June 07, 2024

【ONE】強固な企業理念で激しい国際競争での生き残りをかける

Hiroko Nakata
Contributing writer

ONE’s Managing Director Yasuki Iwai | ONE

日本の海運会社で、2兆円規模の利益を連続して計上している企業があることは、あまり知られていないかもしれない。

その企業はオーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)といい、2022年3月期の税引き後利益が前期比5倍近くの167億5600万ドルに達し、その驚異的な決算は投資家を驚かせた。というのも、日本の上場企業と比較すると、トヨタ自動車に次ぐ規模の利益だからだ。2023年3月期の税引き後利益もおよそ150億ドルを計上した。

この2期連続の利益の伸びは株主である日本の大手海運会社に利益をもたらし最高益へと導いた。もちろん今後の収益見通しに関しては不透明感が残る。海運市況は極めて変動が大きいことで知られているからだ。

とはいえONEの急成長を支えたのは、その企業理念であると言える。常にグローバルな視野を持ち、従来の日本企業の慣習に固執しないというものだ。「ダイナミックで過酷な国際競争に勝ち残るには、新しいものを求めなければいけなかった。新しいものというのは、 従来の日本のやり方とも違うし、欧米のやり方とも違うということだ。」ONEマネージング・ダイレクター岩井泰樹氏は、経営共創基盤(IGPI)木村尚敬パートナーとのインタビューの中でこう述べた。

シンガポールに本社を置くONEは、2017年に日本の海運大手3社(日本郵船、商船三井、川崎汽船)がそれぞれのコンテナ事業を統合したことにより設立された。激化する国際競争に勝ち残るためだった。これらの大手海運会社は、日本経済が拡大した時代に繁栄を誇ったが、その後の「失われた30年」に日本経済が失速すると市場シェアも減少していった。一方で、中国を中心に世界の海運市場が拡大するなかで、海外の海運会社は急成長を遂げた。2008年のリーマンショックのように世界経済が打撃を受けると、世界の海運会社は生き残りのためにM&Aや大規模提携を進めた。

ONEが設立される頃には、日本の海運大手3社のコンテナ事業のシェアはそれぞれ2%ほどに縮小していたと岩井氏は話す。コンテナ事業の統合後は、欧州の海運大手には及ばないものの、3社がそれぞれ38%、31%、31%の割合で出資をした結果、世界第6位のコンテナ船会社になった。

現在、ONEは世界120カ国でサービスを提供し、200隻以上のコンテナ船を運航している。世界中で1万1000人の従業員が働き、特にダイバーシティの象徴ともいえるシンガポール本社には19カ国の国籍の社員が在籍する。

Ocean Cafe at ONE GHQ office in Singapore shows the message: “First we eat, then we do everything else.” Through mottos and sharing, ONE builds a team spirit among its members from many nations. | ONE

急成長を遂げたONEだが、環境への影響を最小限に抑えることも目指している。国際海事機関(International Maritime Organization)の推計によると、国際貿易の増加により海上輸送による温室効果ガスの排出は2050年までに3倍近くになると言われている。

2019年にONEはサステナビリティ戦略を策定し、その中で環境、社会、ガバナンス、オペレーショナル・エクセレンスという4つの優先分野を定めた。ESGは国際競争のなかで海運会社の命運を決める重要な要素の一つであると岩井氏は話す。多くの国や企業が2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることにコミットしており、海運会社は燃料の種類や消費量等によって変わる温室効果ガス排出量の削減に責任があると岩井氏は言う。

また、ONEのようなコンテナ船会社はオペレーショナル・エクセレンスなしでは欧州の巨大な海運会社に太刀打ちできない。

「資産の使い方、人材の使い方、輸送の仕方などについてベストなソリューションを極めることによって、規模の経済性の差を克服することができる」と岩井氏は話す。

ONEは設立以来オペレーションの効率化を図ってきた。例えば、船体に取り付けたセンサーによって航行、エンジン機能、事故の記録を蓄積してきた。ONEはそれらの膨大なデータと外部要因である風・波・潮流などの気象・海象条件や港湾の混雑状況のデータを合わせて分析をする。さらに、燃料コストや採算性のデータを検証することで全体のオペレーションの効率を改善している。昨年からは大学の専門家と提携し、自動運転、代替燃料、DX(デジタル・トランスフォーメーション)などを利用したオペレーション効率の改善を図ることを目指している。

「(オペレーショナル・エクセレンスには)チームワークがとても重要だ。船に乗った経験のあるキャプテン、船体の性能に詳しい人、燃料の性能に詳しい人、そういう人達を集めて一体となって改善を求めることが必要だ」と岩井氏は言う。

異なる国籍を持つメンバーのチームワーク精神を支えるために、ONEは8つの「コアバリュー」を掲げた。「なにか言葉で共有できるものが必要だった」と岩井氏。

明文化されたコアバリューの一つ目は、慣習を打ち破るために「Lean & Agile(無駄がなく、機敏)」であること。多くの日本企業が景気後退時に失速したのは、政策を決定し行動に移す際に手間取ったからだと岩井氏は述べる。

二つ目は「Teamwork(チームワーク)」であり、これは「個々の多様性を認め、新たな価値を協創できるチームを作り上げること」である。

次に、たとえ海運大手3社の異なる企業経験を持つ従業員が異なる提案をした場合でも、ONEとして「Best Practice(最良の施策)」を選択しなければいけないというものだ。「Challenge(チャレンジ)」に向き合うことも重要だ。なぜならば、その精神がなければ市場シェアを拡大することは難しいからだ。

「Quality(品質)」と「Reliability(信頼性)」については、日本の企業文化のなかでも高い品質を追求する部分は守っていきたいという意味を込めていると岩井氏は話す。「Innovation(イノベーション)」は新しいことに挑戦する際に不可欠であり、最後の「Customer Satisfaction(顧客満足)」は、ONEは常に顧客と向き合い顧客の満足なくしては成長できないというという意味であると岩井氏は言う。

「会社としては、何よりも人がコアなので人材に投資をしていく。余計なセクショナリズムは私達にはない」と岩井氏は語った。


Naonori Kimura
Industrial Growth Platform Inc. (IGPI) Partner

“As ONE, we can.”の信念で長期的な発展を切り拓く

ONE躍進の原動力の一つが “Operational Excellence”である。グローバル単位での「規模の経済性」が重要なコンテナビジネスの中で、事業規模では劣りながらも、高い収益力を誇り、世界中の顧客からの信頼をも獲得出来たのは、オペレーショナルな部分での差別化に成功したからに他ならない。

更に、サステナビリティ戦略に於いても、ESGに“Operational Excellence”を加えた4本柱をフレームワークに、気候変動対策をはじめとする持続可能な世界の実現に向けた取組みと企業として持続的な成長の両立を志向している。

そして“Operational Excellence”の実現を支えてきたのが、世界中のONEの従業員であった。ONEは日本の伝統的な海運3社を出自とするが、「寄せ集めで出来た合弁会社」とは気概が全く異なる。

設立当初から、真のグローバル企業として「強烈な個性をもった新しい会社」になるという強い覚悟のもと、グローバルプレイヤーとしてのスピード感や出自の違いを超えたベストプラクティスの追求などをコアバリューに定め、異なる文化を束ねる上での羅針盤とするともに、日々の意思決定や評価基準に埋め込み、共通の価値基準として経営を推進してきた。強力なスローガン(“As ONE, we can.”)も加わることで、社員への浸透・共感を生み出し、まさに一丸(ONE)となって“Operational Excellence”な企業文化を創り出してきた。

岩井氏は先の数十年先を見据え、改めて根幹は人と企業文化にあると語る。設立から5年間の成功に甘んじることなく、この先も世界の発展と共に企業として成長し続けることも「ONEなら出来る」であろう。

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