March 07, 2024
イノベーションで持続可能な未来を築く
世界の建設現場は今までとは異なる様相を見せ始めている。遠隔操作の油圧ショベルが土を掘り、その土を自動走行するダンプカーが移動させる。センサーがデータを集め、機械の健康状態、また部品の交換が必要かを知らせてくれる。
このような技術は、コマツのグローバルな成長を支え、キャタピラーに次ぐ世界第2位の建設機械メーカーとしての地位を確立させた。
今や約4,900億円の営業利益と3.5兆円の売上高を生み出すコマツは、独自の行動指針「コマツウェイ」などに基づき大きく成長してきた。そこに書かれた信条は長年にわたり企業文化の一部として発展していたが、2006年に従業員により広く浸透させるために明文化された。コマツウェイは先人たちが築き上げてきたコマツの強さやそれを支える信念などを表現したもので、リーダーシップ、ものづくり、ブランドマネジメントの幅広いテーマを扱い、現在13ヵ国語で提供されている。
創業100周年を迎えた2021年には、コマツは企業の既存の哲学理念をより徹底して従業員に伝えることを決めた。その背景には、コマツは世界中に6万人以上の従業員を抱え、その約7割を外国人が占めるグローバル企業になったことで、多様化した社員やステークホルダーにコマツの目指す方向性をわかりやすい形で見せていく必要性が高まったことなどがある。2017年に米国ウィスコンシン州の鉱山機械メーカー、ジョイ・グローバル社を買収したことも、この流れを後押しした。
コマツはウェブサイトで企業としての存在意義を次のように記載している。「ものづくりと技術の革新で新たな価値を創り、人、社会、地球が共に栄える未来を切り拓く」。また、「私たちのアイデンティティー」という体系図を明示している。
「創業の精神やコマツウェイは以前からあったが、2021年に制定したコマツの存在意義や価値観とその他の既存の考え方と一緒にわかりやすく体系的に提示したのが私たちのアイデンティティーです」とコマツ取締役 兼 常務執行役員 人事・教育・サステナビリティ管掌の横本 美津子氏は、経営共創基盤(IGPI)木村尚敬パートナーとのインタビューの中でこう述べた。
コマツの創業は1921年に、竹内明太郎が石川県小松市にある銅山を採掘する鉱山機械の開発のために、小松鉄工所を設立したことに始まる。その起業家―のちに戦後の総理大臣となる吉田茂の兄―は、銅山が閉山されても地域の産業の発展を目指したのは、産業と人材が国を発展させることを理解していたからだった。
創業期から受け継がれてきた企業文化の中で、コマツは「品質と信頼性」を追求し、ステークホルダーとの信頼関係を築く努力を重ねてきた。この歴史を踏まえ、コマツウェイが生まれ、また、2021年にコマツが守る姿勢として「挑戦する」「やり抜く」「共に創る」「誠実に取り組む」を価値観として提示した。
コマツはこれまでも多くの危機を乗り越えてきた。戦後のコマツは、キャタピラーとの激しい競争や、2001年の初の営業赤字、2008年の米国リーマンブラザース破綻によって巻き起こった国際金融危機、そして2011年の東日本大震災を乗り越えてきた。危機のたびに課題に全員で立ち向かい、その過程で、ものづくりと技術の革新で新たな価値を創り、危機をチャンスに変える文化が生まれ、更に企業を強くしていったとコマツは言う。
「独立心を持ち、危機をチャンスに変える力によって、さらに成長する強い企業にしていこうという意思は明確だったと思います。そしてこの意思はコマツウェイによって今も育まれています」と横本氏は語る。
コマツはKomtraxというIoTデータ管理システムによって革新的なサービスを創り出した。センサーやGPSを搭載した建設機械は、衛星通信を通して遠隔地にいる建設現場の管理者に機械の位置情報や状態などを伝えることができる。このようなシステムは、他社と比べて圧倒的な価値を創出するというコマツウェイの考え方に基づいている。
中期経営計画(2022-2024年度)で掲げる成長戦略は次のような3本柱で成り立っている。それは1. イノベーションによる成長の加速、2. 稼ぐ力の最大化、3. レジリエントな企業体質の構築である。
コマツのイノベーションの核にはDXスマートコンストラクションがある。これはIoT技術を施工プロセス全体に導入し、ドローンを活用することで現場の地形を測量し、3次元データ上での分析やシミュレーションを可能にする。実際に機械を稼働した後に、再びドローンによる検査を行う。コマツはすでに自動運行のダンプカーや自動で作業機を制御するブルドーザーやショベルを導入している。また、コマツは建設・鉱山機械のラインナップを拡大していく。
2番目の柱としては、コマツは成長しているアジア地域の市場向けに都市土木用の建機の販売も続ける。
成長戦略の最後の柱は、人材育成とも関連している。経営トップ自らが、存在意義、未来像、成長戦略について話をする機会を設けている。一方で、従業員は達成目標をKPIとして共有すると横本氏は説明する。人事・教育・サステナビリティ部門は数字で成果は見えづらいが、人材は重要であり事業を通じて社会に貢献することはコマツのDNAであると言う。
コマツは事業を行う地域での社会貢献活動にも力を入れており、その一環として2008年より対人地雷除去機や建設機械を活用し、カンボジアでの地雷処理から地域復興までのコミュニティ開発を目的とした支援活動を開始した。カンボジアでは昨年4月の時点で、累計4,355ヘクタールの土地において4,272発の地雷除去を行った。除去後の安全な土地には、小学校を10校建設し、80ヘクタールの土地を米やキャッサバの農地に変え、コマツのブルドーザーを活用して48のため池を作るなどインフラ整備もおこなった。
他の社会貢献活動については、例えば自然災害の被害があった地域にコマツの建機を無償で貸与したり、北米の鉱山跡地における森林再生や中国やインドネシアで緑地拡大のための植樹を行ったりしている。
「社会貢献活動に関しては、事業を通じて社会に貢献するという長年の理念に基づいて活動しています。そして、事業で培ったノウハウや強みを生かして貢献していきたいと常に考えています」と横本氏は述べた。
Naonori Kimura
Industrial Growth Platform Inc. (IGPI) Partner
コマツウェイに根付いたサステナブル経営の本質
コマツは、創業100周年を迎えた2021年にコーポレートアイデンティティーを定め、自らの存在意義を「ものづくりと技術の革新で新たな価値を創り、人、社会、地球が共に栄える未来を切り拓く」と明文化し、同年サステナビリティ基本方針において「人と共に・社会と共に・地球と共に」自らが行うことを具体的に定めた。これらに表現されている内容の本質は、新たに創られたものではなく、長く受け継がれてきたDNAに基づいているという。
コマツウェイに企業の信念や価値観が体系化されていることは有名だが、環境変化へのレジリエンスと、社内外の多種多様なステークホルダーとの長期的な共存共栄を重視する考えが根底にある。
その精神を経営トップが深くコミットし、トップ自らが各国の現場にその精神が広く浸透するよう発信をすることで、商品開発から日々の社内会議に渡るまで徹頭徹尾実践されてきたところにコマツの強さの源泉があり、同時にサステナブル経営の本質を体現している。対人地雷除去プログラムに代表される社会貢献活動への徹底した姿勢にもそれが良く表れている。
今後はカーボンニュートラル実現向けた挑戦が待ち構える。様々な環境で使用される建設機械の脱炭素化は簡単ではないと言われるが、コマツであれば成し遂げられると期待してやまない。