October 11, 2022

会社の発展と社員の幸せ――セイノーを支える創業の理念

Seino Holdings president and Chief Executive Officer, Yoshitaka Taguchi | HIROMICHI MATONO

セイノーホールディングスの経営を支えるのは「原点回帰」の理念だ。

創業から92年。オーナー企業であるセイノーの事業を支えるのは、創業者であり現社長の祖父である田口利八の教えだと代表取締役社長の田口義隆は話す。その教えとは、「会社を発展させ、社員を幸福にする」だ。

田口社長が「原点回帰」と表現する創業者の思想は、「使命」と「経営理念」と「基本理念」で成り立つピラミッド型の構造だ。一番上の「使命」として「お客さまの繁栄のために+αの豊かさを提供する」ことを掲げている。そして、その下の「経営理念」としてあるのが、「会社を発展させ、社員を幸福にする」だ。さらに社員の幸福とは何かということについて、「経済的に満たされること、自分の仕事に誇りを持てること、将来に明るい展望を持てること」と定義し、これらの「経済問題・誇り・将来性」を「幸福の三本柱」と呼んでいる。

ここに挙げた「使命」にあるように、顧客の繁栄のために創業者がいかに会社を発展させていったかについて、田口は次のように説明をした。

利八がトラック輸送で創業した時代は、まだ輸送事業は未成熟だったという。例えば、送り主が反物10反を送っても届け先には9反しか届かない。このように品物が届かないことや、荷物の紛失、破損や汚損など当時は当たり前のことだった。さらに、当時の治安も現在より良くはなかったため、トラックが信号で止まっていると、荷台の幌から中の輸送品が盗まれることもあったという。

そこで、確実な輸送で顧客からの信頼を得るために、荷物の到着時間を送り主に知らせるという付加価値の情報を通知するサービスを始めた。顧客にいかに喜んでもらえるかの価値創造を最初から考えたことは、セイノーの優位性となっていった。

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しかし、セイノーのこの優位性も長距離輸送の事業には及ばなかった。なぜなら当時の事業免許では、長距離の貨物輸送は当時の国鉄が担うことになっていたからだ。ある拠点から遠方の別拠点にトラックで輸送するには、途中で貨物列車の路線を経由しなければならず、経路は複雑になり到着時間の情報も一貫性に欠けていた。そこで利八が注目したのは、鉄道路線が第二次世界大戦の空襲の被害を受けている箇所があり、トラック輸送の方に利便性があるということだった。利八は1947年にトラックによる長距離輸送計画を立て、当時の監督官庁だった運輸省に何度も足を運び、日本の成長に必要であると説き、トラック長距離輸送の事業免許を申請した。今でいう「ルールメイキング」を主導したということになる。

このように創業者が事業を拡大していった経緯について、「もともとは価値創造から始まり、それで会社が発展する。するとお客様が幸せになるということです」と田口は話す。「社会に対する貢献があり、従業員に対する貢献があり、自分自身は価値創造で自己成長していく。人間尊重、自己成長、そして他者貢献が私達の重要なDNAになっているのです」。

しかし、「会社の発展が、顧客や従業員の幸せにつながる」という思想は、大正・昭和初期の産業界では一般的ではなかったかもしれない。というのは、特に繊維産業などの労働集約型産業では、労働者は低い賃金で長時間働かされる環境におかれていたからだ。

ではなぜ利八は、会社を発展させ顧客を幸せにすることと、従業員を幸せにすることを結び付けることができたのか。「一つは、現場主義でやっていたということです」。自分で積み荷を運び、その大変さを実感していたからこそ、現場の苦労に報いようとしたのだろう、と田口は説明する。

さらに、従業員の幸せについては、戦争体験の原体験もあると田口は言う。利八は中国への従軍の経験があり、多くの戦友を戦場で失ったことで、いかに人間生活の営みが大切なのかを理解していたからだと田口は話す。

このように会社の発展、顧客と従業員の幸せを説いた利八は、家庭では質素な生活の重要性を家訓として残したという。

「一本ざよりは身がもたん」。祖父の利八が食卓で、よく家族にこう話していたのを田口は覚えていると言う。一本ざよりとは、さんま一匹のことを指し、夕食でさんまを丸ごと一匹食べるようでは身上をつぶす。半身を一食で食べ、残りの半身は翌日に食べるように家人を戒めたという。利八が事業を興した岐阜県では海産物は高級品だったのだろう。

さらに二代目社長で田口の父である利夫の教えも、「質実剛健」だったという。ある時、政治家との付き合いでゴルフに行った翌日、会議の場で「あんなに面白いものはない。これをやったら仕事ができなくなる」と言い、ゴルフは会社の公の場では禁止になったという。

その代わり、セイノーでは野球部などの運動部を、社内の一体感の醸成に利用している。「野球部が都市対抗野球大会に出場することによって、コミュニケーション能力・価値観の共有・プライドの3つが上昇することが社内の統計でわかった」と田口は話す。

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ルールメイキングまでして長距離トラック輸送事業を切り拓いた利八だが、利八の後を継いだ田口の父である利夫も、新たな事業を切り拓いた。「総合物流商社」という概念である。「これは、『越中富山の薬売り』のようにお客さまが何か欲しいと言ったら情報をもとに薬以外の商売もする。そういう風に輸送の媒体があるといろんなことができますよね」と田口は言う。この総合物流商社の概念は35年ほど前に打ち出され、今では物品販売が全体の売上高の一部を占めるようになっている。

セイノーは現在も新たな事業概念を打ち出している。それが、オープン・パブリック・プラットフォーム(O.P.P.)だ。セイノーは2021年、ドローン開発を手掛けるエアロネクストとドローン配送を含むSkyHub🄬プラットフォームを構築し、山梨県で本格的なサービスを開始した。サービスの内容は、オンデマンド配送サービス専門の配送拠点と地域の商店と連携した買物代行・配送代行サービス。今までは山間地の届け先で配送時間がかかったとしても、別々の業者が一軒一軒配送していた。しかし、ドローンで運ぶことで配送時間を短縮し、他業者と共同配送することで各社のコストと二酸化炭素の排出量を削減することができる。

「今まで(各社が配送することで合計)5台必要だったものが1台でいい、ドローンでいい、ということになるとカーボンオフセットの効果が非常にありますよね。さらにhidden cost(表面化していない費用)も圧縮できます」と田口は説明する。

O.P.P.の事業は他にも、ラクスルと今年設立した合弁会社で運営する物流プラットフォーム「ハコベル」がある。これにより、荷主の運んでほしい、輸送事業者の運びたいというニーズを結びつけるマッチング事業と、荷主企業の配送計画を管理するサービスを提供している。

さらに田口は、中長期的にめざすのは顧客のバリューチェーンに関わることだと言う。バリューチェーンは、マーケティングから、購買、物流まで広範囲の事業活動を指すが、田口が目指すのは生産管理の肩代わりだという。「私達が今やっているのはロジスティックまわりだけです。ロジスティック会社、総合物流業者というよりは、生産管理本部の代理をやっていきたいと思う。そういう分野が得意の企業とどんどん提携していこうと思っている」と田口は話す。

さらに究極の目標は「お客さまの困りごとを解決すること」だと言い、顧客のバリューチェーンの一部になり価値創造を続けていきたいと田口は話した。


Naonori Kimura
Industrial Growth Platform Inc. (IGPI) Partner

「会社を発展させ、社員を幸福にする」という創業者の強い想いを経営理念に掲げ、会社を発展させることとはお客様を幸せにすることとの信念のもと、全ての事業活動、企業文化がお客様に寄り添う形での価値創造に向かっています。社員を幸福にする柱の一つは、仕事への「誇り」。「お客様にありがとう」と言ってもらえることが、社員にとっての誇りであり大きなモチベーションにつながっているとの事です。物流という未成熟だった業界に新たなる事業モデルを開発、ルールメイキングまで行い革新を起こしてきた原動力は、徹底したお客様目線と合理性の追求。現在も、人口減少などの環境変化に応える業界横断のプラットフォーム構想を立ち上げたり、物流領域から広げた新事業を検討中ですが、全ての起点は「それはお客様のためになるかどうかだ」と力強く言い切る田口社長の目には、お客様に寄り添い進化し続ける未来の会社の姿が映っていました。

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