November 10, 2021

進む日本企業のESG経営と、求められる世界への発信力

森澤充世
PRI事務局ジャパンヘッド兼CDPジャパンディレクター

Sustainable Japan Award 2021の授賞式の一部として行われたESG優秀賞&特別賞パネルセッションでは、PRI事務局ジャパンヘッド兼CDPジャパンディレクターの森澤充世氏がモデレーターを務め、優秀賞を受賞した第一生命保険株式会社の執行役員投資本部長の重本和之氏と株式会社商船三井の取締役専務執行役員、チーフエンバイロメント・サステナビリティオフィサーの田中利明氏、そして特別賞を受賞した株式会社フードロスバンクの代表の山田早輝子氏、Green Finance Network Japanの事務局長の高田英樹氏の4名が、持続可能な取り組みや行政の役割、国際的な枠組みに参加することの重要性や海外への情報発信の必要性などについて意見を交わした。

第一生命の重本氏は、「当社は事業会社・機関投資家の両面で、カーボンニュートラルを実現するための目標を掲げています。事業会社としては、生命保険事業によるGHG排出量を2025年には50%に、2040年にはカーボンニュートラルを達成することを目標としています。機関投資家としては、運用ポートフォリオのGHG排出量を2025年までに25%削減、2050年にはカーボンニュートラルを実現したいと考えています」と語った。

職場における多様性の確保に関しても、2030年までに女性役員比率30%を目指し、2024年4月までに女性のライン部長・ラインマネジャー級比率30%の達成を目標に掲げる。機関投資家としては、社会課題の解決に資する資産への積極的な投融資を通じて、社会へのポジティブ・インパクトの創出に取り組んでいる。例えば、気候変動対策としては、再生可能エネルギー事業・グリーンボンドなどにこれまでに3,900億円を投資していると明かした。

商船三井の田中氏は、昨年モーリシャス沖で発生したWAKASHIO号の座礁事故がきっかけとなり、SDGsに正面から向き合う社内体制づくりにつながったと語った。商船三井がチャーターしたこの船を実際に所有・運航していたのは別の会社であり、本来、商船三井には法的責任がない状況でありながら、誤解も含めた報じられ方を正すと同時に、影響を受けた地域への多様な支援を行ったのは、社会的な反響と責任を考えたからだという。

また、「荷物あたりの量からすると(他の輸送手段に比べれば)非常に少ないとはいうものの事業規模が大きいため毎年1,500万トンのCO2を排出しています」と話し、気候変動への対策を含む環境保護の取り組みが行なわれていることにも触れた。

田中利明
株式会社商船三井 取締役 専務執行役員 チーフエンバイロメント・サステナビリティオフィサー

「日本の食品ロスは年間600万トン。これは世界で飢餓に苦しむ人々への支援の約1.5倍です」と語ったフードロスバンクの山田氏は、食品ロスを利用した商品開発や企業に合わせたサステナビリティプロジェクトの提案などを手がける。「Ugly Love」はフードロスバンクが動かしているプロジェクトのひとつで、形が不揃いであるというだけで規格外品とされ、廃棄されてしまう野菜や果物の活用を推進している。アルマーニが経営するレストランと規格外品のメニューを考案したり、パレスホテルと協力し規格外品を使用したケークサレを作るなど企業とのコラボレーションの実績も多い。

より環境に良い、持続可能な金融活動や投資活動を指すグリーンファイナンスが世界で広まり始めてから数年が経つ。Green Finance Network Japanの高田氏は財務省の官僚でもあり、出向先のOECDではグリーンファイナンスと投資の分野の職務に従事。2018年に出向先のフランスから帰国した際に、日本でも省庁や企業が良い活動をし始めているにも関わらず、横のつながりが少なく、情報共有が十分にされていないことに気づき、様々な業界、立場の人が個人の資格で参加できるGFNJを設立した。参加者は330人を超え、海外と日本のプレイヤーを引きあわせるための窓口としての機能も果たす。

ビジネスの分野でのサステナビリティの取り組みを加速させるには、様々なステークホルダーを巻き込むことが必要だ。フードロスバンクの山田氏は、規格外品の使用をすることでブランドに傷がつくと言われた経験もあるが、そこであえてブルガリやアルマーニなどのトップブランドにアプローチしたという。

「ブランド管理に厳格なトップブランドが規格外の野菜や果物も品質は良いと言ってくれれば早いと思ったのです」と山田氏。世界の上位10%の富裕層が世界の炭素排出量の約半分を占めることを指摘し、この層を巻き込むことの重要性を説いた。

ビジネスに関わるステークホルダーのひとつにはもちろん行政も含まれる。モデレーターの森澤氏は、CO2排出量削減目標など政府が明確な方針を打ち出すことで、金融をはじめ各セクターにおける変化を加速させることができるということに触れ、高田氏も、従来は環境省や経産省の一部で扱われていたグリーンファイナンスが、金融庁全体、財務省、日本銀行なども推進するものに成長してきていることを指摘した。商船三井はこのような変化を歓迎し、船舶のような大きなものを動かすためのエネルギーをグリーンなものに変えていくにはまだまだ技術の開発も必要で、これは一企業だけでは実現できないと述べた。

山田早輝子
株式会社フードロスバンク 代表

大きさや距離のスケールを考えると原子力でも使わない限り難しいとされていた業界で、水素やアンモニアなどを活用する技術をどう生かすかについてはまだ議論の段階であるとし、このトランジションを支えるための行政や金融の協力は不可欠であるとした。「高田氏はこれに対し、「トランジションファイナンスも、日本が世界をリードしうる分野です」と述べた。

国際的な枠組みへの参加もまた、変化を推進していく上で大きな原動力になる。2030年までに46%削減という日本の目標は、外航海運は対象外であるため、商船三井では外航海運を扱う国際機関であるIMOの基準を遵守しつつ、自社では2050年までにネットゼロを目標に掲げているという。

第一生命は、ネットゼロ・アセットオーナー・アライアンスという国際的イニシアチブに加盟。「アライアンスに加盟することにより、GHG削減目標にコミットするという責任が生じます。当社は中間目標として2025年までの25%削減(2020年対比)にコミットしています。これはかなりの削減量ですが、どうすれば達成できるかを考えています」と重本氏はいう。

高田英樹
Green Finance Network Japan 事務局長

また、サステナブルな投資の基準を一から自社で検討するよりも、すでに検討中の組織に参加して知見を得る方がはるかに効率的であるという見解を示した。第一生命は同じ理由で、多様性の推進についても30% Clubという女性の管理職比率の引き上げに取り組む世界規模のキャンペーンに参加している。

こういった日本における様々な取り組みを世界に発信していくことの重要性について受賞者らには共通の認識があり、フードロスバンクでは、世界の若者が中心となって世界の食物システムをよりサステナブルに転換させよう取り組みであるWorld Food Forumを通じて日本発のビデオ講座シリーズを発表するなどの取り組みを行っている。

「日本にはもともとSDGs以前にもったいない精神がありますよね」と山田氏は指摘し、努力をしていても、そのことが大きな舞台で発表されなければ何もしていないのと同じ扱いになってしまうため、海外への発信を強めていく必要があると語った。

第一生命は世界の290を超える金融機関が世界経済の脱炭素を目指すグラスゴー・ファイナンシャル・アライアンス・フォー・ネットゼロ(GFANZ)にも加盟しているが、代表取締役社長の稲垣精二氏は、世界各国から選ばれたGFANZの18人のプリンシパルとして名を連ねている。

重本和之
第一生命保険株式会社 執行役員投資本部長

重本氏は、「もちろんすべての議論が英語で行われるが、日本の立場を英語で発信できる社長であるからこそ可能になりました」と語り、日本のアセットオーナーとして国際的なルール作りに関わっていく意欲を示した。

森澤氏は、「日本での取り組みについてもっと世界に発信していくべきで、ジャパンタイムズがまさにその部分を担うことを期待しています」とこのセッションを締めくくった。

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