September 13, 2024
【BIPROGY】「デジタルコモンズ」による社会課題解決
社名を変更し、ブランドを一から構築するのは容易なことではない。しかし、BIPROGYは2022年に社名「日本ユニシス」を変更する決定をした。
社名変更を決定した主な理由は、事業内容が創立当初と比べ大幅に変化したということがある。日本ユニシスが創立した1958年、その主な事業は米国ユニシス製のメインフレーム(大型汎用コンピューター)を日本総代理店として販売することだった。それは当時の日本に初めて導入された商用コンピューターだった。
しかし2006年、米国ユニシスは日本ユニシスの保有株すべてを売却し、日本ユニシスは半永久的な商標使用権を購入して国内でコンピューターの販売を続けた。同時に、独自のシステムネットワークサービスも手掛けるようになった。ちょうど世界でメインフレームが衰退し始めていた頃だった。
「(社名変更には)コロナ禍も大きなきっかけになりました」。齊藤昇社長は経営共創基盤の木村尚敬パートナーとのインタビューの中でこう述べた。
新型コロナウイルス感染症の拡大は世界を変えたと齊藤氏は言う。かつて企業は、資本主義の中で最大の利益を計上し、株主に還元することを優先していた。しかし企業は次世代のための社会貢献をより重視するようになった。「我々がそのように変わっていくということを、経営の強い意志として世の中に出していかないといけない。社員にもそれを分かってもらおうということで、社名を変える判断をしたわけです」。同時にパーパスやビジョンを制定し、その想いを込めた。
現在の社名であるBIPROGYは、光が屈折する際の七色を意味する単語の頭文字でできている。それはブルー (B)、インディゴ (I)、パープル (P)、レッド (R)、オレンジ (O)、グリーン (G)、イエロー (Y)である。この名称により、ダイバーシティを表すとともに、輝く未来に向けて個々人の中に存在する光る資質を結集させようという意志を示したと齊藤氏は語る。しかし、社名やロゴを変更することは容易ではない。実際に、社名変更によりブランド力が棄損されるのではないかという反発の声もあった。
しかし、もうその頃までにBIPROGYは独自の実力を示し始めていた。2007年には、ウィンドウズ上にオープン系の金融システムを構築し、百五銀行に供給していた。銀行で利用されるオープン勘定系システムの構築は、データベース、セキュリティ、オンラインネットワーク等様々なサードパーティのシステムが必要なために極めて困難な作業だと考えられていた。「我々は実際20年近くやってきているので、オープン環境でのシステム構築が非常に得意なのです。つまり一番お客様に最適なものを集めて評価をし提供することです」。
社名とロゴの変更と共に、BIPROGYはビジョンとパーパスを制定した。「灯台のようなものが必要だった」と齊藤氏は話す。オープン環境のシステムを探し、顧客の需要に沿ったシステムを構築することに強みを持つBIPROGYは、社内の人材を最大限に活かすために方向性を示すビジョンやパーパスが必要だった。
そのような背景から「ビジョン2030」を制定した。それは、「わたしたちは、デジタルコモンズを誰もが幸せに暮らせる社会づくりを推進するしくみに育てていきます」という内容だ。同じくパーパスも制定した。「先見性と洞察力でテクノロジーの持つ可能性を引き出し、持続可能な社会を創出します」というものだ。
「デジタルコモンズ」というキーワードは、企業、組織、個人の協同を支え、課題解決や経済価値を高めるためにデジタルシステムを通じてアセットを共有するオープンプラットフォームを意味する。これらの制定は、一年をかけて社内でのヒアリングを進め草案を作成した。「世界観をみんなで共有できるように言語化をしながら進めた取り組みでした」と執行役員の澤上多恵子氏もインタビューで述べた。
「社会課題を解決する時に、一社だけが勝つ、あるいは一社の営利のためだけにやるのではなく、様々な企業が自分たちのアセットを持ち合いながら、特に休眠したアセットも使ってそれを解決するというのが、もともとのコンセプトです」と齊藤氏は話す。
例えば、デジタルの力を使って社会課題を解決する試みの一つが、廃棄物をなくすことだ。BIPROGYは2020年、AI需要予測をもとにした発注自動化サービス「AI-Order Foresight」を開始した。ライフコーポレーション等の小売店舗に導入し、自動化により発注業務を軽減しつつ発注数を予測することでフードロスの削減につなげた。
一方で、イノベーションを推進するためにBIPROGYは若い世代の社員の新しい挑戦を後押ししている。スタートアップと協力するオープンイノベーションも重視する。月に一度開かれる朝の会議では、スタートアップがピッチをしたり、社内ベンチャーがアイディアをプレゼンテーションしたり、あるいは進行中のプロジェクトにおける課題を社員が共有したりする。以前、朝8時に開催してドーナツやコーヒーを振舞っていた時は、社員がなかなか集まらなかった。しかし、コロナ禍でオンライン開催を始めると参加者が増え、多い時には800名ほどが参加する。「このようにして、徐々に文化を作っていきました」と齊藤氏は言う。
「社員個人が自身の成長を実感する場として、BIPROGYが舞台を整えることがとても重要だと思っています」と齊藤氏は話し、その際に人的資本が一番のアセットだと語った。さらに澤上氏は、同様に重要なのは肩書や所属する部署ではなく、どのような役割を担っているかだと話した。「組織の中での肩書よりは、役割や仕事の中身で自分たちの将来のキャリアも考えていけるようになればと思います」と澤上氏は言った。
見えない企業価値を重要視する齊藤氏は、企業価値をさらに向上させていく決意があると言う。「社会課題を解決するためには、価値がある企業でないと周りの企業も集まらないし周りの人も集まらないと思っています」と齊藤氏は語った。
Naonori Kimura
Industrial Growth Platform Inc. (IGPI) Partner
BIPROGYへの社名変更、Vision2030の策定という、企業としての重大な意思決定を通じて、会社の存在意義を再定義し、その想いを社内外に向けて力強く発信されている姿が印象的であった。
BIPROGYが掲げたデジタルコモンズという世界観は「様々な英知を結集して、社会的な課題が解決されていく」という壮大なものだが、決して単なる理想論として掲げられた訳ではないと考える。BIPROGYには伝統的に「オープン環境での顧客ベストの提供」を強みとし、より広い視点で成功を定義し評価する文化が備わっており、社会全体への価値創出を重視することも、その中で自社単独ではなくステークホルダーとの連携を前提とすることも、企業のDNAとしてしっかりと根付いている。
デジタルコモンズの世界では、課題を発掘し、そこを起点に多様なプレイヤーを巻き込んでいく自律的な働き方が不可欠であるため、人材育成が極めて重要となる。ROLESという人事戦略の核となる概念に基づき、一連の会社変革を通じて社員の意識・モチベーションの向上も同時に実現している意義は大きい。
デジタルの領域は構造的に「勝者総取り」になりやすいが、その中でどの様にコモンズを形成し企業としての発展と両立させていくか。BIPROGYならでの挑戦にエールを送りたい。