August 05, 2024
【日本生命】重要性が高まる排出企業とのエンゲージメント
気候変動問題を解決するために、温室効果ガスを多く排出する企業とのエンゲージメント(対話)を通して変革を求めることは、それらの企業から資金を撤退する動きもある中で、ますます重要な投資家の役割になりつつある―。
「社会全体が削減の方向に向かっていることを後押ししていくことが、私達アセットオーナーにとっても大事だと考えています。」日本生命保険の鹿島紳一郎チーフサステナビリティオフィサー(CSuO)はインタビューの中でこのように述べた。日本生命において、資金使途がSDGs (持続可能な開発目標)のテーマにつながるテーマ投融資の累積投資額は合計2.6兆円に上る。
近年、化石燃料企業からのダイベストメント(投資撤退)を発表する欧米の機関投資家が増えている。化石燃料企業から株式や債券の投資資金を引き揚げることは、投資家のポートフォリオをクリーンに見せるかもしれない。しかし、特に電力の約7割を石炭など火力発電に依存する日本では、この手法だけでは問題の解決には至らないと鹿島氏は話す。
「そうなると、やはり化石燃料への依存からのトランジション(移行)が必要で、そのためには大量の排出をいかに削減できるかが重要になってくる」と述べ、温室効果ガスを排出する投資先企業との対話を通して、環境負荷の少ない製造過程を促していくことが、機関投資家の役割として大事だと指摘した。
排出削減のために、日本生命は投資先企業との対話に力を入れている。投資先の中でも排出量の多い約70社を特定し、排出量の開示と2050年までに排出をゼロにするロードマップを求め、削減のための中間目標に対する進捗状況管理を行っている。
環境省によると、国内産業による温室効果ガス排出の約6割は鉄鋼業、化学工業、機械製造業が占めている。
日本生命の考えは昨年公表したESG投融資ガイドラインにも反映されている。日本生命は一定の基準に反する企業を投資対象から外す手法であるネガティブスクリーニングの新しい方針の中で、温室効果ガスの排出削減の対策が講じられていない石油・ガスの新規プロジェクトを投融資対象から除外するとした。
日本生命のこの新しい方針は、脱炭素に向けた国際的な機関投資家の枠組み「ネットゼロ・アセットオーナー・アライアンス」(NZAOA)の方針に基づいたものである。保険会社や年金基金を含むアセットオーナーの国際的な提携であるNZAOAは、2050年までに投資先から温室効果ガスの排出をなくすことを目指している。NZAOAは、最大で1.5度の気温上昇を抑制するための排出削減の道筋を示すことを、石油・ガス供給企業に求めている。鹿島氏は昨年、NZAOAの代表者グループのメンバーに選出されている。
世界中で記録的猛暑、干ばつ、山火事、豪雨、破壊的な洪水といった、地球温暖化の兆候が表れている現状で、化石燃料を段階的に削減していくことは喫緊の課題である。
4月30日に開催された主要7カ国(G7)の気候・エネルギー・環境相会合では、石炭火力発電所を2035年に向けて段階的に廃止していく方針が、代替目標と共に合意された。
ESG関連の情報開示に関しては、日本企業は積極的だ。しかし投資家に対して企業価値を今後どのように高めていくかについて説明することは、今後の課題かもしれないと鹿島氏は話す。「何を生んで社会的にどのように影響を及ぼすかという、全体としてのストーリーを開示することは、これからかもしれません」
トランジションに関する日本生命のもう一つの取り組みは、政府が初めて発行することを決めたGX(グリーン・トランスフォーメーション)経済移行債への投資だ。日本政府は今後10年間で約20兆円を発行する予定であり、その資金使途となるのは、再生可能エネルギー、蓄電池、次世代原子炉、水素製鉄、二酸化炭素回収・貯留(CCS)などの分野における技術開発と支援だ。
日本生命は、「人」「地域社会」「地球環境」の3領域を軸に、社会課題の解決に向けてサステナビリティ経営の推進に取り組んでいる。
「人」の分野では、生命保険事業の本質である安心と安全の提供を目指している。「地域社会」については、全国の営業拠点を通じて幅広い地域社会への貢献に取り組んでいる。「地球環境」については、営業活動の際に大量に使用するプラスチック・ファイルや紙の書類を削減することを進めている。プラスチックは、海洋プラスチック問題が海洋における生物多様性に深刻な影響を与えており、紙の削減は森林保護につながるためである。
日本生命は昨年、サステナビリティに関する活動を推進する新しい組織を設置し、今年はそれを部署に昇格させた。「(新組織を立ち上げた)理由は、一つは社内の一体感を醸成すること。もう一つは、それぞれの取り組みについて対外的な発信力を強化することです」と鹿島氏は話した。