March 06, 2023

【日本生命】資産運用方針の根底に流れるのはESGの精神

Akiko Osawa, Nippon Life’s director and managing executive officer | COSUFI

社会をより持続的なものにするためのESG投資は、ますます注目を集めている。しかし、日本最大級の生命保険会社である日本生命保険にとって、このESG投資の考え方は新しいものではない。

「私たちの中では、ESG投資というのは突然出てきたものではなく、ずっと資産運用の基本として根付いているものだと思います」と取締役常務執行役員の大澤晶子は話す。国内最大級の民間機関投資家である日本生命は昨年、ジャパンタイムズがスポンサーを務めるサステナブル・ジャパン・アワードのESG部門で優秀賞を受賞した。

日本生命の資産運用は、長期運用が特徴として挙げられる。保険契約者から長期間にわたって受け取る保険料を運用しているからだ。「新人教育でまず教わることは、当社は長期の投資家であるということ。そして契約者からお預かりしている保険料のため、それをまず安全に、収益性や公共性にも考慮して投資するべきであるということです。」保険金の支払いが必要な時に契約者に確実に支払う。そのため資産運用に一番重要なのは、「安全性、収益性、公共性」なのだという。

「その公共性という考え方が、今日で言う『ESG投融資』につながっているのではないかと思います」と大澤は続けた。

大澤がこのように話すのは、入社直後に配属された部署での記憶があるからだ。当時新人の大澤に与えられた仕事は、日本生命が引き受けた地方債の発行体である自治体に電話をかけ、利払い日やその振込先を伝えるという仕事だった。ある村が初めて小中学校用プールを建設するために発行した債券について、大澤が村役場に電話をかけた時だった。電話を受けた担当者が、「子供たちが楽しそうにプールで泳いでいて、本当に助かっている」と感謝を伝えてくれたのだ。

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その当時1988年は、日本経済がバブル景気に沸いた時代だった。株価や不動産価格の高騰、そして高金利や円高を背景に、日本の生命保険会社は巨額の資金で国際金融市場に大きな影響を与えていた。海外投資家に「ザ・セイホ」と呼ばれ市場を席捲していた時代だ。

大澤が村役場に電話をかけていた隣のディーリング・ルームでは、巨額の資金が動き国債の売買が行われていた。そんな時代に、過疎地域にある小学校のプール建設のための債券が役立っていたことはあまり知られていないかもしれない。

「私達は株式会社ではなく相互会社なので、ご契約者に帰属しているという意識は非常に強いのです」と大澤は語る。「ESG投融資についても、私にとって全く違和感がなく、これまでやってきたことの『公共性』の部分が『ESG』と呼ばれるようになりましたが、ずっと昔から持っている考え方だと理解しています」

当時と違いがあるとすれば、ポートフォリオを構築する過程かもしれない。日本生命は、株式、債券、融資のすべての運用において、より持続する社会の形成に貢献ができるようにESG投融資のための対話を取り入れている。

その投融資を推進しているのは、エンゲージメントと呼ばれる対話活動を担う専門チームだ。12名の専任者と13人のアナリストで構成され、毎年約700社と対話を繰り返す。

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その中でも最重要課題と位置づけられているのが、気候変動の課題だ。2020年に日本政府は、温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロにすることを表明した。実は日本の二酸化炭素(CO2)排出量は、電力、化学、自動車といった日本経済をけん引してきた一部の産業からの排出が大半だ。大澤によると、日本生命のポートフォリオを構成する約1,400社のうち、約70社の排出量が全体の排出量の8割を占めているという。

エンゲージメントという証券発行体や融資先との対話を通じて企業の課題解決を支援する活動の中で、CO2排出が将来に及ぼすリスクと今後のビジネスの機会について問題意識をもってもらうことから始める。すでに2050年に向けた削減目標やそのロードマップの提示を要請している。

その際、企業によっては排出削減のために1兆円を超える新たな設備投資が必要な場合もある。日本生命は企業の債券や株式の購入や融資をすることで、投資家として対話を続けている。

日本生命は、温暖化ガス削減のための国際的な枠組みにも参加している。昨年5月、大澤はネットゼロ・アセットオーナー・アライアンス(NZAOA)の代表者グループの一員に就任した。NZAOAは、2050年までに資産運用ポートフォリオの温室効果ガス排出ゼロを掲げる機関投資家の国際的な枠組みである。

国際的な投資の世界では、今後は気候変動だけではなく生物多様性や人権についても重視されていくと大澤は話す。日本企業に必要なのは、少子高齢化社会の中でいかに十分な人的資本を獲得しながら成長を続けるかであると言う。

「国際的な企業はサプライチェーンも含めて幅広いので、簡単に人的資本といっても、とても奥行が広いテーマになると思います。企業によって何が一番大切なアセット(資産)なのかというところを見極めていかなければならないと思います」と大澤は言う。

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