January 28, 2022

宇宙への多様な視点を育む、ソニーの宇宙エンタメ事業。

ライター:塚田有那

 「地球は青かった」と語ったのは、1961年に人類初の有人宇宙飛行に成功した旧ソ連の宇宙飛行士ユーリイ・ガガーリンだ。以来人類は「宇宙から見た地球」というイメージを獲得してきた。それから半世紀以上が経ったいま、宇宙から見た地球や星々の画像を誰でもリアルタイムで扱えるような時代が到来している。

福岡・柳川高校で実施した、宇宙衛星画像を用いた教育プログラムの様子。生徒たちは衛星シミュレーターを用いてさまざまな地球の景色を見つけていった。

ソニーが2020年に始動した宇宙エンタテインメント事業もまた、人工衛星による宇宙の映像を元に、さまざまなアートや教育、エンタテインメント事業への展開を試みるプロジェクトだ。なぜソニーが宇宙事業に着手したのか。その背景には、かつて宇宙に憧れた社員たちの熱い思いがあったと宇宙エンタテイメント推進室 室長の中西吉洋は語る。

「始まりは2017年、ソニー社内の宇宙好きの社員が集まって、これからの宇宙ビジネスを考える活動が生まれていったんです。実は私も小さい頃の夢が宇宙飛行士で、宇宙から地球を見てみたいという思いが長らくありました。同じように宇宙を夢見た社員やエンジニアは社内にも多数いて、2019年にはJAXAと東京大学との共創契約が締結され、2020年に社内組織化、実用に向けた衛星開発に乗り出しました」。

人気のYouTube音楽チャンネル「Sakura Chill Beats」に向けてつくられた映像。宇宙船から地球をのぞくシーンを描いたミュージック・ビデオの世界観から発展し、ウェブ上のメタヴァース空間(3次元の仮想空間)でユーザー同士がコミュケーションできるという実証実験を2021年10〜11月に行った。今後はメタヴァース上で、複数のユーザーがリアルタイムで衛星の映像を眺めるようなコンテンツも開発していく予定だという。

現在開発中のソニー製カメラを搭載した人工衛星は、自由度の高いカメラワークを可能とし、衛星が地上アンテナ上空を通過するなどの条件を満たせばほぼリアルタイムでの地上からの操作も可能となるという。ここで得られる衛星写真や映像を使って、現在はさまざまなアーティストや教育機関などとのコラボレーションが進められている。ソニー・ミュージックエンタテインメントと宇宙エンタテイメント推進室を兼任する井手口悦久は、「宇宙視点を持つことで 生命や地球とのつながりをより強く感じ、一人ひとりの行動変容につながるような契機をつくりたい」と語る。

「現在は現代美術作家の杉本博司さんと共に、衛星写真を用いたアート作品をつくる計画が進んでいます。杉本さんによれば『古代の人々はいまより宇宙を見つめる時間があった分、豊かな宇宙観を持っていたけれど、現代人の感覚はとても退化している』と言うんですね。これからは宇宙への多様な視点を育むことで、宇宙や地球環境に対する意識も変わってくると思います」。

現代美術作家の杉本博司とのコラボレーションでは、さまざまなゲストを招く対談シリーズを皮切りに、これまで科学を軸としていた宇宙開発において、人間の「空想」や「こころ」を軸に宇宙を捉え、これからの人類や文化、文明、社会に思いを馳せることをテーマとしたプロジェクトを構想している。

そうした思いから、先端的な教育方針で知られる福岡県の柳川高校とは、衛星操作用のシミュレーターを用いた「バーチャル宇宙旅行」を実践。衛星映像のなかで宇宙人に教えたくなる、こころに残る地球の光景を撮影し発表するというお題を出したところ、熱帯雨林の広大な伐採跡地や、宇宙にも光が届くビル群の夜景など、普段の生活では想像しにくい地球の景色が続々と寄せられたという。また京都芸術大学とは「これからの宇宙感動体験」をテーマとした学内コンペを実施。宇宙の無重力空間におけるファッションや宇宙が自分事になった際の流行語など、宇宙をより身近に感じられるアイデアが集まった。また今後はメタバース空間などを媒介に、複数のユーザーが同時に楽しめる宇宙感動体験のプラットフォームを創出していく予定だという。宇宙を身近に感じるようになった若い世代からは、今後どんな発想や視点が生まれてくるのだろうか。ソニー初の人工衛星の打ち上げは2022年秋を予定している。

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