセスや因果関係を調査していく予定です」。

二酸化炭素と一酸化炭素を組み合わせて観測し、二酸化炭素の排出量を推定するためのデータを導く温室効果ガス観測技術衛星「いぶき2号」 | © JAXA

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