June 02, 2023
【ライオン】口腔ケアを普及させ、社会貢献と企業価値向上の両立を目指す
公共の利益のために活動しながら企業価値を最大化することは、多くの企業にとって容易なことではない。しかし、ライオンが押し進めてきたことは、この二つの目標を達成させる良い例になるかもしれない。
1891年の創業以来、歯磨きや洗剤などの日用品を製造・販売してきたライオンは、口腔ケアの大切さを発信してきた。口腔衛生は全身の健康に影響を与え、歯を守ることは生活の質にも係わるからだ。日本において過去50年間で、一日に2回歯を磨く人の割合は、人口全体の20%から80%にまで増加した。さらに同じ期間に、10歳から14歳の人口の虫歯保有率は80%から20%に低下しており、この50年間で歯磨き剤の市場規模は4倍に拡大した。
「生活習慣を通じて人々の健康づくりや快適、清潔・衛生に貢献することと、それを通じて事業を拡大することは、ほぼ完全に一致していると私達は考えています。ここにトレードオフが発生しているとは全く思いません。どちらをとるかではないのです。」同社の掬川正純代表取締役会長・CEOはジャパンタイムズのインタビューでこう話した。ライオンは昨年8月、ジャパンタイムズによるサステナブル・ジャパン・アワードのESG部門優秀賞を受賞している。
ライオンは2030年までの経営ビジョンを2年前に公表し、売上高を約1.6倍の6000億円、事業利益を500億円に成長させる構想を示した。「これは、私達のパーパス(存在意義)を実践する範囲の拡大と事業成長による企業価値向上がイコールということなのだと理解しています。」と掬川氏は話す。
事業を通して社会に貢献するというライオンの思想は、創業者である小林富次郎氏の考えにルーツがある。キリスト教徒でもあった創業者は東京の神田に小林富次郎商店(現ライオン株式会社)を設立する。石鹸およびマッチの原料取次ぎ事業から始め、数年後には洗濯用石鹸や歯磨き粉を発売した。創業した19世紀末には、コレラ、赤痢、腸チフスなど人々の生命を脅かす疫病が今より蔓延していたこともあり、手洗いなどを通じて衛生状態の向上に寄与することは人々の生活になくてはならないことだった。
ライオンはその後、創業者の精神を130年以上受け継ぎ、2022年には社是にある「愛の精神の実践」をDNA(創業から受け継ぐ想い)とし、パーパスを「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する (ReDesign)」として、企業理念の中に組み込んでいる。
生活習慣を通して人々の健康向上に寄与することは、ライオンが常に目指してきたことだった。1922年以来、ライオンは歯磨き習慣づくりのプロジェクトのために小学校で実施指導を行っていて、正しい歯磨きの仕方や歯磨き習慣の大切さを教えている。現在、この活動は日本に留まらず、ライオンが事業進出している他のアジア市場でも行っている。さらに全国のこども食堂と協力し、こども食堂を訪れる子供たちにゲームやダンスなどを通して口腔衛生の大切さを伝えている。
ライオンは地球が直面している気候変動や環境問題の深刻化も認識している。特に、家庭から排出される二酸化炭素(CO2)は、ここ数年減少していないという。2019年にライオンは、長期環境目標「LION Eco Challenge 2050」を発表し、その中でプラスチックの使用量を削減した上で、循環し続けるプラスチックの利用を目指すという目標を掲げている。
また、ライオンは他社や自治体と協力して、洗剤等容器や歯ブラシのリサイクルに取り組むことを発表している。例えば、花王と連携して回収した詰め替えパックを、新たな詰め替えパックに再生して販売することを5月16日に発表した。花王とライオンは、製品の濃縮化や詰め替え用製品の開発・普及を通じて、1990年代からプラスチック使用量の削減を進めているが、詰め替えパックは複合素材でつくられているためリサイクルが難しく、長年の課題となっていた。
また、ライオンは東京都墨田区、板橋区、台東区、神戸市などと提携し、使用済み歯ブラシを回収した上で定規などのプラスチック製品にリサイクルする活動を行っている。
掬川氏は使用済みのパックをリサイクルするためにシステムを構築することは容易ではないと認識していると言う。それは、リサイクルは回収から始まり、洗浄、分別、再生など何重もの工程が必要だからだ。「ただ間違いなく言えることは、今後の私達の社会をサステナブルに維持して行く上で、システムの構築は欠かせない話だということです。プラスチックを生産し続け、そして廃棄し続けている限り、CO2排出量の削減も含めてこれは大変大きな問題であり続けるので、解決しなければいけないのです」と掬川氏は述べた。