October 14, 2022
【メディアドゥ】藤田恭嗣「電子書籍の流通と、起業家支援で地方創生を目指す」
電子書籍取次で国内最大手のメディアドゥは、本業では電子書籍流通を主軸としながら新規事業にも取り組み、現在の形態から企業として大きく変革させることを目指している。しかし同時に、起業家支援を通して地方経済の活性化にも注力している。それは地方創生が日本経済全体の活性化につながるとの信念があるからだ。
「ある一定の売上や利益が出た会社は、社会に還元をする必要があると思っています。会社の実績というのは、社会からの恩恵を得て生まれるものだからです」とメディアドゥ創業者であり代表取締役社長 CEOの藤田恭嗣は話す。
しかし、そうした社会貢献のための活動は単に社会への還元につながるだけではないと藤田は言う。「本業だけを行っていると気づかれない会社の側面をあらゆるステークホルダーに見ていただき、経営者や会社の風土を立体的に捉えていただくことによって、結果的に本業自体も推進力が増すと考えています」
今後の経営者にとって重要なことは、本業に注力するだけではなく、「しっかりと社会と向き合って社会に対して貢献をする会社である」ということを、いかに社会や消費者にわかってもらえるかだと話す。
メディアドゥは「著作物の健全なる創造サイクルの実現」という企業ミッションを掲げ、出版物の流通にテクノロジーの力で革新をもたらすことを目指している。電子書籍取次事業を主軸とし、新規事業においては、ブロックチェーン技術を基盤とするNFT(非代替性トークン)を活用した「NFTデジタル特典付き出版物」を出版社、トーハンと共に開発した。紙の出版物に添付されたカード上の16桁のコードをユーザーが自身のデバイスで読み込むことにより、関連する音楽、映像、電子書籍、3Dフィギュアなどのコレクション・グッズといったNFTデジタル特典を取得・保有することが可能になる。
メディアドゥは、2021年3月に出版取次大手のトーハンと資本業務提携を締結し、提携の取り組みの一つとしてこの「NFTデジタル特典付き出版物」を同年10月から発売開始した。その後、合計40タイトル(2022年10月15日時点)の漫画や小説、雑誌、写真集などを発売している。
業績については、この4年間で売上高が1,000億円と倍増した。2022年2月期は売上高が前期比25.4%増の1,047億円、営業利益が5.5%増の28 億円を計上した。トーハンとの資本業務提携による紙とデジタルの境界を越えた新形態の出版物の流通や、付加価値のあるデジタルコンテンツ市場の開拓などが貢献した。
出版市場において新たな需要を喚起することにより、市場拡大への貢献を目指すだけではなく、デジタルコンテンツの二次流通による印税の発生を可能にすることで、著者や出版社への利益の還元も考えている。さらに出版物の購入者は専用アプリを使うことでのみNFT化されたデジタルコンテンツへのアクセスが可能になるため、著作権を保護することにもなる。ブロックチェーン技術を使用したメディアドゥ開発のNFTマーケットプレイスにより、デジタルコンテンツの2次売買も可能になる。ブロックチェーンが取引の記録を残すために、個々のコンテンツの取引状況もわかる。
このような技術を利用して本業を進めることで出版文化の持続性の維持への貢献を目指す一方、メディアドゥは地方での起業家支援にも力を注ぐ。
徳島県出身の藤田は、都心への人口流出や若年労働層の不足といった地方の課題に向き合い、地方を活性化することが日本経済の起爆剤になると考えている。国内でも起業家が増加しているとはいえ、都道府県別に見ると新規のスタートアップ企業の半数以上は東京に集中している現実があるからだ。実際に藤田自身も人口1,000人の村の出身であり、故郷での新たな事業の立ち上げによる地域の活性化を自ら推進している。
2020年、藤田は地元の新聞社、放送局、銀行と協力し、徳島市内に一般社団法人徳島イノベーションベース(TIB)を立ち上げた。TIBは起業を目指す若者にコワーキングスペースを提供し、さまざまな企業のCEOを講師に招いてビジネスの現状について講演を行なったり、高校生のための起業ピッチコンテストを開催したりしている。
「地方では起業家や経営者が、都会に比べると圧倒的に少ない。しかし、起業家が増えれば雇用も増える。さらに、起業家が頑張ることによって人を巻き込んで世の中を変えていくパワーが生まれる。それを持っているのは、やはり経営者や起業家だ」と藤田は話す。
「地方にこそ起業家がたくさん排出されることが必要だし、地方には今まで入ってこなかったビジネスモデルやファイナンスやマネジメントを地方の人たちが真剣に学び、成長することによって周りを巻き込み、その推進力によって地方自体が元気になっていく。そういうことができると思っています」
TIBのような起業家支援活動はすでに全国18県に広がっているが、2023年度内には30県に広がる見通しだ。
TIBを設立したのは、藤田がEntrepreneurs’ Organization という1987年にアメリカで設立された起業家支援機関で学んだ経験が活かされている。Entrepreneurs’ Organization は、年商1億円を超える会社の起業家だけが入会できる、世界で14,500名以上の会員を擁する起業家組織だ。日本には現在8つの支部があり、国内での会員数は合計約600名にのぼる。
今後の事業について藤田は、「新しい電子書籍の楽しみ方が実現できればと考えている」と話す。例えばデジタルコンテンツ用の特別な表紙を使い、現在の電子書籍用の棚のような二次元的な並べ方とは違う立体的な陳列を可能にし、収集したくなるデジタルコンテンツの形態を考えているという。
他方、海外展開についても注力していく計画だと藤田は話す。過去2年間で米Firebrandグループと英Supadü社を買収したことで、国際事業に必要な海外出版社との関係構築が可能になったと考えている。
Firebrandグループは、長い歴史の中で書籍の書誌情報を中核とした出版情報管理や電子書籍配信事業を展開しており、米国大手出版社をはじめ北米や欧州で100社以上の顧客のネットワークを持つ。Supadüは欧米5大出版社中4社を含む250社を顧客に持つ、Eコマースサイトを構築するSaaS提供を手掛ける企業だ。メディアドゥは、これら2社から海外流通市場のノウハウや欧米諸国における知的財産権についての現状を知り、2社のネットワークを通して独自に開発した「NFTデジタル特典付き出版物」などのビジネスモデルを海外でも展開したいと考えている。