June 07, 2024

「企業の長期的な成長を支えるため、ますます重要な機関投資家の役割」

Michiyo Morisawa, PRI senior lead and Japan Times ESG Consortium chair | YUICO TAIYA

地球温暖化など環境・社会への脅威が続く中、日本の機関投資家にできることは何だろうか。

まずは知見を広げて分析力を備え、長期的な視野で投資先企業の持続的な事業戦略を支えることが大切だと、PRI事務局シニア・リードの森澤充世氏は話す。

森澤氏がこのように話す背景には、欧州機関投資家の専門的な知見と事業に対する的確な指摘が、日本の経営者の間で高い評価を得ていることが挙げられる。PRI(責任投資原則)は2006年に国連の主導のもとで投資家によって策定された原則で、投資判断にESG(環境・社会・ガバナンス)要素を取り入れることを推し進めている。

近年、企業は環境・社会課題が事業に及ぼすリスクや機会についての情報開示を一層求められている。一方で、機関投資家は投資を通して持続可能な社会を支える役割を果たそうとしている。

国内の機関投資家は、投資先企業と効果的な対話(エンゲージメント)を持つために何をしたらよいかを聞かれた森澤氏は、「まずは知見を持つことです」と述べた。投資家と企業の間のこのような対話における究極の目的は、長期的な企業価値を高めることである。「エンゲージメントを進める上で大切なのは企業を分析する力を持ち、指摘をすることです」と、森澤氏は経営共創基盤の木村尚敬パートナーとのインタビューの中で述べた。

“The first thing [Japanese investors] must do is to expand their knowledge.” | YUICO TAIYA

「インベスメントチェーンの上流に位置するアセットオーナーがどのように考えるか、これが市場の方向性を決めます」と森澤氏は言う。アセットオーナーは、受託者責任に基づき受益者に最善の利益をもたらすために、投資運用会社に運用指図を与える。それにより資金の投入対象が決まる。つまり、アセットオーナーの投資方針が運用会社に影響を与えることになると森澤氏は話す。

アセットオーナーが明確な方針を立て、運用会社に示すことが理想的であり、EUタクソノミーのような原則を作成することも有用だと森澤氏は話す。欧州委員会によると、2020年に開始されたEUタクソノミーは、企業や投資家が「環境面で持続可能な」経済活動を定義し、持続可能な投資判断を行うためのものである。

森澤氏によると、世界的な運用環境は過去10年に変貌を遂げたという。ESG課題を考慮に入れる責任投資という考え方は金融市場に浸透した。

PRIが策定された2006年以来、世界の5,300機関が長期的視野での投資の推進を目指すPRIに署名している。その結果、環境・自然資源・人的資源の保護を目指すという考え方はビジネスの世界に広まった。

日本では、2014年に金融庁が日本版スチュワードシップ・コードを作成した。これは英国のスチュワードシップ・コードをもとに作られたものだが、企業の持続的な成長のために投資家と企業が建設的な対話を持つことを奨励している。翌年、東京証券取引所はコーポレートガバナンス・コードを策定し、株主・顧客・従業員・地域社会など、すべてのステークホルダーのために公正で透明な決定をすることを求めている。同時に、プライム市場に上場している企業は海外投資家向けに英文開示を求められている。

また、2015年に国連が採択した持続可能な開発目標(SDGs)の17項目や、2015年にパリで開催された国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で196カ国によって合意されたパリ協定も、世界がESG課題に理解を深める要因になったと森澤氏は話す。

しかしながら、日本の機関投資家は欧米の投資家に追いつかなければいけない点もある。「5,300機関以上がPRIに署名しましたが、そのうち4,000は欧州や北米の機関なのです」と森澤氏は指摘する。日本は約120機関が署名しているにすぎないという。「アセットオーナーのうち、PRIに署名した保険会社は多いですが、公的年金の署名は進んでいない。カーボンニュートラルにコミットしている日本政府と公的年金の間にギャップがあります」

“What asset owners think decides their course of action in the capital markets, as they are positioned in the upstream of investment chains,” Morisawa said. | YUICO TAIYA

日本では菅義偉元首相が2020年の所信表明演説で、2050年までの温室効果ガスの排出ゼロとカーボンニュートラルな社会を目指すことを宣言した。

2015年に日本で最大の公的年金である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、日本の機関で初めてPRIに署名をして以降、ESG関連投資に積極的に取り組んでいる。その後、それに続く公的年金が現れなかったが、この状況を打破すべく、昨年10月に岸田文雄首相が責任投資の国際会議であるPRI in Personでスピーチを行い、少なくとも7つの公的年金、総額90兆円規模が新たにPRIの署名に向けた作業を進めることを表明した。3月には、公的年金の一つである国家公務員共済組合連合会がPRIに署名した。

岸田首相の表明は、2,000兆円以上ある家計金融資産残高のより多くの部分を投資に回すように促すことで企業の成長や家計を支えることを目的とした資産運用立国実現プランの一部だ。このプランは他にも、NISA(少額投資非課税制度)の拡充や、資産運用業の改革、コーポレートガバナンス改革の促進などを含む。

一方で、投資家のESG開示も過去10年間で進展した。昨年、国際開示基準を策定する国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は、サステナビリティ開示基準の最終案を公表し、世界の多くの企業がそれぞれ異なる基準をもとに開示してきた問題の解決につながった。この最終案に基づき、日本版開示基準が今年度中にまとめられる見通しだ。

そんな中、問題の一つとして挙げられるのが、東京証券取引所に上場していながらサステナビリティ開示の準備ができていない中小企業の現状だと森澤氏は指摘する。多くの国際企業は、CO2排出量、削減の方法、削減可能な部分を把握している。「しかし、それができていない企業の場合は、まず排出量を把握し、それを開示することが必要です」と森澤氏は話す。

それらの中小企業は、開示の透明性にも課題が残るという。

例えば、アクティビストの投資家から自社を守るために株式の持ち合いをしている会社がある。このような場合、市場の透明性を高めるためにも、そして企業の経営を改善する視点からも持ち合い株の解消が重要になる。「長期的な視点で自分たちの企業を応援してくれるような投資家になっていただくためにも、何をしないといけないのかを考えて開示に取り組む必要があります」と森澤氏は話す。

さらに、企業によっては生産を外部委託した結果、アップルのように大規模なサプライチェーンを擁する企業もあり、全体のCO2排出量を把握するのが困難な場合もある。したがって、自社のサプライヤーにCO2排出量の測定と開示を促し、削減計画を策定させる必要がある。

また地方においては、大手銀行だけではなく地方銀行や信用金庫などが地域ビジネスに関する知見を持っている。その場合は、地域企業によるCO2の削減と化石燃料から再生可能エネルギーへのシフトを促し、金融機関の投融資を通して生産設備の変更を進めることが重要だ。「金融機関が投融資先に関して、地域で働きかけを行うということが今必要なのではないでしょうか」と森澤氏は語った。

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