April 23, 2021
【GFNJ】気候変動対策先進国へ、ESG投資が加速
高田氏は財務省勤務の傍ら2018年9月にグリーン・ファイナンス・ネットワーク・ジャパン(GFNJ)を立ち上げた。数名で開始した活動はESG(環境・社会・企業統治)投資への関心の高まりとともに急速に拡大し、現在は財務省、金融庁、環境省などの中央省庁、金融機関、機関投資家・企業など官民130以上の組織から250名以上が参加する。
グリーン・ファイナンス(環境金融)とは、持続可能な経済・社会の実現に向けた金融または投資を推進する取り組みを指す。いまでこそ議論が盛んだが、GFNJ発足当時、日本では官民のグリーン・ファイナンス関係者の横のつながりや、海外関係者と連携を図る場や仕組みが不十分であったという。経済協力開発機構(OECD)事務局でグリーン・ファイナンスに3年間携わった高田氏が「ないのであれば自分で作ろう」と声掛けを始め、同分野の日本の第一人者とOECD時代の上司でもある元財務官を発起人に引き入れた。
GFNJは、賛同者が「個人の立場」で参加する「インフォーマルな集まり」(高田氏)だ。会員間の情報共有やイベント開催を主な活動とし、18年と19年に開催したシンポジウムにはそれぞれ約200名が来場した。コロナ禍でオンライン開催となった20年には小泉進次郎・環境大臣が動画メッセージを寄せている。19年には東京都庁と駐日英国大使館が共催するイベントに協力し、気候債権イニシアティブ(Climate Bonds Initiative)とはセミナーを共同開催するなど世界のステークホルダーとも協働する。
高田氏は日本で近年、「年金基金のような機関投資家においてESG投資を推進する機運が高まっている」と指摘する。背景には、公的年金運用基金に適用される「積立金基本指針」が20年に改正され、「ESG投資をやっていく、ある意味義務が生じた」ことがある。同氏は財務省では国家公務員共済組合連合会(KKR)に対しESG投資推進を求めている。KKRは、すべての運用委託先へESGを考慮した投資を要請するほか、ESG指標の活用可能性や「責任投資原則(PRI)」の署名を視野に入れた検討、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)賛同の準備などを進めることとしている。「アセットオーナー(KKR)が動けば日本のインベストメントチェーン(お金の流れ)が動くきっかけになり得る。特に公的年金運用機関の動きは民間市場への波及力が大きい」という。
世界では15年、各国の金融当局や金融機関の間で気候変動問題を金融または経済問題として捉える「意識の変化」が起きたとみる。9月にイングランド銀行総裁・金融安定理事会(FSB)議長のマーク・カーニー氏が金融関係者向けのスピーチで気候変動が金融市場の安定にもたらすリスクについて警告し、国連は「持続可能な開発目標(SDGs)」を採択した。12月にはFSBがTCFDを設置し、第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で「パリ協定」が合意された。翌16年のG20 では議長国の中国がグリーン・ファイナンス・スタディ・グループを設置。環境や気候変動問題に直接関与してこなかった財務・金融当局や中央銀行が「否応なしに」(高田氏)この議論に携わることになる。
この流れは直近数年で加速した。TCFDが提言する情報開示には2021年1月時点で世界1700超の機関が支持を表明し、特に日本は300超と世界で最も多い。EUは「サステナブル・ファイナンス市場」の構築を進めており、20年には「タクソノミー」と呼ぶ、いわゆる「グリーンな活動」の定義集を公表した。制度作りの面で先行したEUに追随するのか、独自の基準を作るのか、世界は難しい選択を迫られているという。
日本は世界有数の規模の金融資産と成熟した金融市場を持つが、グリーン・ファイナンスへの認識と取り組みは欧米に比べて出遅れていた感が否めない。だが、それだけに大きな潜在性を秘めているともいえ、15年に世界最大の年金基金で機関投資家の一つでもある年金積立金管理運用独立行政法人(GRIF)がPRIに署名したニュースは、世界のグリーン・ファイナンス関係者から「(日本という)眠れる獅子がようやく立ち上がった、その第1歩」(高田氏)と受け止められた。
その後しばらく目立った動きはなく、再び活性化したのは17年ごろからだ。東京都が自治体として初めてグリーンボンドを発行し、新設された世界の中央銀行・金融規制当局のネットワークに金融庁が翌18年、日本銀行が19年に参加した。「日本人は最初の一歩を踏み出すのが苦手だが、いったん動き出すと雪崩のように一気に変わる。直近数年間のグリーン・ファイナンス市場における日本の進展は世界に比しても速かった」(高田氏)。2020年に菅首相が所信表明演説で「2050年カーボンニュートラル宣言」を行い、政府主導のグリーン・ファイナンスに勢いがつく可能性もある。11月に英国で開催されるCOP26では、「日本としてどれだけ説得力のある目標を打ち出し、その議論を進めて行けるのか」に世界が注目しているという。