July 20, 2020

古い価値観、慣習の見直しが求められる今日(Satoyama推進シンポジウム2020 &「進化する里山資本主義」出版記念イベント)

Japan Times Satoyama Consortium

Boston Consulting Group Senior Adviser Kosuke Motani and The Japan Research Institute Ltd. Chief Senior Economist Takashi Mitachi during an online symposium held by the Japan Times Satoyama Consortium on May 24

里山資本主義は地域社会が持続可能な未来を育むという新たな価値観の創造において、自然資源の有効活用を軸に据えた資本主義の新概念だ。

新型コロナウイルスの世界的流行を受け、里山資本主義という考え方はますます評価されつつあり、多くの人々がこれまで以上に地域に密着して生活し、働く方法を探し求めている。この変化の只中、5月24日に開催されたJapan Times Satoyama推進コンソーシアム主催の「Satoyama推進シンポジウム2020」において、ボストン コンサルティング グループのシニア・アドバイザー御立尚資(みたちたかし)氏と株式会社日本総合研究所主席研究員で2013年に出版された書籍『里山資本主義』の著者の一人でもある藻谷浩介(もたにこうすけ)氏の同コンソーシアムアドバイザー2名が都市の変わるべき姿と持続可能なライフスタイルの選択肢について対談を行った。

人口密度のリスク

シンポジウムの中で、藻谷氏は居住可能な地域で人口が過密であることは感染症のリスクを高めるとした上で、現在の状況は都市や人々がどう変わるべきかを考える機会を与えてくれるものだと指摘した。

「皆が都市を離れ地方で暮らすべきだと言っているのではありません。私が言わんとしているのは、私たちは現状を利用して都市に里山の原理を取り入れるべきだということです」と藻谷氏は話した。

このイベントは、Japan Times Satoyama推進コンソーシアムが編集し、藻谷氏が監修した新刊『進化する里山資本主義』の出版記念を兼ねたものだ。本書籍の第6章で、御立氏と藻谷氏は里山資本主義の新たな可能性について議論している。両氏はオンラインシンポジウムで、本章が執筆された時点では発生していなかった新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的流行)という現状を踏まえ、自分たちの考えをさらに展開した。

里山は並行するもの

御立氏はオンラインシンポジウムの出席者に、パンデミックに直面した人々が何を考え、何を変えるのかという議論は、里山資本主義をどのように考え、実践していくのかという議論と並行していると語った。

御立氏が自身の見方を紹介していく中で、新型コロナウイルスによる人口100万人あたりの死者数統計で上位を占める国の多くが英国、イタリア、スウェーデン、フランスや米国といった欧米諸国であることから、目下の危機を「欧米クライシス、メガシティ(大都市)クライシスそしてサービス業クライシス」と言い表した。また、スラム街を抱える大都市があるブラジルなどの国々でも死者数の劇的増加がみられる。

御立氏はEU域内の多数の国がこれほどまでに酷い影響を受けた理由の一端は、これらの国々が高齢者介護を含め、様々な分野で外国人労働者に大きく依存しており、国境を跨ぐ人の出入りが多いせいだと指摘した。

「(高齢者養護施設では)ルーマニア、ウクライナやポーランドなどの国々からやって来る大勢の出稼ぎ労働者が3ヵ月交代で勤務しています。しかし、新型コロナウイルスのパンデミックのため、これらの国々から来ていた労働者の多くは帰国してしまったままです。これが一因となり、介護人不足に陥り感染した高齢者が死亡するケースが起きたのです」と御立氏は話した。外部の人的資源に頼る比重がかなり大きい構造の、この様な社会システムは多数あるが、それが(新型コロナウイルスの死者数が多い)EU加盟国が今回のパンデミック対応で苦戦している主な要因の一つになっていると御立氏は述べた。

一方、藻谷氏は、日本がこの問題を他人事と捉えるべきでなく、また危機対応に受け身でいるべきではないと話した。

「私たちはここから何が起きるのかではなく、何をすべきかについて考えなければなりません。日本人は自然災害を受け入れることに長けています。これは良い事ですが、危機を受け入れ過ぎ去るのを待つだけでは不十分なのです」と藻谷氏は主張した。

藻谷氏と御立氏は共に、人口が過密である都市に住むことで人間は感染症にかかりやすくなると述べ、スペース(空間)を作り緑と暮らすことの重要性を説いた。

御立氏はさらに、基礎自治体は「開疎化(「開放」×「疎」)」という新概念を取り入れてスペースを作り出す方法をもっと考えるべきだと提案した。閉鎖的な農村地域で起きている人口減少とは異なり、開疎化というこの新しい概念では、住民数に関わらず地域コミュニティ内外のつながりの維持を重視している。

都市の緑地

「封建制度が消滅し大政奉還が成立した江戸時代(1603~1868)末期、大名とその臣下が1年おきに江戸に住むことを義務づけた参勤交代が廃止され、東京の人口は30%減少しました。この変革によって引き起こされた収入減少を補うため、桑やその他の作物を栽培する畑が作られました」と御立氏は語った。

御立氏は人口集中が起こった、世界の他の地域でも同様の現象が起きたと説明した。

「英国では崩壊したインナーシティ(都市の中心に近い地域)を復興するために農場や庭園が作られました」と御立氏は話した。そして、「東京は人口50万から100万人規模の区域に分割し、区域間につながりを持たせるのがいい。区域ごとに自然、文化施設、保育施設から仕事まで、生活に必要なものすべてを整備するんです」と続けた。

藻谷氏は緑地や畑の造成などに有効活用できる空き家がたくさんあると話した。両氏はこの種のプロジェクトはトップダウン方式で達成されやすい生産性・効率に重点を置いた工業モデルとは対照的で、草の根レベルで取り組んだ方が上手くいくと述べた。

「企業は事業戦略を一新する手段について考えると共に、生産性とアウトプットの拡大、イノベーションを通じ品質を向上させより高く売る、クリエイティビティとリモート化という点において新しい方法を見つけなくてはなりません」と御立氏は話した上で、単に従来のやり方でビジネス活動の再開を試みるべきではないと警告を発した。

地方で暮らし働くことを選びライフスタイルを変えた人たちに話が及ぶと、御立氏は豊かな文化を持つ地域は人々を惹きつけるとし、「都市は消費しますが、地方は生産します。これは文化にも当てはまります」と付け加えた。

「地方の人は『ここには文化がない』と言いますが、自分たちを卑下しているだけです。(地方には)日常的に体験・鑑賞できる類の文化が人々のすぐ側にあります。この方がたまに美術館で超一級品を見るより遥かにいい」と藻谷氏は話した。

さらに、藻谷氏は地域内のエネルギーを自給できれば、地方コミュニティはより強みを増すだろうと述べた。

「最初から自給率100パーセントである必要はありません。バックアップとして10のうち何か一つでも始めれば、別の9つを作り出す必要がある時の準備ができるということです」と藻谷氏は話した。

持続可能性と孤立主義

御立氏は同意するとこう続けた。「今、世界では孤立主義に傾く国が続出しています。これらの国は国民の人気を獲得するために食料、ワクチンやその他の医療資源などをすべて国内で保持しようとしています。安くても外国から石油を入手できない時が来るかもしれません。私たちは最低でも数年間は自力で生き残れるようでなければならないのです。」

御立氏と藻谷氏の議論によると、新型コロナウイルス以前の社会・経済モデルに戻り国の復興をさらに強く推進しても、将来直面するかもしれないパンデミックのような危機の解決策にはならないという。都市と地方の両方が全ての面でレジリエンスを向上するためには、より持続可能な取り組みの検討が求められている。

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