April 26, 2024

新潟の城下町、新発田を寿司で再興する。

ライター:寺尾妙子

一夜干しにした南蛮海老(甘海老の新潟県での呼び名)の握り。エグ味が出ないよう高温を避け、60度の温風で乾かしパウダーにした殻と、頭のミソで作ったペーストの旨みを加えた傑作。
PHOTOS: TAKAO OHTA

新発田市は新潟県の中核都市である。現在の人口は9万人超。江戸時代には新発田城の城下町として賑わった街で、武家屋敷や神社仏閣など歴史的建造物が残る。明治時代から戦前にかけては軍隊が駐留する軍都、戦後は商業都市として栄え、7年ほど前までは芸者が色を添える花街を抱えてもいた。車で15分も行けば、月岡温泉もある観光地でもある。

東京から上越新幹線で新潟まで出て、そこからJRの在来線に乗り継ぎ40分弱で新発田駅に着く。駅から車で5分ほどで『登喜和鮨』に到着するが、そこに至るまでは延々と「シャッター商店街」が続く。

『登喜和鮨』3代目、小林宏輔は高校卒業後、調理師学校に通うため上京し、その後、都内での寿司修業を経て30歳のとき、父の下で店を手伝うべく実家に帰り驚嘆した。

「10年ちょっとの間に、賑わっていた街がすっかり寂れてしまって驚きました。このままではいけない。この街を俺が変えてやる!と決心したんです」

新潟(寿司)
登喜和鮨
新潟県新発田市中央町3-7-8
Tel:0254-22-3358
https://tokiwasushi.top

以来、食イベントを開催したり、政治家に陳情を行うなど地域のためにできる限りのことをやってきた。最終的には寿司職人という仕事を通じて地域を活性化しようという結論に至った。ちょうどその頃から新潟県内でローカルガストロノミーを牽引する『Restaurant UOZEN』『里山十帖』など、それぞれ「Destination Restaurants」の2021年、2022年受賞店との交流から刺激を受けたこともあり、それまで日本各地から取り寄せていた食材から見直し、出前もやめた。そして、2017年のリニューアルオープンに合わせて、2代目の父親から3代目を継承したタイミングで、新潟県産の食材にこだわったローカルガストロノミーとしての寿司を提供し始めた。夜と土日の昼は、握りとつまみを出すフルコースで¥19,800(税込)。

魚は99%が地物。祖父の代から継ぎ足しで作り続けているアナゴの煮詰め(ソース)に使うアナゴだけは宮城県女川産を使用する。米は新発田産ユタカコシヒカリ。塩、酢、醤油などの調味料もすべて新潟県産だ。その甲斐あって、フーディーの間で話題になり、「年々、おいしくなっている」と噂が出るまでに成長。さらにここ1年で大きな進化を遂げた。

寿司は魚もさることながら、土台となるシャリが重要だ。江戸前の寿司店では寿司種のクライマックスとされるマグロの中トロに焦点を当て、それにふさわしい酢と塩加減のシャリを用意しているところが多い。だが、小林はこう考える。

「コースの柱になるような新潟県産マグロがあるのは1年で3ヶ月だけですし、地魚を使うということは天候や時期によって明日、どんな魚が来るかもわからない状態。逆にもっと自由な発想でシャリを作ってもいいんじゃないかと思っています」

小林が用意するのは米酢や赤酢を用いるほか、魚の出汁や柿酢、柑橘を混ぜるなど、さまざまな種類のシャリ。1コースで3〜4種のシャリを使い分けることが多い。また、獲れすぎて市場で値がつかず、これまでは廃棄されていた未利用魚も積極的に扱う。

東日本大震災やコロナ禍を乗り越えた矢先、2024年初から能登半島地震の影響を受け、キャンセルが相次いだ。苦しいなかでも小林は挑戦を続けるしかない。今後も県内外のシェフたちとコラボレーションを行い、発信を続ける。また、今年5月末からは新潟市にも店を構え、平日はそちらで、土日は新発田市の現店舗で営業を行う。寿司そのもの、そして活動スタイルも含めて、小林は今、最先端の寿司職人と言っていいだろう。

小林宏輔

1979年新潟県新発田市生まれ。1954年に店を創業した祖父から数えて3代目。東京の調理師学校在籍中にバンド活動を行いつつ、日比谷の小料理店でアルバイトを続ける。27歳で結婚を機に中目黒『魚真』にて寿司修業スタート。2010年、実家の『登喜和鮨』で2代目の父の下で腕に磨きをかけ、2017年の店舗リニューアルと同時に3代目襲名。

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