May 14, 2019

野心的なネット・ゼロ目標も、あいまいな道筋

Japan Times ESG Consortium

Japan is scheduled to adopt the Long-term Low Greenhouse Gas Emission Development Strategy under the Paris agreement. | GETTY IMAGES

日本で初めて、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(仮称)」(案)が4月23日に発表され、現在パブリックコメントを受け付けている。最終的な戦略は閣議で決定され、6月の大阪でのG20サミットの前に正式に発表される予定だ。

この戦略は非常に重要である。というのは、長期的な排出目標をはっきりと期限を区切って設定することが、企業、投資家やその他の利害関係者に対し、その長期的な目標に沿って、ビジネスモデルや投資先を転換し、行動をとるよう、強力なメッセージを送ることになるからだ。

だが、この戦略の草案からそのメッセージを読み取るのは容易ではない。異なる意見や、場合によっては相反する意見を組み合わせようとしているため、どちらかといえばあいまいで、一貫していないところも見受けられる。異なる利害関係を持つメンバーで構成された、総理大臣の懇談会による提言を基に作成されたことが、その主な理由だ。

しかしながら、このあいまいな文章の中にも希望の持てる点があり、それらは内閣が野心的な長期戦略を最終的に決定する際の、妥当な土台となり得る。

そのうちの一つは、今世紀後半の「できるだけ早期に」、日本の最終的な脱炭素化を実現すべきだとした点だ。これは、排出量「ネット・ゼロ」(つまり脱炭素化)を今世紀後半中に達成するとしたパリ協定の表現より早く、よってさらに野心的なものだ。

とはいえ、企業、投資家、そして主要な利害関係者に対して強力なメッセージを送るには、この戦略の草案のスケジュールは具体性に欠けている。よって、閣議決定される最終的な戦略では、よりはっきりとしたスケジュールを設定すべきである。

この「今世紀後半」とは、2050年から2100年までが含まれ、この期間の「早期に」とは、2050年から2075年の時期を指す。したがって、「今世紀後半のできるだけ早期に」は、2050年にできるだけ近い時期を指すことになる。これは、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による最新の、科学的な知見と一致している。その知見とは、産業革命前の水準から1.5度以内に地球温暖化を抑えるためには、2045年から2055年の間で二酸化炭素排出量のネット・ゼロを達成する必要がある(これが2度の場合、2065年から2080年の間となる)というものだ。

もし日本の長期戦略がこうした具体的なスケジュールを取り入れるとすれば、1.5度(と、結果的に2度)目標を達成するという世界的な取り組みに合致する。これに基づき、内閣は最終的な長期戦略に、このようにはっきりと示されたスケジュールを含めるべきである。

戦略草案で示された具体的な方策も、どこか一貫性がない。例えば、発電部門で最も炭素集約度の高い石炭火力発電については、長期目標と整合的に、そこからの排出削減に取り組むとしている。

IPCC は、世界の電力部門の脱炭素化は2050年までに必要としており、これが事実上意味するのは、日本のような先進国では、制約なく温室効果ガスを排出している石炭火力発電を2030年までに、段階的になくす必要があるということだ。

その一方で、戦略草案は、2030年以降になって広く普及することを想定している、二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS)技術を推進するための方策を強調している。また、発電容量が17ギガワットにもおよぶ石炭火力の新設計画について、そこからの排出が長期的な影響をもたらすにも関わらず、言及していない。

今世紀後半のできるだけ早期に脱炭素化を達成するという、長期的な目標と合致させるためには、計画されている石炭火力発電所は、CCUS 技術が実装されている、もしくは実装可能なものでない限り、建設されるべきではない。したがって、長期戦略を固めるにあたり、現在および中期的な排出削減策を長期的な脱炭素化目標と一致させることは、日本政府にとって必要不可欠だ。

地球温暖化を1.5度もしくは2度に抑えるという目標に合致する長期戦略を政府がまとめ上げるのに必要な土台を、この草案は提供している。だが、草案は内閣が戦略を強める余地も、弱める余地も残している。

時宜を得た脱炭素化に向けて日本企業と社会が動きだせるように、具体的な時間軸と石炭火力発電に関する指針を組み込みこんだ、十分に野心的な長期戦略とすべく、内閣が政治的なリーダーシップを発揮することを期待している。

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