August 13, 2024

【SWCC】変化し挑戦し続けることがあたりまえの会社を目指す

Hiroko Nakata Contributing writer

SWCC CEO Takayo Hasegawa is the first female CEO in Japan’s wire and cable industry. | Hiromichi Matono

それは2023年に社名がSWCCに変更される一年前のことだった。経営戦略担当の社員がパーパスの必要性を進言しに来たのだ。旧社名「昭和電線」が「SWCC」になることで会社の方向性が社員に見えにくくなるという危機意識からだった。

「会社がどの方向に行けばいいのかわからなくなってしまう。パーパスを作りたいんですって言われたんです」と長谷川隆代社長は経営共創基盤の木村尚敬パートナーとのインタビューの中で述べた。その意見が承認されると、担当者は本社や子会社の30代・40代の社員を集めて話し合いを続けた。6か月ほど経った頃、会社のあるべき姿を描いたパーパスの案を完成させた。

長谷川氏を驚かせたのは、パーパスの内容が日頃から自身が社員に話してきた内容だったことだ。「時代は、変化でできている。私たちが、変化をしないわけにはいかない。」で始まるパーパスは、「いま、あたらしいことを。いつか、あたりまえになることへ。」で結んでいる。

「ちょうど自分が社長になってずっと言い続けてきたことが入っていて、私自身の思いも入ったパーパスになってよかったと思いました」と長谷川氏は話す。長谷川氏は古い体質が残る電線業界で初めての女性社長だ。彼女の想いが社員たちに浸透していたのだ。

今まで長谷川氏は、電線事業に固執する必要はない、やれることを何でもやろう、と社員に繰り返し伝えてきた。今までの事業を続けることは容易かもしれない。年月とともに劣化した電線を交換する需要が定期的にあるからだ。しかし、従来の事業に固執することは将来の可能性を狭めることになりかねない。

“About five years have passed since I started the reform, and the company has transformed itself significantly — the way the workers think, their motivation and their energy to take on new challenges,” Hasegawa said. | Hiromichi Matono

「これからどういう会社になっていくかということも含めて皆で考え、次に行くんだというイメージを強く持ってもらいたい」と長谷川は言う。

SWCCは1936年に現在の東芝(当時の東京電気株式会社)から分離し、昭和電線電纜株式会社として設立した。それ以降、総合電線企業として事業を継続してきた。

しかし2010年代になると財務体質の弱さが表面化するようになり、古い体質からの変革が必要になった。この兆候を察した社外取締役は、当時の取締役であり工学博士の肩書を持つ長谷川氏を次期社長に推し、2018年に長谷川氏はそれを承諾した。

長谷川氏が初めに手掛けたのは、2000年以降の財務データを集めて分析することだった。そこで長谷川氏は事業収益の悪さに気づいた。この間、最終損益は何度か赤字に転落し、そうでない年も利益率は非常に低かった。

この財務体質の弱さの原因は、一部の事業のROIC(投下資本利益率)の低さだった。2019年に事業の収益性の指標としてROICを導入。それに基づき社内の構造改革や不採算事業の売却・撤退を進めた。年功序列型の人事も見直した。さらに、会社をセグメント制に組織変更し、エネルギー・インフラ事業、通信・産業用デバイス事業、電装・コンポーネンツ事業を3つの主要な事業セグメントに定めた。

Hiromichi Matono

結果、その後4年間のROICは平均で7.1%になり、91.5億円の最終損失を計上した2016年3月期のROIC 0.7%から格段に改善することになった。企業の収益性を示すROE(自己資本利益率)も同じ年度の-29.5%から、改革本格化後4年間の平均14.7%に改善した。直近の2024年3月期決算では、過去最高の経常利益122億円を計上した。

「改革を始めてから約5年が過ぎ、社員の考え方、活気、新しいことをやろうとする雰囲気など、会社はすごく変わっています」と長谷川氏は語る。当然、88年続いた企業文化に慣れ、改革に抵抗する社員も一定数いる。「時間はかかりますが、少しずつ変わってきてくれると思います」

SWCCは現在、技術や顧客企業との長年の信頼関係に基づいたソリューション提案型メーカーを目指している。製品を売るだけではなく、そこから一歩進んで顧客の課題を解決するような製品とサービスを生み出すことが目的だ。

また長谷川氏は、社員に「110%」の目標を設定するように伝えている。つまり達成しやすい目標ではなく、現在よりも少し大きめの努力が必要な目標だ。「110%ほどのところに目標を置くと、常にそれを達成しようとして努力が継続するんです。その目標に少しずつ近づいていけば自信にもなるし、それが実績にもなる。自分たちでやればできると思うようになるんです」と長谷川氏。

企業が目指す経営と人材育成には強い関連性があると長谷川氏は言う。「やはりどういう経営をしたいかということと、どういう風に人材を育てる・変えるかというのは強い結びつきがあると思っています」。その考えに基づき、次世代経営層、その下の管理職層、そして若手社員に向けた研修・育成プログラムを実施している。経営戦略の研修を受け、会社を変えていくというマインドを持った人材を育成することが重要だと述べた。

「やはり次世代を担える使命感と能力を持った人間を揃えておかないと、会社は同じでも事業や幹部は変わっていくわけですから。それが持続的に強い会社を作るということなのではないかと思います」と長谷川氏は話した。


Naonori Kimura
Industrial Growth Platform Inc. (IGPI) Partner

「挑戦」をキーワードに変わり続ける

‐止まることは衰退だ‐挑戦する文化を創ることの重要性を長谷川社長は力強く語る。長い歴史と安定的な事業基盤をもつ会社であるが故に、企業文化の改革は一朝一夕ではなかったと思われるが、2018年の長谷川社長就任からの地道な取り組みが業績面でも社員のマインドセットの面でも、成果が顕在化しつつある。

企業の中長期的な発展にはうわべだけの戦略論等だけでなく、企業が持つOSそのもの、すなわち企業の価値観そのものをアップデートするCX(コーポレート・トランスフォーメーション)の実践が不可欠だ。SWCCの場合、トップが先陣を切って進むべき方向性を明確に示し、若手社員から次世代経営陣に至る全社の人材育成に強くコミットすることで、戦略を現実のものとしてきた。

同時に、市場からの期待に応えつつ、社内として「頑張れば出来る」というモチベーションの源泉となる絶妙な数値目標もまた、改革の原動力となってきた点も注目に値する。

物語風に書き下され血の通った独特のパーパスが、社員の自発性から創出されたところにも、如何に改革が会社全体に浸透してきたを物語っている様に思える。

トップから社員までが一丸となってCXを実践しサステナブルな企業となったSWCCの存在は、変わることに逡巡している多くの伝統的な日本企業にとって、目指す姿であり希望となるのではないか。

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