December 19, 2023

【日本たばこ産業】「4Sモデルとパーパス」に基づき事業価値を高める

Mutsuo Iwai, chairperson of the board of Japan Tobacco Inc. | Hiromichi Matono

バブル経済の崩壊により日本の景気が悪化し始めた1990年代前半、日本たばこ産業(JT)は経営理念をまとめた。

その経営理念「4Sモデル」は、お客様、株主、従業員、社会という4者のステークホルダーのための経営という考えに基づくものだった。この考えは、ステークホルダー資本主義が経営に浸透した今日では見慣れた内容だが、多くの企業が株主資本主義を追求していた当時は先進的なものだった。

日本専売公社だったJTが1994年に株式上場された際に、どのような理念で経営すべきかを考え4Sモデルが作成されたという。

「高次に、バランスよく満足を提供していくのが私達の経営のフィロソフィーだと考えてまとめている」と岩井睦雄取締役会長は、経営共創基盤(IGPI)木村尚敬パートナーとのインタビューの中で述べた。

JTは1985年に民営化され、民間企業としての経営を開始した。そして1994年10月、JTは東京証券取引所やその他の証券取引所に上場された。

Hiromichi Matono

「お客様を中心として、株主、従業員、社会の4者に対する責任を高い次元でバランスよく果たし、4者の満足度を高めていく」と同社ウェブサイトは4Sモデルについて説明している。この4Sモデルに基づき、お客様に対しては、「多様な嗜好・ニーズを満たすことはもちろん、それ以上の価値を提供し得る優れた製品・サービスをお届けします」とウェブサイトに記載されている。また、株主に対しては、利益成長と株主還元のバランスを図り、中長期の利益成長を実現することで株主還元を目指す。従業員に対しては、働くことに誇りを持てる魅力ある企業を目指す。さらに社会の一員としての責任を果たし、事業を通して社会の持続可能な発展に寄与するために、ステークホルダーと共に諸課題を解決するとある。

「当時、企業は株主資本主義に走りがちだった中で、それは違うのではないかと考えた」と岩井氏は話す。それ以降、4Sモデルは政策決定の基盤であり、サステナビリティの中枢になったと言う。

しかし、年々、喫煙に対する風当たりがますます強くなり、さらに、世界中でたばこ販売や喫煙に厳しい規制が課せられるようになった。国内のたばこ市場は縮小していることをデータは示している。日本たばこ協会によると、紙巻たばこの販売実績は1994年度に約3兆8000億円だったが、2022年度には約2兆5000億円にまで減少している。

たばこの国内販売が減少する中、JTグループは海外企業の買収を進め、現在、世界第3位のたばこメーカーとなった。1999年には米RJRナビスコ社の米国外のたばこ事業を買収し、2007年には英ギャラハー社を買収した。その後もロシア、フィリピン、インドネシア等の企業を買収している。現在、JTグループの売上の半分以上は海外市場が占めている。

JTグループは事業ポートフォリオの多角化も進めている。現在、たばこ、加工食品、医薬の3つの中心事業がある。しかし、たばこ事業以外は未だ規模が小さく、全体の売上に占める割合はたばこ事業が91%、残りは加工食品事業が5.9%、医薬事業が3.1%である。

グループ企業が全世界に拡がる中で一つのJTグループを目指す意味もあり、今年パーパスを制定した。それは、「心の豊かさを、もっと。」である。

“Companies tended to pursue shareholder capitalism. But we thought that was not what we wanted to do,” said Iwai. | Hiromichi Matono

「たばこは必需品ではなく、人間がそれを欲しているもの。そういうものをずっと提供してきているし、そこが私達の強みだ」と岩井氏は話す。そして、「たばこだけでなく、何かそういう心の豊かさを人は常に求めている」とパーパスを決定した背景について説明する。

「パーパスは、今までの事業もそうだし、これから新たに見つけていく事業についても、そこに向かって行くための北極星のようなものだ」と岩井氏は続ける。

将来の不確実性に関わらず、JTは最高益を更新している。2022年12月期は、急激な円安やたばこ価格の上昇もあり、約2.7兆円の売上に対して当期利益が前年度比30.8%増の4,427億円を計上した。今期については、同社は当期利益を4,640億円と予想している。

一方で、JTは将来のための事業の種も撒いている。活動の一つは京都大学人と社会の未来研究院と共同での「心の豊かさ」の研究である。二つ目は、将来「心の豊かさ」を実現できるような技術や事業を探索して投資すること。その投資は自社のファンドやシンガポール、イスラエル、欧州での拠点を通じて行われる。三つ目は新商品の開発。例えば、2022年に「ston s」というブリージングデバイスの販売を開始した。これは電子たばこのような形状だが、ニコチンやタールを含有しない。吸い込むことで、カフェインや、血圧下降・精神安定につながるGABAを含むカートリッジ内の液体が加熱され水蒸気が発生する。

これらの活動はD-LABというR&Dのためのチームが行っている。国内外で事業の種を見つけるミッションを担った40人ほどの若いチームだ。「『心の豊かさ』を提供できる事業を20~30年のスパンで考えている」と岩井氏は言う。

長期的には、既存事業の維持に務めながら、企業パーパスに沿った新規事業の機会を探索することが重要だと岩井氏は話す。つまり、アフリカやアジアのように紙巻たばこ市場がまだ成長している地域に関しては対応し、加熱式たばこにも力を入れる。同時に事業の多角化の努力も続けるという。

「現在はたばこ事業が売上の9割。ただ、この流れは必ず移り変わっていく。その中で自分達は将来に向かって全体の事業価値を上げていきたい」と岩井氏は語った。


Naonori Kimura
Industrial Growth Platform Inc. (IGPI) Partner

経営の“モノサシ”に基づき、多様な価値観を提供

1985年に民営化されたJTは、94年に会社の軸となる4Sモデルを制定した。4Sとは、お客様・株主・従業員・社会の4つを指し、経営においてトレードオフになりやすい要素を高次にバランスさせながらかじ取りを行っていくことが、企業の持続的な向上につながるという経営理念である。この経営の“モノサシ”に基づき、本年にはJT Group Purposeとして、“心の豊かさを、もっと”を定めた。主な事業領域全てにおいて、多様で変化していくお客様や社会の心の豊かさに寄り添っていく、という価値提供を目指している。事業展開においては、数々のM&Aを通じてフルグローバルカンパニーとなった今、多様な価値観を経営に反映させ、世界中の社員にとっての働きやすさを追求している。また、D-LABにおいては長期目線での価値提供の在り方を探求しており、事業探索のみならず、心の豊かさの研究などまさにパーパスに沿った活動を展開している。たばこ事業においてはグローバルのサプライチェーンの健全な発展に寄与すべく、アフリカにおける産業振興にも一躍買っている。閉塞感漂う日本において、“心の豊かさ”こそ今求められているものではないか、そういった意味でもJTの目指すサステナブルな未来が実現されることが願われる。

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