December 12, 2018
海辺の地方自治体がサイクリングの聖地へ(広島県尾道市)
尾道市は広島県の南東部沿岸にあり、瀬戸内海に面した都市だ。市街地北部の山沿いには、寺社仏閣など歴史的な建物が立ち並んでいる。
2015年には文化庁から日本遺産に認定され、また来年、尾道港は開港850年を迎える。尾道は歴史と伝統豊かな市なのだ。
「これは、歴史的な景観と古い商人の街の活気ある雰囲気を守るため、長年にわたって官民がたゆまぬ努力を重ねてきた結果なのです」と、尾道市の平谷祐宏市長は語った。
平谷市長は2007年に市長に就任すると、この努力を引き継ぎ、地域資源としての尾道の歴史と文化の効果的な活用をさらに進めた。
尾道では行政や民間単独で、または両者が連携したさまざまなリノベーションプロジェクトが進行中である。空き店舗を利用して新規事業を起こす起業家への市による支援も行われてきた。これまでにゲストハウスやパン屋、眼鏡屋、文房具屋、カフェ、ぬいぐるみ屋などの新しいビジネスがたくさん生まれている。
倉庫をリノベーションして作られた Onomichi U2は、ショッピングや食事、宿泊もできる施設で、民間により運営されている。この施設は、6つの小さな島々を経由して尾道と四国の愛媛県今治市との間、60キロメートルをつなぐ、自転車道付きの有料道路・瀬戸内しまなみ海道を旅するサイクリストの拠点として人気が広がっている。
瀬戸内しまなみ海道の起点であり終点でもある尾道が、サイクリストが好んで集う場として知られるようになってからしばらくたつが、何がきっかけでそうなったかはあまり知られていない。
2009年は瀬戸内しまなみ海道の10周年の年だった。市長を含め、市役所の職員は、周年行事の内容やこの道路の利用促進方法についてアイデアを出していた。
その中で、1人の職員が「サイクリングはどうでしょう?」とつぶやいた。さまざまな案が出された中、なぜかこの一言が気になった平谷市長は、夫人を誘って自転車に乗り、四国への旅に出たのだ。
こうして、尾道市と瀬戸内しまなみ海道のサイクリストの聖地としてのプロモーション活動が始まった。「10年前の職員の一言がなければ、何も始まっていなかったんですよ」と、平谷市長は振り返る。
瀬戸内しまなみ海道では10月28日、「サイクリングしまなみ2018」が開催され、620人ほどの外国人を含む、およそ7,200人が参加した。今年のイベントに平谷市長夫妻は電動自転車に乗って参加した。幅広い世代が楽しめ、環境に優しく、使いやすい乗り物としてアピールするためだ。
乗客の自転車を安全に輸送できることが特徴である、民間運営の客船サイクルシップ・ラズリも同日、デビューした。
尾道には他にもさまざまな輸送サービスがある。せとうちSeaplanesは瀬戸内海の観光飛行が可能で、尾道市内の港を離発着地点としている。また、宿泊が可能な豪華客船ガンツウも同様だ。
現在建て替え工事中の JR 西日本の尾道駅も、完成すれば地域の目玉になるだろう。新駅舎は、瀬戸内海沿岸部の主要駅の一つとして、2019年3月にオープンする。豪華寝台列車のトワイライトエクスプレス瑞風も、この尾道駅が停車駅の一つとなっている。
「尾道の良いところは、このコンパクトなエリアの中で、陸から島、海、空へと全てがつながっているところです」と、平谷市長は話した。
地域にもともとある資源の価値に気付くことができるのは、たいていの場合、外からやって来た人たちだ、と平谷市長が指摘するように、地域の伝統と特性を守るためには、外から人を呼び込むことが必要だ。
外から人や物が入ってこなければ、経済は縮小し、生活はつまらなくなり、地域資源の有効活用のために投資する余力がなくなる。地域のことを知り、気にかける人がいなければ、山々は荒れ、沿岸の環境も美しい景観も放置されてしまう。
「官民による連携が、同じ目的を追求するにあたってシナジーを生み出す大きな力になるのです」と、平谷市長は述べた。