July 22, 2024

麻布台ヒルズ、東京に新たにできたグリーンなまち

Hiroko Nakata
Contributing writer

Hiroo Mori, director and executive vice president of the developer Mori Building Co. | Hiromichi Matono

緑に囲まれオフィス、レストラン、ホテルなどが備わった高層タワーの街並みは、何十年もの間、六本木、赤坂、虎ノ門など都心の景観を一変させ人々を惹きつけてきた。

森ビルが手掛けるこのような街づくりの直近の例が、麻布台ヒルズである。そこには約8万1千平米の区域に高さ約330メートルのメインタワーと2棟の住居棟、商業施設やギャラリー等がある。およそ35年の年月をかけて再開発計画を進めた結果だ。

“Green & Wellness”をテーマに掲げる麻布台ヒルズで森ビルが力を入れたのは、敷地の三分の一を占める2万4千平米の緑地だと森ビル取締役副社長執行役員の森浩生氏は話す。

緑地を増やしエネルギー消費を抑制することによりCO2排出量を削減する。このことは都心のヒートアイランド現象の緩和にもつながる。また、森ビルは地表や施設の屋上、ビルの壁面などを緑化する一方で、オフィスや住宅の利用者が消費する電力を、風力、太陽光、地熱を活用して発電する。「(都心の)再開発はきちんとやれば間違いなく都市のサステナビリティ向上に寄与する」と森氏は経営共創基盤の木村尚敬パートナーとのインタビューの中で述べた。

都市の緑化は森ビルが目指す都市づくりを達成するための3つのテーマ「安全・安心」「環境・緑」「文化・芸術」にもつながる。そして、森ビルの都市開発に根差すコンセプトは「Vertical Garden City – 立体緑園都市」というものだ。このコンセプトのもとに、森ビルは細分化された土地をまとめ、地下を活用しつつ超高層化した建物を建設し、地上には緑化区域を拡げた。

3つのテーマの一つ目である「安全・安心」については、例えば、六本木ヒルズでは都市ガスで稼働する自家発電機を設置し、通常時だけでなく地震、台風などの自然災害による停電が起きた際にもオフィスや住宅に電力を供給し続けることができる。万が一、都市ガスの供給が停止しても、灯油を利用した非常用発電機が72時間稼働すると森氏は語る。また森ビルは、震災などの災害時用に六本木ヒルズの10万食をはじめとして全体で約27万食の備蓄食料、水、毛布、医薬品等を各施設に備えている。

森ビルはテーマに「文化・芸術」も掲げている。「やはり文化や芸術の発信力を高めることが、都市の魅力向上においてとても重要になってきている」と森氏は話す。森ビルが手掛けた再開発計画で文化を象徴しているのは、例えば六本木ヒルズで現代美術などを展示する森美術館やシネマコンプレックス、アークヒルズでクラシック音楽の演奏会を開催するサントリーホールなどだ。

Hiromichi Matono

「都市開発では経済合理性が重要視されてきたが、緑が溢れる個性的な街並みや、文化的な刺激、人々との交流の機会といったものがあるから訪れたいという人も多い。それはオフィスについても言えると考えている」と森氏は話す。

森ビルのつくる街には、イノベーションの創出拠点という要素もある。例えば麻布台ヒルズには、Tokyo Venture Capital Hubを開設した。合計70のベンチャーキャピタルやCVCが集積し、オフィス、コワーキングスペース、ラウンジ、会議室などを利用しながら相互に交流を行う。また、虎ノ門ヒルズには大企業の新規事業創出に特化したインキュベーション・センターを設置。シリコンバレーのベンチャーキャピタル、WiLや新規事業支援の専門家の参画も得て、国内外の幅広いネットワークと事業創出のノウハウを活かした独自のサービスを提供している。さらに、世界的なスタートアップコミュニティのアジア拠点としてCIC Tokyoも誘致した。森ビルはこれらのハブの間の交流を促すことで独自のイノベーションのエコシステムを構築することを目指している。

再開発事業で大切なことは、事業計画が住宅やオフィスの利用者だけでなく、公共の利益にかなっていることだと森氏は話す。また、街づくりに参画する権利者にとっても公平さを保てる事業計画でなければならない。

「外部の人にとってもプラスになるようなものでなければいけない。街づくりは公共性が極めて高い事業だ」と森氏は言う。事業計画のなかでは、交通課題を改善するような道路だけではなく、歩行者通路や広場などのインフラも整備することで周辺地域の利便性を高めてきた。

森ビルの再開発の特徴のひとつが地権者との共同事業であり、これまでも多数の地権者と合意を形成するために尽力してきた。麻布台ヒルズの場合は

地権者の9割、約300人のが再開発事業に参画した。再開発計画が開始してから開業するまでにおよそ35年の年月がかかり、その間森ビルは地権者と大小合わせて多数の会議を開催したと森氏は話す。しかし、それは麻布台ヒルズだけの話ではない。1967年に最初の土地を取得したことから始まった5万6千平米のアークヒルズは、森ビルにとってだけでなく、民間でも最初の大規模再開発事業だった。そのために、住民との合意を形成し、街が完成するまでに19年もの年月がかかり、最終的には一部の住民しか新規の住宅棟に戻らなかった。また、六本木ヒルズでは、再開発誘導地区に指定されてから完成まで約17年をかけ約400人の地権者と開発、その間森ビルが地権者と開催した会議は大小合わせて2,000回にも達したと森氏は話す。

麻布台ヒルズの開業は虎ノ門ヒルズ ステーションタワーの開業と共に、森ビルの決算にも寄与した。5月21日に発表した2024年3月期の連結決算は、純利益は前期比34%増の589億円、営業利益は23%増の781億円だった。

森ビルの歴史は、創業者の森泰吉郎氏が森ビルの前身である森不動産を設立した1955年に始まった。泰吉郎氏は前会長である森稔氏の父であり、稔氏は森浩生氏の義父である。創業後の2年間に、泰吉郎氏は東京・西新橋に2棟のビルを建設し、その後新橋や虎ノ門に数々のビルを建てた。1978年にオープンしたラフォーレ原宿は、ファッション関係者やアーティストの聖地になった。その後2006年には表参道ヒルズもオープンした。

「21世紀は間違いなく都市の時代だ」と森氏は語る。「都市部に住む人が増えていくと、街をどう作るか考えることが社会課題解決のためにも必要だ」それらの課題として挙げられるのはエネルギー、脱炭素、高齢化、フードロスなどであると森氏は言う。

「これからの都市の時代において、先駆的なモデルケースを常に提案し続けていきしたい」と森氏は述べた。

“I feel it is more and more important to make towns and cities culturally rich in urban development,” said Mori. | Hiromichi Matono

Naonori Kimura
Industrial Growth Platform Inc. (IGPI) Partner

数十年先を見据えたまちづくり

森ビルの一大プロジェクトである麻布台ヒルズが昨年開業した。その端緒は1989年のまちづくり協議会発足まで遡り、実に35年の歳月を要したという。

日本初の民間による大規模再開発事業であるアークヒルズを原点に、六本木ヒルズや虎ノ門ヒルズ、そして麻布台ヒルズと幾つもの巨大再開発を成功に導いてきた。どのプロジェクトも20年30年という超長期の時間軸で、数百名の地権者との強固な信頼関係を基礎として、「まちづくり」の視点で地道に取り組まれてきた点は共通している。

変化の激しいこの時代に、数十年後のトレンドや技術動向を予測することは不可能だ。だからこそ、通底する理念・ビジョンが重要なのだと、森氏は力強く語る。森ビルの掲げる「ヴァーティカル・ガーデンシティ」という考えや、三本の柱(安心・安全、緑と環境、文化と芸術)がお題目ではなく、短期的利益との相克を超えて各プロジェクトの随所に体現されているところに、森ビルの信念が現れている。

世界的大都市・東京も、急激な高齢化や大地震のリスクに本格的に対峙する必要がある。森ビルが、まちづくりの先駆者としてベストプラクティスを生み出し続け、レジリエントな東京の実現だけでなく、「都市化とサステナビリティの両立」という世界的な課題に対しても新たなる未来を築いてくれるに違いない。

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