October 22, 2021
【岡島 礼奈】宇宙を持続可能に活用し、自然災害被害を減らす試み。
日本の天気予報は手厚く親切である。天気のほかにも季節折々で、花粉飛散状況、熱中症警戒アラート、桜前線に紅葉の見ごろ、さらに洗濯物の乾き具合を示す洗濯指数まで予報してくれる。しかし人々がもっとも高い精度を求めるのは豪雨や台風の予報だ。それは生死に関わる情報だからだ。
世界的に見ると、過去40年間で自然災害の発生件数は増加傾向にあり、その筆頭が風水害など気候変動に関する災害だという。過去20年間(1997-2017)の経済的損失額から見ると日本は世界第3位の規模だ。
自然災害被害を減らすには今、何が必要なのだろうか。この課題について、好奇心を刺激されるニュースが9月下旬に届いた。民間気象衛星の宇宙実証を目指す日本初のプロジェクト「AETHER」の発足である。
「AETHER」のプロジェクトリーダーは、科学を社会につなぎ宇宙を文化圏にするをミッションに掲げる株式会社「ALE」。この若き宇宙スタートアップ企業が、NTT、理化学研究所、国立天文台との共同研究、実験契約を締結した。各々の分野から得意技術を持ち寄り地球観測用の小型センサーを独自開発、それを搭載した気象衛星で宇宙から大気データを取得し、そのデータを基に気象予報の精度向上を図り、最終的には災害多発国である日本から世界中に今の地球環境に適した気象情報の提供を目指すという。
私たちは東京港区にある「ALE」のオフィスに代表取締役社長・CEO岡島礼奈を訪ねた。折しも取材時は、台風一過との予報が外れ、強風と大雨のなかだった。日本の気象予報にはまだ発展の余地があるのだろうか?
岡島礼奈
株式会社ALE代表取締役社長 / CEO。東京大学大学院理学系研究科天文学専攻にて博士号(理学)取得。
ゴールドマン・サックス証券を経て、2009年から人工流れ星の研究を開始し、2011年にALEを設立。
2021年9月、民間気象衛星の宇宙実証を目指す日本初のプロジェクト「AETHER」を発足。
「現在の日本の気象予報は先進的だと思います。世界的に見るとトップクラスですが、その上位にはいないというのが実情でしょうか。欧米では、民間の気象衛星事業が立ち上がり、国が民間のデータを買い取り精度を上げるプログラムも始まっています。
「AETHER」プロジェクトによって、日本でもゲリラ豪雨や台風の進路・範囲の予報の精度をさらに上げることが可能だと思っています。これは人命に関わる情報なのです」。
ALEは、人工的に流れ星を発生させる宇宙エンターテイメント事業(2023年打ち上げ予定)からスタートした。ここで開発されている技術、小型人工衛星は、「AETHER」プロジェクトの基盤ともなっている。さらに、世界的な宇宙開発によって近い将来、飛行物体同士の衝突によって宇宙デブリの大量発生が懸念されている。宇宙開発も持続可能でなければならない。
ALEでは世界初の宇宙デブリ化防止装置をJAXAと開発中であり、運用が終了した人工衛星を軌道離脱させる技術研究を進めている。
「科学を社会につなぎ宇宙を文化圏にする」をミッションに掲げるALEを創設した岡島礼奈には、人々を科学の魅力に引き込む才能がある。その原動力はどこにあるのだろうか。
「昨今の学問には、役に立つものがよいという風潮があり、すぐに成果が出やすい分野に人も予算も集中する傾向があります。でも私はそうは考えていません。科学の始まりは好奇心、知りたいという欲求だと思うんです。まず物事を解明できれば、それを良い方法に応用してドラスティックに人々の生活を変えることもできる。基礎科学は役に立たないと言われがちですが、その認識を変えられないかという気持ちが私の原点にあります。サステナビリティについても、原始に戻るのではなく、問題・課題を解決できるのが科学の存在だと思っています」。
「根本的に科学が好き」と語る岡島さんの、知りたいという欲求から始まった事業が、科学の常識を打ち破りながら社会とつながり、自然と人々の役にも立ち始めようとしている。「AETHER」プロジェクトは、5年以内の宇宙実証を目指す。その成果に期待したい。