October 21, 2022
【Sustainable Japan Award】地域の中から生まれる、地域を持続可能にする方法
Sustainable Japan Award 2022 Satoyama部門パネルセッションでは、日本総合研究所主席研究員の藻谷浩介氏をモデレーターに、4名のSustainable Awardの受賞者が各々の活動について、また今後の目標について語った。
Sustainable Japan Award優秀賞を受賞した株式会社さかうえは、鹿児島県志布志市を拠点に、ケールや馬鈴薯、ピーマンなどの農作物を生産する農業を営みつつ、国産牧草飼料の製造販売から、黒毛和牛の放牧まで手がけ、畜産で生じる糞尿を堆肥化して農産物栽培に活用するという循環を生み出している。「飼料穀物を海外からの輸入に頼らずに、放牧地に生える草と自社生産のサイレージ(飼料牧草)とを食べて育った放牧牛は、味にも違いが出る」と代表取締役の坂上隆氏。農地や放牧地として耕作放棄地(遊休農地)も活用しており、地域課題の解決にも貢献している。
このセッションのモデレーターでもあり、Satoyama部門の審査員でもある藻谷氏は、日本の畜産物や農産物が、海外から輸入した飼料や肥料に依存して成り立っているということ、その上昨今の円安によるコスト増大で苦しんでいることに触れ、さかうえの取り組みを高く評価した。
坂上氏は、「農業には長い歴史があるが、時代を経て産業革命が起こり、効率性が重視されるようになる中で農業の形も、人々の生活の形も変わってきた。里山の形も変わってきた」と指摘した。また、「昔のやり方の良さを、最新の技術を使って今の時代に合うようにリニューアルすることに挑戦している」と語った。現在、大学等と人工衛星を使って牛の運動量などを分析する、社内にDX部門を立ち上げて業務効率改善を図るなどの取り組みが進行中だ。
「普通の農家」を24歳で継いでから、従業員数116名の現在のさかうえを作り上げてきた坂上氏の次の目標は、里山牛の輸出だ。「肉を売るだけではなく、日本人が日本人としての誇りを取り戻すことを目指す。自然の中に神聖さを見出す日本人の思想を世界に伝えたい。」
Sustainable Japan Award Satoyama部門の優秀賞を受賞した神奈川県三浦郡葉山町からは、町長の山梨崇仁氏が出席。東京都心から車で約1時間の距離にありながら、山と海に囲まれた街、葉山町では、町民や事業者と連携した数々の取り組みが行われている。長年ゴミの分別や削減に関する住民の意識向上に取り組み、今では人口約33,000人が出すゴミの約半分が資源化されている。
「1996年にスタートしたビーチクリーンの活動では、かつては1日で2トンものゴミが集まっていたが、昨年は320kgだった」と山梨氏。これは、海岸で発生するゴミだけでなく、川から流れてくるゴミも減っていることを意味しており、街全体における意識の変化が見てとれる。
2019年からはSDGs達成を目指す行動項目、「はやまクリーンプログラム」を宣言し、プラスチックごみの削減にも取り組んでいる。「公共施設ではペットボトル入りの商品は一切販売しておらず、職員によるペットボトルやレジ袋の庁舎内への持ち込みも禁止。その代わりに、街のあちこちにウォーターステーションを設置しており、マイボトルを持っていればどこかで水が汲める」と山梨氏は述べた。
街の魅力発信にも余念がない。町が発行している広報紙が全国広報コンクールは今年総務大臣賞受賞。PR会社に頼らず、町役場が自力で勝ち取った。町の公式インスタグラムアカウントは37,000人以上にフォローされている。
こうした努力の甲斐あって、ここ数年、葉山に移り住む人が増えている。もとは山梨氏自身も移住者だ。「選手として葉山沖でウィンドサーフィンをするうちに、これほど海から見た景色が素晴らしいところはない、この街を守っていきたい、と思ったことが原点」と話した。
今年6月に始動した「はやまエシカルアクション」では、町のホームページで環境や人、社会、地域に配慮した取り組みを実施している事業者や団体を紹介している。「現在まだ60数軒。1,000ほどある商店すべてを登録すること、つまりすべての商店にエシカルな活動をしてもらうということが目標だ」と山梨氏は語った。
同じくSustainable Japan Award Satoyama部門優秀賞を受賞したSatoyama Experienceを運営する株式会社美ら地球(ちゅらぼし)の山田拓氏もまた移住者だ。奈良県生駒市で生まれ育ち、外資系のコンサルティング会社2社での勤務を経験したのちに2年間の世界旅行へ。帰国後の2007年に移り住んだのが岐阜県の飛騨市古川町だった。
2010年にガイドツアー「飛騨里山サイクリング」を開始。発想の原点は、アフリカで体験した、農村部をめぐるホースバックライディングツアーだった。サイクリングツアーを通して、山に囲まれた盆地の農村風景だけでなく、そこに住む人々の暮らしの営みを、世界中から集まるゲストに伝えている。「住民は、『ここにはなんもない』と言うが、世界から見ると非常に魅力的なところ」と山田氏は語った。2019年には年間約5,000人が参加したがそのうち9割が外国人だったという。
2020年にはSATOYAMA STAYと称した2つの宿をオープン。一軒は何十年も飛騨古川の街に溶け込んできた和風スナックを改装し、もう一軒は新築ながら町並みに合わせてデザインされ、地元の材を使って地元の大工の手によって仕上げられた。この二軒の間の距離は500mほど。町並み、景観を作り守るという活動は、まずは小さなエリアに絞って磨きをかけることが効果的だと山田氏は言う。「濃度が濃いほうが変化が見えやすく、価値も集約されることでより高まる」と語った。
一方で、全国各地とつながって、里山の価値を世界中に知らしめるためのプロジェクトを立ち上げたりサポートしたりというB to B事業も行っている。「町並み景観保全などボランティアでやっているところもあるが、継続が難しいことも。我々は事業活動を通じてやるというアプローチだ」と話した。
逆にあくまでボランティアでの活動を30年以上も継続しているのが、Sustainable Japan Award Satoyama部門審査員特別賞を受賞した特定非営利活動法人宍塚の自然と歴史の会だ。学園都市や住宅地の開発で森林が失われつつあった1980年代の茨城県。勤務地に近いこのエリアに引っ越してきた理事長の森本信生氏が、宍塚には里山の環境が残されていることに気づき、それを守るための活動を地元住民と共に開始したのはバブル真っ只中の1989年。新しいものを作っては消費するばかりの時代に、里山を守る活動は周囲の理解を得るだけで一苦労だった。「まずは地元のお年寄りから、かつての里山での暮らしや生業について話を聞いてそれを書き留めていく、聞き書きから始めた。この作業を通じて互いに思いを共有することができた」と森本氏。雑木林を手入れをさせてほしいと地主を訪れたときには、いきなり竹150本を切り倒されたこともあるという。「やれるものならやってみろと言わんばかりだが、それを一生懸命片付けた。そうして少しずつ信頼を得た」と森本氏は振り返った。
環境省の「モニタリング1,000里地調査」における継続的な調査、古民家の修復や環境教育、米の共同購入や水田の管理などを通じた農家支援、環境保全、里山の良さを伝えるための各種イベントの実施など今では活動の内容は多岐にわたる。会の発足当時から毎月発行されてきた広報紙は400号近くにもおよび、地域の紹介を英語で綴ったリーフレットも用意されている。
「会の今後の課題は若い後継者の育成であり、そのために清潔なトイレや汚れた手足を洗う水の確保、汚れた服を着替えるなどの場が必要であり、基本的な環境整備が持続可能な里山保全につながるものと考える」と森本氏。そのために、約100年の歴史を持つ地域の古民家「百年亭」を改修して資金を募っている。
Sustainable Japan Excellence Award
株式会さかうえ
鹿児島県志布志市で『野菜の契約栽培事業』、『牧草飼料事業』、『放牧畜産事業』の3つの事業を軸に、既存の農業の枠にとらわれない農業ビジネスを展開しています。
Sustainable Japan Satoyama Excellence Award
Satoyama Experience
SATOYAMA EXPERIENCEは、暮らしを旅するガイドツアーとローカルにこだわった分散型ホテルを通じて、ゲストに里山のサステイナブルな暮らしを伝えています。
Sustainable Japan Satoyama Excellence Award
葉山町
東京から約1時間の距離にあり、御用邸の町として知られる葉山町は、海と山の豊かな自然に囲まれており、その美しい海岸線は「日本の渚・百選」にも選ばれています。
Sustainable Japan Satoyama Special Award
特定非営利活動法人宍塚の自然と歴史の会
茨城県土浦市にある宍塚の里山は、生物多様性と歴史的遺産に富んだ地域である。この里山において、調査、保全、農家支援、観察会、環境教育、広報などの活動を行っている。